2015.12.01

「時間を掛けてビルドアップしていくスタイルが自分には合っている」—マイ ケル・ヒル氏(Drake’s)インタビュー

マイケル・ヒル
イギリスの粋を感じさせる、華やかなタイやスカーフにシャツなどを扱うドレイクス。マイケル・ヒル(以下、マイク)さんは創業者マイケル・ドレイク氏から2012年にブランドを引き継ぎクリエイティブ・ディレクターを務める人物。実は父親もかつてロンドンにおいてネクタイブランドを手掛けていたというから、まさにタイのエスタブリッシュメント。幼いころからシルクに親しみ、青年時代はリチャード・ジェームスにてブランド作りのノウハウを学んだ新世代のクリエイターに、これまでの足跡とブランドへの情熱、日々のライフスタイルをうかがった。

–まず最初にマイクさんのバックグラウンドをお聞かせ下さい。

父親がネクタイブランドを手掛けていたことから、幼いころから物作りに近い場所で暮らしていました。当時、父のファクトリーは現在のテイトモダンの近くにあり、週末などはファクトリーのなかを走り回っていることも多かったです。ネクタイ生地を一杯に積んだ車に父と乗り込み、ファクトリーへ出掛けたことを今でもよく覚えています。生地が身の回りにあることが日常で、その頃からシルクの香りに包まれて生活していました。
スカーフ

–将来ネクタイ製造業に就くことは、早くから感じていたのでしょうか?

デザインというものに興味をもっていたのは確かです。幼いころに目の当たりにしていたファクトリーでの実作業だけでなく、歳を経るごとにネクタイ生産の背景にも感心を抱くようになったのです。学生の頃にはもっと幅広く物作りの世界で活動したいと考えるようになっていきました。

–よく多くの子どもが憧れるような“サッカー選手やミュージシャンになりたい”
という夢は抱かなかったのですか?

ネクタイ
両方ともモチロン興味はありました(笑)。ただ、そういう切っ掛けがなかったのでしょう。それに一瞬の輝きにすべてを賭けるという生き方よりも、長い時間を掛けてビルドアップしていくキャリアのほうが自分らしく感じたのだと思います。ネクタイ作りのように、いろいろなテキスタイルをニーズによって組みあわせたり、人との出会いのなかでいろいろ思考し作り上げていく生き方は、確かに自分らしいものだと感じています。

–学校を卒業してすぐこの業界に入ったのでしょうか?

ロンドン・カレッジ・オブ・ファッションで学んでいた学生時代の週末などは、ドルモアで働いていました。卒業してからはイタリアのコモにある2つの生地工場(マンテロとフェルモ フォサッティ)で経験を積み、それからロンドンに戻ってリチャード・ジェームスの門を叩きました。21〜26歳の約5年間をリチャード・ジェームスで働き、ドレイクスに入ったのはその後になります。
マフラー

–経験の場としてテーラーを選んだ理由は?

リチャード・ジェームスの当時の雰囲気をとても気に入っていたのです。20代のまだ若いころだったこともあり、サビルロウの老舗というよりは、伝統的でありつつも自分と同世代の顧客にもアピールのあるブランドに興味がありました。職人的でありながら非常にモダニズムを備えたところが魅力的だったのです。

–5年間のリチャード・ジェームス時代で得たものというと?

いろいろありますが、ひとつ取り上げるならブランドビルディングの重要性を学んだことでしょうか。自分たちのストロングポイントをいかにして顧客に伝えていくか。また自分たちは何を信じているかなどの精神的な部分を明確に表すことの大切さも学びました。今、ドレイクスのクリエイティブディレクターとしてブランドを任されていますが、リチャード・ジェームス時代に培った経験がドレイクスでの打ち出しに非常に役立っています。また、対照的にマイケル・ドレイクからは柔軟性の大切さを学んだように思っています。僕がドレイクスに入ったころ、会社はファクトリーとしての役割とドレイクスブランドのホールセラーとしての側面を持っていました。各国の顧客が要求してくる多様なリクエストに対し、様々な引き出しを用意しアレンジしていくことの重要性を知りました。
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–クリエイティブディレクターとして意識していることは何ですか?

ドレイクスとしてすべきことを導き出すため、今のトレンドやマーケットの反応、それにバイヤーの意見など、広い分野からの視点を大事にしています。もちろんネクタイやドレスシャツなどそれ自体は伝統的なアイテムなので、古い映画からインスパイアを受けることもあります。しかしその古典要素だけで作ってしまっては古臭いものに終ってしまいます。そこに現代的かつフレッシュなエッセンスを取り入れるべきだと考えています。マンチェスターにあるプリント工場、サフォークにある生地ファクトリーやスコットランドのニット工房、そして国外ではイタリアのコモなどを巡り、良いものを参考にして新しい何かを常に探しています。例えばこのグレナディン織りの生地ですが(と言って自身の締めているネクタイを手に取りつつ)この生地は1920年代のイタリア製織機を使ってゆっくり織られたものです。それ自体は非常にトラディショナルなものですが、モヘヤを入れることで現代的な素材感と軽やかさを備えています。ボタンダウンやインディゴ染めのイージーなシャツに合わせられるタイは、モダンセンスを備えた若い層にもアピールできるアイテムと自負しています。
マイケル・ヒル

–そんなマイクさんのライフスタイルをお聞かせ下さい。

僕は現在38歳で、ラッキーなことに素晴らしい伴侶と出会い幸せな結婚生活を送っています。子どもは2人。ロンドンは非常に良い街でとても愛しています。仕事をするには最適な場所ですが、子どもを育てる環境としてはイマイチかもしれません。だから平日はロンドンのファクトリーで働き、ファクトリーの上層階がアパートメントになっている為、そこで生活しつつ、週末は郊外の自宅に戻り、家族と過ごすスタイルを選んでいます。ロンドン市内で十分な環境を構築するにはコストが掛かります。やはり子どものためには広い庭や遊べる場所がどうしても必要。また、僕の家族が暮らす郊外の場所は、僕の両親と奥さんの両親が住む村に近いということも、こういったライフスタイルを選んだ大きな理由です。
ハンドメイドタイ

–昔の貴族なども田園にある広い自宅での生活と都会のアパート暮らしを楽しんでいたと聞きますが?

似たような部分はあると思います。ただし僕の自宅には残念ながら広い厩もないし執事もおりません(笑)。しかし、ロンドンと郊外を行き来するライフスタイルを送る人は結構多く、僕の知りあいにも似たようなスタイルで暮らす人が幾人かいます。僕個人としても平日を工場の上で寝泊まりすることは非常に合理的で、仕事にも集中できると思っています。そしてその分、自宅に帰ったときに家族との生活に集中できるのです。そのバランスが自分にとても合っていると感じています。


Interview & Text by T.Hasegawa / 長谷川 剛

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