義務としてのガーデニング | BRITISH MADE

Little Tales of British Life お父さんの義務としてのガーデニング

2014.07.14

義父は9時半~10時まで日の暮れるまで庭の仕事をしたそうです。

典型的な二軒長屋。公と私(プライベート)との境界としての前庭。周囲の住民が同じスタンダードで庭の景観を維持するのが暗黙の了解。前庭を手入れしていないと、隣人から「手伝いましょうか?」と声を掛けられることも。その意図は親切なのか、皮肉なのか。どちらにしても手入れを促されます。

暑いからではなく、朝4時から夜10時までの長時間、陽の輝く季節が英国のsummerを意味するとは前回申し上げたとおりです。この長さゆえに、英国紳士は仕事から帰宅しても、家事が残されています。

例として、拙義父(英国人)のライフスタイルの一部をご紹介します。20年前までビジネスマンだった彼を紹介する理由は、今でも典型的な英国のライフスタイルとして残っているからです。拙義父は1995年までロンドンに本部を置く、あるキリスト教会(新教の一派)に勤めていました。

毎日同じ電車に乗って片道1時間掛けて通勤していました。夏至の頃に帰宅するのは夕方の6時半。まだ幼かった拙妻たちと軽い夕飯を摂った後、義父は9時半~10時まで日の暮れるまで庭の仕事をしたそうです。
子どもたちの遊び場としての後庭、家と生垣で囲われたほぼ完全なプライベート空間。家族が気持ちよく使うために、週一回の芝刈りは必須。義弟の庭は1エーカー(4千㎡)ほどあるので、小型トラクター芝刈り機に乗って半日掛かるとのこと。

Dead Headという萎れた花びらを摘み取るとか、草むしりするとか、間引きするとか、土の状態をチェックし腐葉土を足して整えるとか、生垣のトリミングをするとか、次の季節の花、果物、そして野菜の作付けに備えるとか、基本的に農作業と同じですから、いくらでもやることはあるようです。2時間もすれば暗くなるので、作業後は事務所から持ってきた書類を抱えて仕事をしていたようです。

ガーデニングの中でも、芝刈りは重労働です。英国の中流家庭の棲む家は、赤レンガ建ての一軒家、あるいは二軒長屋が圧倒的に多く、それぞれの家には前庭と後ろ庭の二つの庭があります。この二つの庭、実は芝の種類が異なるのです。

公私の境界である前庭は景観重視なので、短めで繊細な芝生ですが、プライベート空間である裏庭は子供たちが遊ぶところでもあるので、長めで丈夫な芝生です。芝目が薄くなりそうな箇所には種を蒔くのですが、種類を間違えると虎刈りの芝面になってしまいます。
エンジン式芝刈り機。雨上がりの庭先でけたたましく鳴り響きます。刈っている最中にブレードに付着した芝を取り除かないと切れなくなってしまうのですが、そのときに事故が起こりやすいので要注意。
20年以上使い込んだウェリントン・ブーツ。19世紀のウェリントン侯爵が開発の起源。 革製からゴム製になったのは1850年代で、第一次大戦では塹壕で作業する兵士のためにさらに改良されました。英国では庭仕事、農業、そして郊外散歩の必須アイテム。
また、芝刈りにはエチケットも求められます。土曜日の午前中は近所が遅くまで眠っているので、騒音を立てない配慮をします。日曜日の午前中は教会で礼拝を受け、サンデー・ランチを食べた後に、ウェリントン・ブーツを履いて眠気覚ましに芝刈りです。芝刈りで立ち昇る草いきれも英国の夏に欠かせぬ風物詩です。


2014.07.16
Text&Photo by M.Kinoshita

plofile
マック 木下

マック木下

ロンドンを拠点にするライター。96年に在英企業の課長職を辞し、子育てのために「主夫」に転身し、イクメン生活に突入。英人妻の仕事を優先して世界各国に転住しながら明るいオタク系執筆生活。趣味は創作料理とスポーツ(プレイと観戦)。ややマニアックな歴史家でもあり「駐日英国大使館の歴史」と「ロンドン の歴史散歩」などが得意分野。主な寄稿先は「英国政府観光庁刊ブログBritain Park(筆名はブリ吉)」など英国の産品や文化の紹介誌。

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