チャーリー・ワッツ、ジャズの新作をリリース。 | BRITISH MADE

BM RECORDS TOKYOへようこそ チャーリー・ワッツ、ジャズの新作をリリース。

2017.05.11

ストーンズの頼れる男、その胸に秘めた情熱。

ザ・ローリング・ストーンズのドラマーであるチャーリー・ワッツが新作アルバム「チャーリー・ワッツ・ミーツ・ザ・ダニッシュ・ラジオ・ビッグ・バンド」(ユニバーサル)をリリースしました。そこで今回は頼れる男、チャーリーついて紐解いていきましょう。
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1941年にロンドンで生まれた本名チャールズ・ロバート“チャーリー”ワッツは、10代の頃にジャズと出会い、デザイナーとして広告会社に勤務するかたわらクラブでプレイする日々を過ごしていました。

やがて当時ロンドン・ブルース・シーンの顔役だったアレクシス・コーナーや、ブライアン・ジョーンズ(故人。ストーンズの初代リーダー)やミック・ジャガー、キース・リチャーズらとの出会いを契機にブルースをプレイするようになり、ストーンズへと合流し、63年にデビューを果たします。
今日まで続くストーンズ特有のスイング(揺らぎ)するビートは、元々スイングジャズのドラマーだったチャーリーのプレイに寄るところが大きいのです。チャーリーのプレイスタイルを注意深く観てみましょう。レギュラーグリップという古風なスティックの握り方で、左手がスネアを叩く時はハイハットの音が止まります。
通常、ロックやポピュラーのドラムではまず止まりません。この彼のスタイルこそが、ストーンズの特異なグルーヴの礎となっているのです。

ドラムのプレイスタイルのみならず、アウトロー集団だったストーンズの中において、チャーリーはその人柄も我が道を突き進んでいます。まずメンバー中、唯一今日まで初婚で貫いてきた愛妻家です。そして英国紳士たる、素晴らしいスーツの着こなしで知られています。ロンドンにお気に入りのテーラーが数件あるそうで、古き良き古き良きサヴィル・ロウの仕立てや、50年代のハリウッドスターやシンガーに代表されるWASPのボストン・スタイルが好みのようですね。
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初期の頃はステージでもジャケット姿でしたが、ひと頃からは半袖シャツ姿になりました。

そして何より寡黙な内に秘めた闘志です。かつて、酒に酔って「俺のドラマーよぉー!」と絡んできた若き日のミック(何やってんだか……)を、敢えて髭を剃り、スーツに着替えてと身支度を整えてから「二度とそんな口を叩くな!」と言って見事に殴り倒したというクールなエピソードは、ストーンズファンには有名です。

24時間ぶっ通しのスタジオ作業では、手が血まみれでも顔色ひとつ変えなかったとか、05年のツアーでは癌の治療中にも関わらずステージに立ち続けたとか、様々な伝説の持ち主です。メンバーはそんなチャーリーに絶大な信頼を寄せています。特にキースは、チャーリー無くしてストーンズは在り得ないとまで断言しています。

さらにチャーリーはバンドの舞台美術やコンサートグッズ、ジャケットなどのデザイン監修にも携わっています。さすがは元デザイナー、アートのセンスだって抜群というわけです。一時、80年代にドラッグとアルコールの依存症に悩まされましたが、75歳の今日も、世界中のステージで2時間以上ものプレイを聴かせてくれています。

正直、ここまでの流れでも分かるように、チャーリーはキースのような生粋のブルースやロックンロール好きでもなければ、ミックのようなポップスターが性に合うタイプでもありません。ではなぜビル・ワイマンのように脱退をしなかったのでしょうか?
多分、特に公言しないまでもメンバーを愛していて、どこかで「俺がいなければ」と感じているからだと思うのです。静かだけど頼れるストーン。チャーリーとはそういう人物だと思うのです。
そんなチャーリーですが、86年の「ライブ・アット・フルハ・タウン・ホール」から不定期にブギウギやジャズのアルバムを発表し、ライブやテレビ出演をしています。
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先ごろリリースされた前述の新作「〜ザ・ダニッシュ・ラジオ・ビッグ・バンド」は、タイトル通り2010年に行われたデンマークの名門バンド“ザ・ダニッシュ・ラジオ・ビッグ・バンド”との共演を収めたライブレコーディング盤です。チャーリーはデザイナー時代に一時仕事でデンマークに赴任していたそうです。そんな縁が両者を引き合わせたのかもしれません。チャーリーが参加した映像は残念ながら見当たらないので、ザ・ダニッシュ・ラジオ・ビッグ・バンドのリンクを貼っておきます。
幼馴染をベースに迎え、かの名ドラマー、エルヴィン・ジョーンズにちなんだ「エルヴィン組曲」やスタンダード、ストーンズの代表曲「サティスファクション」、「無情の世界」、「黒くぬれ!」をノリのいいアレンジで聴かせます。熱くも優雅で上品な極上のスイングはストーンズファンならずとも、必ずや楽しめることをお約束します。

近年はロバート・グラスパーを筆頭に新世代のジャズ・プレイヤーたちが人気ですが、こうしたオーセンティックなスイングジャズもやはり味わい深いものです。なおストーンズは南米ツアーの舞台裏に迫ったドキュメンタリー映画のDVD「オレ! オレ! オレ! ア・トリップ・アクロス・ラテン・アメリカ」がリリースされたばかりです。この作品、以前も紹介しましたが、本当に素晴らしい音楽ドキュメンタリーなので必見です。
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さらに先日、ストーンズは今年のヨーロッパ・ツアー“No Filter”の開催を発表しました。
転がる石の冒険はまだまだ止まりそうにありません。チャーリーのアルバムと併せて、こうしたストーンズの最新動向もぜひチェックしてみて下さい。ではまた!

Text by Uchida Masaki

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内田 正樹

内田 正樹

エディター、ライター、ディレクター。雑誌SWITCH編集長を経てフリーランスに。音楽をはじめファッション、映画、演劇ほか様々な分野におけるインタビュー、オフィシャルライティングや、パンフレットや宣伝制作の編集/テキスト/コピーライティングなどに携わる。不定期でテレビ/ラジオ出演や、イベント/web番組のMCも務めている。近年の主な執筆媒体は音楽ナタリー、Yahoo!ニュース特集、共同通信社(文化欄)、SWITCH、サンデー毎日、encoreほか。編著書に『東京事変 チャンネルガイド』、『椎名林檎 音楽家のカルテ』がある。

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