2016.03.24

BM RECORDS TOKYOへようこそ 花曇りの「クラウド・ナイン」

去る3月8日、“5人目のビートル”と呼ばれたジョージ・マーティンが惜しくも90歳でこの世を去りました。ポール・マッカートニーは「僕にとって第二の父と言える人だった」と彼の死を悼むと、後日に「ワン・オン・ワン」ツアーの開始を発表して、再びロードへの旅立ちを宣言しました。さらに先日は、以前にかのマイケル・ジャクソンによって買収されたザ・ビートルズの楽曲版権(そう、実はアメリカにおけるビートルズの楽曲権利はマイケルが所有しているのです!)を買い戻す手続きを始めたという報道が流れるなど、相変わらずビートルズ周辺は様々なニュースが届いてきます。

さて、そんなビートルズですが去る2月25日はジョージ・ハリスンの誕生日でした。生きていれば73歳だった彼は、惜しくも2001年に肺がんと脳腫瘍のため58歳という早すぎる年齢でこの世を去りました。
先ごろ、ジョージ関連で「GEORGES FEST:ジョージ・ハリスン・トリビュート・コンサート」(ソニー。発売中)というパッケージがリリースされました。これはジョージの息子であるダニー・ハリスンが中心となって、14年9月28日にロサンゼルスで行われたジョージのトリビュート・コンサートの模様を収めた作品です。

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本編にはブライアン・ウィルソン(ビーチ・ボーイズ)、アン・ウィルソン(ハート)といったベテランから、ノラ・ジョーンズ、ベン・ハーパー、ニック・ヴァレンシ(ザ・ストロークス)、ブランドン・フラワーズ(ザ・キラーズ)といった(当時)35歳のダニーと親交のあるミュージシャンや、ダニーと同世代の仲間を含む豪華な顔ぶれが参加しています。
またペリー・ファレル(ジェーンズ・アディクション)やイアン・アベストリー(ザ・カルト)ザ・フレーミング・リップスといった、80年代に一世を風靡したアーティストのステージを観ることもできます。また変わり種としてはマイケル・ジャクソンのパロディ・ソング(懐かしの「Eat It」ですね(笑))で人気を博したアル・ヤンコビックの(意外なまでの)熱唱も聴けます。

セットリストはビートルズからソロ、そしてボブ・ディランらと88年に組んだ覆面バンド“トラヴェリング・ウィルベリーズ”へと至る、ジョージのキャリアを一望する構成となっています。ちなみにジョージのビートルズ作品と言えば「タックスマン」、「サムシング」、「恋をするなら」、「ヒア・カムズ・ザ・サン」などで、いずれもこのライブで演奏されています(※ただしやはり代表曲である「ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウィープス」は何故か演奏されていないけれど)。

2枚組CDの通常盤もありますが、やはりここは全CD収録曲のライブ映像が楽しめる完全生産限定盤を購入したいところです。ダニーは気づけば父によく似た風貌を持った大人に成長していて、自らギターを弾き歌い、本編を頼もしく進行させていきます。ライナーノーツに本秀康氏が寄稿したコメントの通り“渾身の親孝行”と言える働きっぷりです。天国のジョージもきっと「よくやってくれたなあ」とご満悦なのではないでしょうか。

George Fest – Handle With Care [Official Live Video]
ちなみに数多い見所のなかでも、個人的にはノラ・ジョーンズの歌声にシビれました。キース・リチャーズとのデュエットの際も思いましたが、彼女は誰を相手にしようが何処で歌おうが歌のスタンスが全くブレなくていいなあと思います。

ビートルズのなかでは最年少で、温厚な社交家として“静かなるビートル”と呼ばれたジョージは、バンド内で長く過小評価されていました。解散目前の末期あたりはジョンやポールからコテンパンにけなされていたというドキュメント記録もあるくらいに(泣)。それでもインド音楽や電子音楽に傾倒し、バンドの後期から解散直後にはその類稀な才能を開花させたのは多くの方が知る通りです。

彼のソロ名盤と言えば「オール・シングス・マスト・パス」で、そこに収録されていた「マイ・スウィート・ロード」がソロ名曲として名高いのですが、私が個人的に昔から好きで、最近も「GEORGES FEST」を観る前から、何だかやたらと聴いていたジョージのアルバムがあります。それが87年にリリースされた「クラウド・ナイン」なのです。

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このアルバムはそれまでしばらくの間、アルバムへの評価とセールスがイマイチ振るわなかったジョージが5年振りにリリースしたアルバムでした。ジョージとの共同プロデューサーとして参加したジェフ・リン(ELO)の功績が大きかったのか、大好きなブルース、ロックンロール、ポップスを自身のセンスでまあえらくのびのびと演奏しています。エリック・クラプトン、エルトン・ジョン、ビートルからはリンゴ・スターがゲスト参加したことでも話題となりました。
不敵なサックスとスライドギターに乗せて啓示的なラブソングが歌われる一曲目の「クラウド9」からもうたまりません。
アルバムジャケットでは髭をたくわえ、ミラーレンズのグラサンに、不可思議なプリントのボタンシャツを着て白い歯を見せる、精力的なイメージのジョージが見られます。右肩から変則的に下げたグレッチのギター“デュオ・ジェット”は、彼がビートルズ初期に愛用していたものでした。そう、このアルバムで彼は思い切りルーツ回帰でありビートルズ回帰と、ビートルズのセルフオマージュを行っています。それをズバリ象徴しているナンバーが“かつて僕らがFABと呼ばれていた頃”と歌う「FAB」です(※かつて“FAB FOUR”というビートルズの愛称があったのです)。

When We Was Fab (George Harrison)
そして87年に全米チャート1位に輝き、日本でもよく流れていたシングル曲の「セット・オン・ユー」が素晴らしいのです。

George Harrison – Got My Mind Set On You Official Video
この曲はジョージのオリジナルではなく、アメリカのR&B歌手だったジェイムズ・レイが62年に歌ったナンバーのカバーです。

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「お金も時間もかかるけど、僕は君に決めたんだ」というシンプルかつウィットに富んだロックンロールなラブソングです。原曲はえらくラテンというかカリプソ風味なアレンジですが、明るいなかにもどこか悲哀を感じさせるメロディラインとジェームズの歌声がいいですね。
一説にはジョージがまだ幼かった息子のダニーに歌って聞かせたところ気に入ったことがきっかけで収録されたとのこと。前述の通り、結局このシングルは全米チャート1位を獲り、ジョージ完全復活の狼煙となったわけですから、ダニー、この頃から何気に親孝行だったのかもしれません。

この曲がヒットした当時はまだ日本でも洋楽人気が全盛で、たしかこの曲のビデオは小林克也氏の「ベストヒットUSA」か、マイケル富岡(!)とセーラの両氏がVJだった「MTV」(※一時期、MTVの公式ライセンス番組がテレ朝系で放送されていたのです)のどちらかで初めて観たと思います。

私、ジョージの「セット・オン・ユー」って、ロックンロールなラブソングとして、今でもマイベストの上位に入るほど好きです。そしてこの曲の他にも「サムプレイス・エルス」や「ブレス・アウェイ・フロム・ヘブン」といった佳曲が入っている「クラウド・ナイン」は、なぜか春先になると特に聴きたくなるのです。
そろそろ桜が咲くかな、咲いたなという日の昼間や、(ジャケ写の通り、クラウド=雲なだけに)花曇りの日なんて、特によくマッチします。というか、なんだか今年はこのアルバムが一層古く感じないというか、殊更モダンに聴こえるんです。よかったら皆さんも春先に試してみてはいかがでしょうか? 
あ、でも、あくまで個人的な感想ですから苦情は受け付けませんので、悪しからず(笑)。

温かみのあるメロディに乗せて、祈りや心の機微を歌い上げたジョージ・ハリスンの名曲たち。ジョンもポールももちろん素晴らしいのですが、あらためてジョージの魅力に触れてみる春先というのも、粋というか、ちょっとオツではないでしょうか。ではまた!


Text by Uchida Masaki


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内田 正樹

内田 正樹

エディター、ライター、ディレクター。雑誌SWITCH編集長を経てフリーランスに。音楽、ファッション、演劇、映画、フードと様々な分野におけるインタビューや編集制作全般に携わる。編著書に『椎名林檎 音楽家のカルテ』がある。サンデー毎日で「恋する音楽」を連載中。NTT DOCOMO『dヒッツ』にてプレイリストを月2回提供中。テレビ朝日の配信チャンネル「LoGiRL」ではシンガーのハナエとともに毎週木曜日の生番組にレギュラー出演中。

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