ポール・マッカートニーのオールタイム・ベスト盤 | BRITISH MADE

BM RECORDS TOKYOへようこそ ポール・マッカートニーのオールタイム・ベスト盤

2016.06.23

圧倒的な才能とドラマチックな人生

「すべてが名曲。すべてが伝説」。何と秀逸なキャッチコピー。私は大好きです。レコード会社の担当(なのかな?誰だか知らないけど)、エラいと思います。
ポール・マッカートニーの45年分のソロキャリアからヒット曲を網羅したベスト・アルバム『ピュア・マッカートニー』が先ごろリリースされました。
20160623_bmr_1
私はCD4枚組(67曲収録!)の完全限定生産盤を購入しました。そして、ここ数日、ずっと繰り返し聴いています。 この『BM RECORDS TOKYOへようこそ』では、これまでもビートルズのベストやジョージ・ハリスンのトリビュートアルバムについて取り上げてきました。でも白状すると、私がポールの音楽を心からいいなあと思うようになったのは、大分大人になってからでした。
私事ながら十代から二十代をアマチュアのバンドマンとして過ごしていた自分はロック一辺倒で、ビートルズは好きだったけれど、彼らのソロはどちらかというと明快なロックンロールを奏でていたジョン・レノン(そう、愛と平和のイメージというよりも、私の好きなジョンはシンプルなロックンローラーのイメージでした)を好んで聴いていました。

もちろん好きな曲も多かったし、いまはポールの根っこも彼の楽曲の多くもものすごくロックンロールだと理解しているのですが、ともかくしっかりと腰を据えて聴いたのは恥ずかしながら二十代後半のことだったと記憶しています。つくづくセンスのなかった昔の自分を張り倒してやりたくなりますが(泣)、様々なポップスを、ロックを、その他の音楽を聴けば聴くほど、アレンジ、メロディ、リリック、インスゥトルメンタルといったそれぞれの視点で、彼の凄みをどんどん思い知っていきました。

いまさら私が言うまでもなく、ポールはポップスの天才です。“天才”なんて言葉は容易く乱用しないほうが(特にライターは信用に関わるので)身のためなのですが、彼を天才と呼ぶことにさほど異論は飛んでこないでしょう。この『ピュア・マッカートニー』を聴くと、あらためてその才能に息を呑んでしまいます。
そして本作に付属の60ページに渡る解説と歌詞対訳が記されたブックを読むと、やはり先日この枠で取り上げたエリック・クラプトンのように、彼もまた幾多の悲しみを超えながら音楽の冒険を繰り返してきたことがよく分かります。

音楽史を変えてしまったビートルズという巨大なバンドの解散を経ても、ポールはほとんど休むことなく楽曲を発表し続けてきました。その大きな支えになったのが、愛妻であり音楽的パートナーでもあったリンダ・マッカートニーの存在でした。今回のベスト盤にもリンダに捧げた「メイビー・アイム・アメイズド」、「やさしい気持」「マイ・ラブ」や、当時すでに乳がんのため余命いくばくもなかったリンダがコーラスを担当した「グレイト・デイ」など、リンダにまつわる曲が数々収録されています。リンダはこのレコーディングの翌1998年、惜しくも帰らぬ人となってしまいました。
ビートルズ後期は政治的な関心をバンドに持ち込むこともあったポールでしたが、解散後の音楽はどちらかというと日常のなかで紡がれていきました。「故郷のこころ」、「ジェット」、「イングリッシュ・ティー」、「夢の旅人」、「ビップ・バップ」などがそうです。
ウィングスは、ビートルズの実質的な発起人がジョンだったことを思い出したポールが、初めて自発的に組んだ自分のバンドでした。そんなビートルズ時代の思い出であり、ジョン・レノンとの確執や彼への敬意にまつわる曲もあります。「トゥー・メニー・ピープル」、「バンド・オン・ザ・ラン」などですね。音楽活動を休止していたジョンが、この曲を聴いたことで奮起して活動を再開したという「カミング・アップ」も収録されています。
007ファンとしては「007 死ぬのは奴らだ」についても触れておきましょう。ブックの解説によると、自身もアストン・マーティン(代表的なボンドカーブランド)に乗っていたポールは、この主題歌のオファーをむちゃくちゃ喜んでいたのだそうです。ロジャー・ムーア扮する三代目ボンド第一作目の主題歌となった短いプログレ組曲みたいなこの曲は、のちにガンズ&ローゼズのカバーでも脚光を浴びました。コンサートでも大いに盛り上がる一曲ですね。
そして大ヒットしたコラボ曲としてはマイケル・ジャクソンとの「セイ・セイ・セイ」とスティービー・ワンダーとの「エボニー・アンド・アイヴォリー」ですね。いずれ劣らぬ名曲です。最近ではカニエ・ウエストとのコラボが話題となっています(若いよなあ……)。
ポールは2013年に新作『NEW』をリリースしました。その中からの曲も今作には入っています。新曲のテンションが名だたる名曲と並んでもまったく聴き劣りしないあたりも、いまだバリバリなポールの現役感を証明していると言えるでしょう。
2013年の来日公演、私は大阪で観ました。後に多くのマスコミで報道された通り、本当に一滴の水も飲まず、三時間近いセットリストをぶっ通しで歌い続ける(しかも楽器も弾き続けて!)姿には感動を超えて驚愕でした(笑)。先日亡くなったプリンスもステージでは一切水を飲まなかったし、ミック・ジャガーやマドンナもそこまであからさまには水分補給の瞬間を見せません。欧米のライブエンターテインメントではそのほうが美徳とされているようですね。

残念ながら2014年の来日はポールの体調不良をおこし直前で中止となってしまいましたが、2015年には再度来日してリベンジ。ビートルズから49年ぶりとなった武道館公演も行いました。
今年は『ワン・オン・ワン』ツアーを敢行して、何と51年ぶりにビートルズの『ア・ハード・デイズ・ナイト』をプレイして話題を呼んでいます。
10月にはこの枠でも紹介したレジェンドだらけの夢のロックフェス『Desert Trip』への出演も告知済み。来日公演にも期待が高まります。

あ、そういえば、ポールの公式LINEアカウント(日本語)があるのをご存知ですか? これが案外更新されていて、ふとした時にポールから着信があって笑えます。デヴィッド・ボウイ逝去の際は、哀悼のメッセージも送られてきました。
イギリスのEU離脱の可能性がとりだたされている件(※6/23に国民投票で離脱が決定)についてはフランスのメディアに対し「最後には最良の答えが出るのでは?」とコメントしたことから、ビートルズナンバーにかけて「ハローかグッバイかわからない(ハロー・グッバイ)」、「なるようになるさ(レット・イット・ビー)」という見出しで報じられていたポール。もしかしたらこの件についてもLINEが飛んでくるかも知れません。
20160623_bmr_2
最後にポール本人ではないですが、ファッション関連の話題をひとつ。彼がリンダとの間にもうけた次女といえば、いまやトップデザイナーの仲間入りを果たしたステラ・マッカートニーですが、何と来る11月に初のメンズ・コレクションを発表するとのこと。12月には店頭に並ぶそうなので(※日本上陸のアナウンスはまだありませんが)チェックしてみたいと思います。
20160623_bmr_3
というわけで、「できるだけ気軽に楽しんでほしい」とポール自らが選曲を手がけたこの『ピュア・マッカートニー』、きっとあなたの生活を豊かにしてくれるはずの珠玉のチューンが詰まった名盤として、強くお薦めします。ではまた!

Text by Uchida Masaki

plofile
内田 正樹

内田 正樹

エディター、ライター、ディレクター。雑誌SWITCH編集長を経てフリーランスに。音楽をはじめファッション、映画、演劇ほか様々な分野におけるインタビュー、オフィシャルライティングや、パンフレットや宣伝制作の編集/テキスト/コピーライティングなどに携わる。不定期でテレビ/ラジオ出演や、イベント/web番組のMCも務めている。近年の主な執筆媒体は音楽ナタリー、Yahoo!ニュース特集、共同通信社(文化欄)、SWITCH、サンデー毎日、encoreほか。編著書に『東京事変 チャンネルガイド』、『椎名林檎 音楽家のカルテ』がある。

内田 正樹さんの
記事一覧はこちら

同じカテゴリの最新記事