2018.08.23

ブリティッシュ“ライク” 人生100 年時代の可能性を示唆する、映画「輝ける人生」

映画「輝ける人生」
イングランド、サリー州の高級住宅街。主人公サンドラは、35 年間専業主婦として夫マイクを支え、定年後の余生の過ごし方を思い描いていた。しかし、彼の退職とナイトの爵位授与を祝うパーティーで、サンドラの親友とマイクとの不倫が発覚する。傷心したサンドラは、数十年間疎遠になっていた姉ビフを頼ってロンドンへ遁走(とんそう)する。ダンス、酒、ドラッグに興じ、愉快な仲間達と悠々自適に生活を送るビフ。久々の再会も束の間、自身との生活レベルや価値観の違いから、当初は拒絶反応を示すサンドラだったが、ビフの親友チャーリーとの出会い、そして若き頃に熱狂したダンスに再会することで、新たな人生の活路を見出していく。
物語の中心を担っているのは、イメルダ・スタウントン、セリア・イムリー、そして、僕の大好きな俳優ティモシー・スポールの3人だ。加えて、デヴィッド・ヘイマン、ジョアンナ・ラムレイなど、脇を固めている役者も素晴らしく、その存在を見逃すことはできない。老いてなお盛んという言葉があるが、活き活きとした年配英国人俳優たちの個性が光っていて、何とも言えぬ味わいがある。映画の中の世界だとわかっていながらも、まるでそのキャラクター、引いてはコミュニティが実存するかのような感覚に陥った。
映画「輝ける人生」
衣装について言及したいのは、ティモシー・スポールがダンスシーンで履いている“スペクテイターシューズ”だ。その名の通り、元来はクリケット、乗馬、ポロなどのスポーツ観戦用のシューズである。フルブローグのオックスフォードに白×黒のコンビネーション。または、白×茶の組み合わせが王道だが、稀にその他の配色も見られる。以前このシューズを撮影で使用する機会があったが、近頃はずいぶんと稀有な存在になってしまった。派生系のシューズはちらほらと見られたが、スタンダードな形を探すのに一苦労した。そんな苦い記憶が鮮明に残っている。その“スペクテイターシューズ”を履き、ラヴリーなポージングを披露しているティモシー・スポールにぜひ注目していただきたい。

続いて劇中における重要な役割を担っている音楽にも触れたい。例えば、“Le Freak”、“Ran Kan Kan”などの王道ナンバーをはじめ、ロック、ジャズ、ディスコ、マンボ、R&B など、多種多様なジャンルがダンスシーンと組み合わさっている。本編の台詞を拝借するならば、まさに”マッシュアップ”だ。これらが素晴らしい芝居を見事に助長しており、思わず体が揺れてしまう。

最後に、本作のロケーションについても紹介したい。本作では、幾度となくロンドンの町並みが登場する。中でも印象深いのは、サンドラとチャーリーがクリスマスの夜を過ごすSOHO でのデートシーンだ。実はこのシーンをはじめ、本作では基本的にゲリラ撮影を敢行している。つまり、自然の環境をそのまま背景として活かしている。職業柄、自身も撮影スタッフとして映画に参加することがあるが、こういった撮影では思いもよらぬハプニングが起こる可能性が十二分にある。さぞかし緊張する瞬間であったことが容易に想像できる。しかし、その甲斐あってか、両人は見事に街に溶け込んでいてしっくりくる。ちなみに彼らが食事をした店舗は、以前ロンドンの旅で紹介したレストランの付近であり、このシーンを目にしたときはつい高揚してしまった。先述したロンドンのシーンだけでなく、ローマにおけるシーンも重要性が高い。ネタバレになるため詳細は記述しないが、とりわけここでのビフの回想話は琴線に触れる。以前からイタリアにも足を伸ばしてみたいと目論んでいたが、この作品に背中を押され時を移さずローマ行きのチケットを購入した。

映画「輝ける人生」
その日暮らしを楽しみ、人生を謳歌しているように見える愉快な登場人物たち。悩みなどとは無縁のように取り繕っているが、それぞれが抱える現実の問題は決して容易ではない。その現実から目を背けることなく、真正面から受け止める老人たちの雄姿に心を打たれる。ダンスなど華やかな場面に目が行きがちだが、そんな彼らの背景をぼかすことなく、丁寧に描かれているからこそ、ただのエンターテインメントに収まらない物語の奥行きが感じられる。
映画「輝ける人生」

「輝ける人生」
8 月25 日(土)シネスイッチ銀座、新宿武蔵野館ほか全国公開
配給:アルバトロス・フィルム
http://kagayakeru-jinsei.com

©Finding Your Feet Limited 2017
2017 年 / イギリス映画 / シネスコ / 112 分 / 原題:Finding your feet
Text by Shogo Hesaka

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部坂 尚吾

部坂 尚吾

1985年山口県宇部市生まれ、広島県東広島市育ち。松竹京都撮影所、テレビ朝日にて番組制作に携わった後、2011年よりスタイリストとして活動を始める。2015年江東衣裳を設立。映画、CM、雑誌、俳優・タレント・文化人のスタイリングを主に担い、各種媒体の企画、製作、ディレクション、執筆等も行っている。山下達郎と読売ジャイアンツの熱狂的なファン。
江東衣裳
http://www.koto-clothing.com

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