2018.05.10

BM RECORDS TOKYOへようこそ ザ・フー、伝説のライヴ音源をリリース。

まさにロックの醍醐味。豪放な名演、50年目の解禁。

先日、ギターブランドの老舗であるギブソンが、日本で言うところの民事再生法を米国裁判所に申請しました。負債は最大5億ドル(約550億円)に上るものの債権者の69%以上が再建に同意しているということです。

ニュースをよく読むと、経営破綻の主な要因は、主幹事業の楽器の落ち込みよりも、むしろアンプや音響、電子機器への投資・買収による債務による圧迫だった(要は拡大経営に失敗した)ようですが、ともあれ、昨今のヒップホップの台頭と紐付けて、ロックの衰退を象徴する出来事だといった報道も見受けられました。実際、かのエリック・クラプトンも聴覚障害で気弱になっているせいもあるのか、最近になって「ギターは衰退していくカルチャーなのかも」といった趣旨の発言をしていました。私ももちろんヒップホップだってたくさん聴きますが、ロック育ちの身としてはちょっと残念な話です。

ギブソンと言えばレスポール。ツェッペリンのジミー・ペイジやガンズのスラッシュ、ランディ・ローズなど多くの有名なギタリストが愛用してきました。そしてザ・フーのピート・タウンゼントもその一人です。近年の写真ではフェンダーのストラトキャスターを持った姿が多いようですが、彼が身体全体を使って、特に右腕を大車輪のようにぶん回すストロークでレスポールやSGを弾く姿にはいまでもシビれます。こちらは1970年、ワイト島の模様です。はい、キテます。キマりまくっています。
やや前置きが長くなりましたが、先ごろ、ザ・フーのライヴ盤『ライヴ・アット・フィルモア・イースト 1968』(ユニバーサル)がリリースされました。
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本作はザ・フーの最も有名な未発表ライヴ音源のひとつです。ファンの間ではこれまでブートレク(海賊版)で知られていたものでしたが、ステージから50周年を迎えた2018年、ついに待望の公式リリースと相成りました。

1968年4月6日、のちにロックの聖地として数えられたニューヨークは “フィルモア・イースト”にて録音されたステージをCD2枚に収録しています。

DISC 1には「アイ・キャント・エクスプレイン」、「ハッピー・ジャック」、「アイム・ア・ボーイ」といった初期のヒット曲、定番の「サマータイム・ブルース」、そしてザ・フーの演奏としては初の公式リリースとなる「カモン・エヴリバディ」を含むエディ・コクランの3曲のカヴァーが収録されています。
さらにストーンズのバージョンでもお馴染みの「フォーチュン・テラー」、当時の最新作『ザ・フー・セル・アウト』からの「いれずみ」(※もちろん原題は「TATOO」ですが、このひらがなの邦題、好きです(笑))、「リラックス」、1974年に『オッズ・アンド・ソッズ』に収録されるまで未発表だった「リトル・ビリー」などが収録されています。
そしてDISC 2には、何と33分(!)にも及ぶ「マイ・ジェネレイション」の壮絶なヴァージョンを収録。はい、つまりディスク一枚、1曲のみでぶっちぎってしまいます(笑)。
彼らはこのライブで、“フィルモア・イースト”においてヘッド・ライナーを務めた初のイギリスのアーティストとなりました(他にはオールマンブラザーズバンド、クロスビー・スティルス・ナッシュ&ヤング、アル・クーパー、レノン&ヨーコ、マイルス・デイヴィスなど多数)。代表曲からレア曲まで、ポップ的な要素からバキバキのロックバンドへと変貌する彼らの過渡期を捉えた貴重な記録盤です。

付属ブックレットの解説によると、当時4トラックに収められていた音源がバンドの倉庫から発掘され、それを現代の修復技術によって、重なっていた録音をパート別のトラックに剥がし分けて(!)蘇らせることが叶ったということです。すごいぞテクノロジー! ただ、それでも「恋のピンチヒッター」、「リリーのおもかげ」といった2曲の代表曲は、残念ながら断片しかテープが残っていなかったため修復が叶わなかったそうです。
それでもロックバンドの醍醐味を象徴していると言っても過言ではない、当時のザ・フーの豪快なプレイが十二分に楽しめるライブ盤です。本稿にYouTube(全てフィルモアの映像ではありませんが)を貼り付けましたが、
ともかく60年代後半〜70年代のザ・フー、ツェッペリン、ストーンズのライブは、音源はもちろん特に映像で絶対に観ていただきたい。もうねえ、訳の分からないパワーと迫力とカッコ良さが満ち溢れてまくっていますから!!
ちなみにいわゆるモッズに愛された彼らですが、ひとつファッショントリビアを記しておくと、ピートは90年代にコム・デ・ギャルソンのコレクションモデルを務めています。

常にバンド内で絶えなかった諍い。ドラッグ・トラブル。稀代のドラマー、キース・ムーンやベーシスト、ジョン・エントウィッスルの死去。ピートの難聴や逮捕。解散そして再結成と、紆余曲折の歴史をたどっている彼らですが、現在も活動中。私は2008年の武道館を観ましたが、それはもうパワフルなステージでした。繊細かつシニカルな文学性、ロックオペラを具現化した革新性、それを、フラストレーションをぶっ壊すようにとんでもない大音量でプレイする豪快さ。そんなザ・フーの魅力にあらためて触れてみてはいかがでしょうか?

文学性と革新性、そして豪快さ。たしかに現在のヒップホップはそれらをロックよりも多く担っているかもしれません。でも、だからこそ、ロック復権のカギもまた、こうした要素を持った、時代と向き合うミュージシャンが登場するか否かにかかっているような気がするし、無論、個人的にはその登場を夢見てやみません。

ではまた!

Text by Uchida Masaki

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内田 正樹

内田 正樹

エディター、ライター、ディレクター。雑誌SWITCH編集長を経てフリーランスに。音楽、ファッション、演劇、映画、フードと様々な分野におけるインタビューや編集制作全般に携わる。編著書に『椎名林檎 音楽家のカルテ』がある。サンデー毎日で「恋する音楽」を連載中。NTT DOCOMO『dヒッツ』にてプレイリストを月2回提供中。テレビ朝日の配信チャンネル「LoGiRL」ではシンガーのハナエとともに毎週木曜日の生番組にレギュラー出演中。

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