2016.05.27

追悼ガイ・ハミルトン

音楽界の巨星プリンスが鬼籍に入った。学生時分、音楽のみならず、ファッションにおいても相当な影響を受けた人物だ。しかしながら、今回はそのプリンスに関する記述ではない。彼が逝去した4月21日の前日、同じく鬼籍に入った映画監督ガイ・ハミルトンについてである。

ガイ・ハミルトンを語る上で外せないのは、代表作として名高い007 シリーズであろう。ショーン・コネリー、ロジャー・ムーアと2 人のジェームズ・ボンドを演出し、計4作で監督を務めている。とりわけ「黄金銃を持つ男」は記憶に残る作品で、ボンドの敵役に回るクリストファー・リーの圧倒的な存在感が際立っている。のちに彼はスターウォーズシリーズでもドゥークー伯爵として活躍することになる。残念ながらクリストファー・リーも昨年亡くなってしまったが、機会があれば彼の特集もしたいくらい好きな英国人俳優である。横道にそれてしまったが、ガイ・ハミルトンは、「地中海殺人事件」では名探偵ポワロ、「クリスタル殺人事件」ではミス・マープルと、世に知られた名探偵たちを演出し、サスペンスやミステリーも得意とした映画監督である。そんな映画界に貢献した人物の訃報が注目されていないことを残念に思い、追悼の意も兼ねて執筆にいたった訳である。

さて、そのガイ・ハミルトンが監督した秀作の中から抜粋したのは、「パーマーの危機脱出」というスパイ映画だ。この作品は、“アンチジェームズ・ボンド”というテーマのもとに製作されたシリーズの第二作目にあたる。”アンチジェームズ・ボンド”と謳いながらも、007 シリーズと同じスタッフで製作されている、いかにもイギリス人らしい少々ひねくれたコンセプトである。

マイケル・ケイン扮する主人公ハリー・パーマーは、ジェームズ・ボンドと同じく諜報員だが、派手に銃をぶっ放したりもしなければ、豪快に高級車を乗り回したりもしない。バス、電車移動は当然のことながら、銃の使用許可をもらえないと、そもそも携帯すら許されないのである。経費についてとやかく言われる場面が見受けられたり、昇給の交渉をする発言があったりと、なんとも現実的な会話がよく飛び出すのも面白い。また、鋼のような身体に高級スーツを纏うボンドに対し、パーマーはずいぶんと控えめだ。スーツはミディアムグレーやダークブルーの無地を好み、ボディコンシャスなサイジングとはほど遠い。あまりにシンプル過ぎて記憶に残りづらいくらいだ。だが、裏を返せばそれこそがスパイの原点であり、極力気配を消すことに努めた証なのではないだろうか。さらに、服装に関するこのようなエピソードもある。代名詞であるパーマーの眼鏡について、“眼鏡をかけた主人公などコメディアン以外にありえない”と、映画会社から厳しく追及されたとマイケル・ケインも当時を振り返り語っている。今でこそ別段普通のことに思われるが、1960 年代当時の常識がうかがえる話である。
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紹介しておいて肩身が狭いのだが、これらの作品はあまり市場に出回っておらず、入手するのに一手間かかった。ちなみに、この「パーマーの危機脱出」の原作は、レン・デイトンの「ベルリンの葬送」という作品だ。原作では、主人公に名前は与えられておらず、“わたし”とだけ記されている。劇中では言及されていない服装の詳細や、煙草の銘柄など、より確かな情報も確認することができる。映画と原作の違いについて比較ししてみるのもなかなか面白い。
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Photo by Yuji Sawada
Text by Shogo Hesaka

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部坂 尚吾

部坂 尚吾

1985年山口県宇部市生まれ、広島県東広島市育ち。松竹京都撮影所、テレビ朝日にて番組制作に携わった後、2011年よりスタイリストとして活動を始める。2015年江東衣裳を設立。映画、CM、雑誌、俳優・タレント・文化人のスタイリングを主に担い、各種媒体の企画、製作、ディレクション、執筆等も行っている。山下達郎と読売ジャイアンツの熱狂的なファン。
江東衣裳
http://www.koto-clothing.com

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