2016.01.23

チームの一部になる 〜英国クラブサポーターのユニークなアイデンティティ〜

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多くのイングランドのフットボールファンは、自分が応援するクラブを選ぶのではなくて、自然にそのチームのサポーターとして生まれる。そして、そのルーツからは死ぬまで離れられない。

僕も同じだ。例えば、僕は自分の意思で「マンチェスター・ユナイテッド」というクラブチームのサポーターになると選んだことはない。ただ記憶にあるのは、子どもの頃、誕生日やクリスマスに「マンチェスター・ユナイテッド」のチームシャツをプレゼントされたり、同チームのスター選手、ライアン・ギグスのポスターが部屋に貼られたりしていた。僕の両親はマンチェスター・ユナイテッドのサポーターだった。だから僕も自然と、同じチームのサポーターになったのだ。

成長するにつれ、どのチームのサポーターかということは、自分自身のアイデンティティを形成する上で、とても大きな意味を持つようになってくる。例えば、自分がサポートしているチームと友だちがサポートしている別のチームとの試合があった翌日のクラスルーム。自分のチームが勝ったときは素晴らしい気分に、負けたときは拷問を受けているような気分になるのだ。

サポーターのアイデンティティについての類似性と相違性

201601_EN05スタジアムの外では子どもたちがミニゲームを楽しんでいる
ある集団に所属するということは、単に類似性があるというだけではなく、自分とは違う興味を持っている人たちとの相違性があるということでもある。フットボールファンの世界では、対戦相手が必要だという意味において、自分とは違う誰か(相手チームのサポーター)が、必要になることもある。

そのため、イングランドにある全てのフットボール競技場での大合唱は、サポーターがチームを応援する為だけでなく、相手チームを揶揄する為にも起こるのだ。

話し方のアクセントや飲みもの、そしてファッションなどの相違性は少しずつ、チームのサポーターとしての自分に影響を与えてくる。普段使うスラングや、飲めるビールの種類、ポロシャツのブランドは、そのチームのサポーターとして自覚するための言動のひとつだ。例えば、「ニューキャッスル・ブラウンエール」を飲んでいればニューキャッスル・ユナイテッドのサポーターだし、「フレッドペリー」の赤紫色と青色のシャツを着ていればウェストハム・ユナイテッドのサポーターだとすぐにわかるのだ。

長い歴史は“所属する”という感覚を生み出す

201601_EN06応援に熱が入るサポーターたち
長い歴史によって、英国のフットボール文化は活性化してきた。そしていま、英国から遠く離れた日本でも、サッカー文化が発展を続けている。サッカージャーナリストとして知られるジョナサン・ウィルソン氏は「チームをサポートすることは、そのチームを自分の家のように、そして家族のように思うこと、そして自分を代々続くクラブチームの代表だという感覚を持つこと」と語っている。

多くの英国のクラブチームは、労働階級の共同体によって有機的に成長してきた。労働者たちにとっては、過酷な毎日から逃れるために必要な娯楽だったのだ。いまや世界的に有名になった「マンチェスター・ユナイテッド」も、もともとは、鉄道会社の社員たちによる「ニュートン・ヘルスヒース」と呼ばれるチームだった。

企業は、それらの全てのチームを財政的に支援することはなかった。そのときの選手たちは、勤務時間外にフットボールを楽しむただの同僚たちだった。一方日本では、企業によるチームは親会社の一部であるかのように支援されている。そのため、サポーターに育てられて発展するという機会が奪われている、という側面もある。

日本のサッカーは、1993年にプロリーグが発足したことにより、大きな発展を遂げてきたが、1888年にプロリーグが発足した英国のフットボールと比べたら、まだまだ序盤。新しいチームが次々と生まれ、チームの統廃合も進み、リーグ形式も変化し続けている。

表現の自由がアイデンティティの発展を可能にする

201601_EN07スタジアムで飲むビールは格別
それに加えて日本では、サポーターの言動に敏感だ。英国で2つのチームのサポーターたちが敵対している間にも、日本では、当局により迅速に事態が収拾されている。

例えば、Jリーグのチームのひとつ「ギラヴァンツ北九州」のファンたちは、試合で声援を送るとき「ぶちくらせ」という言葉を使う。そのことに対して、チームに苦情が寄せられたのだ。「ぶちくらせ」というのは「倒せ」という意味の方言だが“過激すぎて”ふさわしくないという。

もちろん、フットボールは常に各国の文化を反映する。“サッカー文化”というものはすぐに作れるものではない。ただし、日本のサッカーは少しずつ歴史を積み上げてきている。そして日本のファンも「サッカーチームを応援することは、ただ単にピッチにいる選手たちに声援を送ることだけではない」と、分かってきているのだと思う。


Text by S.Carroll / ショーン・キャロル

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