2018.07.10

Food For Thought ワインが主役でフードが脇役の新しいレストラン『SAPLING』

通常のレストランと言えば、フードが主役で、ドリンクは脇役であるのが当然。最近、ワインに合うフードのみでメニューを構成してそれを売りにしているレストランがオープンしたと聞いて訪れる事にした。ロンドンは真夏日が珍しく続き、ロンドンを訪れている友人も一緒に新しいロンドンを散策がてらにこちらを予約した次第。一見パッとしない外観だが、実はこの近辺には良いレストランが多く存在する。人もレストランも見かけによらないものだ。
内装は、見ての通り店の真ん中に大きなテーブルがあり、他は小さなテーブル。こじんまりした感じだが、今流行りのパステル調のパレット、ベルベット、真鍮ゴールドに観葉植物があり清潔感がある。
フードメニューは、KITCHEN MENUとLARDER (日本語で言うキッチンの食料戸棚/貯蔵食料的な意味合い)で二分されている。ロンドンのハックニー区や海辺の街コンウォール産の塩漬け肉とヨーロッパから選びつくされた今旬なチーズ。キッチンメニューも、季節の食材を主体にした構成になっている。
流石にワインが主役なだけあって全ての品種をグラス単位で飲めるのは非常に珍しい。どうやらワインの仕入れも良い年のビンテージワインをケースやドース単位で少量購入し、無くなればそれでお終いとの事。約1ヶ月のサイクルでワインメニューも頻繁に変わる。グラス単位でワインを出せる秘密は他にも実は存在するらしい。
Coravin社のワインオープナー。特徴はコルクを抜かずにコルクが入ったままの状態で、穴を開けて中身を抽出すると言う元外科医が開発した画期的なワインオープナーを使用している。コルクを一度完全に抜くと当然酸化し劣化していく。がこのワインオープナーは天然コルクが持つ伸縮機能で、ニードルで開けられた穴を自然に塞ぎ、中身は酸素に触れる事なくボトル内で熟成を続け、長い間本来の味を堪能できると言う優れたアイテム。高価なワインオープナーだがかなりのこだわりと徹底ぶり。数週間単位でロテートされる36種類のワイン、特にバイオダイナミックワインは一般のワインに比べて手間がかかるし作るのが難しい。ワインプロデューサーが信じないとできないセレクションが特徴的だ。

まずは夏日和の日々が続く昨今珍しいロンドン。ビールは、レストランから500メートルぐらい離れた所で作られている地ビール『40FT』ラガー。最近はレストランだけでなく、ハックニー区ではコーナーショップでも見かける事が多くなったローカルクラフトビール。

肝心のワイン1本目は、イタリアペイモンテ州のランゲリースリング。メニュー上でワイン名称の下に小さな説明文が書かれている。2009年に植木されたアルサスとリースリング、海抜440−480メートルで育成されステンレスの樽で6カ月熟成されたオーガニック/バイオダイナミックワイン。店主曰く、『ワインメニューの小さな覚書も、ワインを本当に楽しんでもらう為に書いたもの。ワインのセレクションは、主にイタリアン/フレンチだが、アメリカ、ジョージア、ポルトガル、オーストラリアなど幅広く仕入れている。常に面白いワインを探しているし、英国産のスパークリングワインなど、マスの消費者をターゲットにした個性を失った ワインはここには置かないようにしているんだ』

食事は、お勧めの数品を友人達とシェア。
今最もイーストロンドンで美味しいと言われている『Dusty Knuckle Bakery』のサワードウブレッドとバター。ダルストンに来たら、足を運ぶべきベイカリー/カフェ。味だけでなく、社会/コミュニティー貢献を行う会社で、多くの若者に雇用を与えて育成をするプログラムを組むソーシャルエンタープライズでもある。
ガーリック風味のパルメザンクリームシュー。大人の塩味のあるシュークリーム。ワインとの相性も当然バッチリの一品。
ハックニー区のミート集団『Black Hand Food』の塩漬けハム。英国の稀な品種の豚を3〜9ヶ月ハングして丁寧に作られるハム。このメニューもできるだけローカルで、高品質の職人食材を集めている証拠。
メカジキとケッパーベリー。地中海の絶妙な一品。
今旬な英国産アスパラガス。他のヨーロッパ産と比べてかなり小ぶりだが、味が濃い。夏旬のトリュフ、アヒルの黄身とブレッドソースをまぶした英国っぽい一品。
2009年有名なキアンティのワイナリーがキアンティではない100%シラー種で作ったワイン。12ヶ月大きな樽で熟成させてオーガニックワイン。かなり飲みやすい。
ワイルドガーリックとフェネル添えの柔らかいラムネック。芳醇な脂でくせもない酒飲みの為に存在する一品と言っても過言ではない。
英国でも、今の消費者は、食材のルーツ、旬、作り方などプロセス=過程に興味を持っている人が増えている。特にフード、食べる事に関してはその動きは顕著で皆貪欲であるが、ワインに対してはそういったフードに対する動きと比較すると若干遅れている感は否めない。こういったシンプルで旬なメニューで、可能な限り近くで作られた良質な食材をテーマにするレストランの存在は嬉しい。『イーストロンドンがロンドンのナチュラルワインのムーブメントを引っ張っていると思う。人が新しいものをトライするのがこの地区の特徴だからね』とオーナーのボブ・リッチー氏が言うように、ワイン主役のレストランは今から僕も頻繁に通う事になりそうだ。是非、皆さんも!

SAPLING
住所:378 Kingsland Road, Dalston, London, E8 4AA, UK
最寄り駅:地下鉄Haggerston駅/Dalston Junctionから徒歩7-8分程
www.sapling-dalston.com
Text&Photo by Tatsuo Hino

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日野 達雄

日野達雄

英国在住歴16年のメディア/ファッションコンサルタント。
英スタイル雑誌の出身で英/日の雑誌にも寄稿をするライターでありながら、音楽、ファッション、フード、写真と様々なジャンルでのコンサルティング業務に携わる。

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