2014.09.24

Little Tales of British Life 職人さんたちの学校

大量生産ではないライフルの美しさと精巧な技術に目を奪われてしまいました。

映画やテレビドラマにもなった山崎豊子さんの小説「沈まぬ太陽」は、主人公が猛獣狩りで血塗れになっている場面から始まります。その際に出て来るライフルの名前が、ロンドンのメイフェアに店舗を持つ王室御用達のメーカーでした。

メイフェアは、以前勤めていた会社のあった地域でしたから、そのメーカーと店の存在は知っていたのですが、縁のない(超)贅沢品、と遠巻きにするお店でした。しかし、この小説を読んだことをきっかけに、冷やかしで店内を見てみると、大量生産ではないライフルの美しさと精巧な技術に目を奪われてしまいました。職人技とは、こういうものなのだなあ、と息を飲みこむ思いでした。

リブリーホールのひとつ。どの産業であるかは特定できませんでしたが、ロンドンの城壁内には、こうした業種別、学校別のリブリーの集会所が多数あります

そして、このハイテクの世の中で、こうした職人さんたちはどうやって育成されているのだろうと気になり、調べてみました。すると、それぞれの業種にはロンドン市に限って、Livery Company(リブリー・カンパニー)という互助組織が、今でも存在することが判りました。ここでは、職人さんたちの養成機関も維持をしているのです。例えば、ライフルの組織は400年前に遡ります。鍛冶屋、皮製品、籠作りなどであれば、13世紀まで遡ります。


ギルドがシティの自治権を獲得したのは12世紀。その後、商人ギルドはシティの行政本部 “Corporation of London” へと発展します。15世紀,この地にこのギルドホールが建設された。当時の建物は1666年のロンドン大火と第二次大戦によって消失し,現存するのは地下礼拝堂とグレートホールの一部のみ。市長(Lord Mayor)の就任披露パーティや晩餐会が行われるとのことです

ご存知のように、ギルドとは中世に作られた商工業に関わる同業者の互助組合です。ロンドンの城壁周辺の産業では、特に市政に参加するために強固な組織として発達したギルドが、Liveryと呼ばれるのです。どのギルドやどのLiveryに所属するかは自分の専門分野で決まります。そこでは、製品の品質、規格、値段を取り決めるものであり、同時に同業者のユニフォームもあります。古くは家臣、使用人などの制服もこの組合の中、つまりLivery Schoolで教育を受けた証として与えられるもので、熟練度や職階によって格付けされたものなのです。

Livery Companyに参加している企業は現在でも110業種ほどあり、「え、まだこんなものの需要があるの?」と思うようなものも扱っています。ポリテクニックと言われる専門学校から大学に昇格した教育機関の中には、本のバインダー専攻という学位まで存在します。一般教養科目のない英国の大学は殆どが3年制ですから、3年間ずっと本を手作りするのでしょうか。(笑)


?リブリー・カンパニーのリスト

リヴリィ・スクールからパブリック・スクールへと発展したトンブリッジ・ボーイズ・スクール。シティから南東に50km離れたケント州の街に1553年の創立。元々は皮なめし職人の養成学校として出発し、現在はオクス・ブリッジなどの超名門大学に学生を送り込む進学校。音楽でも有名

英国では、パブリック・スクールとはパブリックに役立つ人間を養成する私的機関を意味しますが、公立校(state school)とは異なります。この廊下を見るだけでハリー・ポターの世界を体験できそうな予感?

ともあれ、職人さんたちは、Livery Schoolで教育を受け、資格を取り、同業種組合であるLivery Companyに所属して、品質の維持、適切な価格、技術、専門性を維持するのです。そして、Worshipful Company of…(…の敬虔なる企業)という冠を持った権威を与えられて、職人やプロフェッショナルとして経験を積み重ねて行くのです。例えば、Worshipful Company of Hackney Carriage driver であれば、ブラック・キャブの運転手としての資格をリブリー・スクールで取得した人物という具合です。因みに、このLiveryについて英国人に聞いても、知らない人は多いと思います。おそらく、英国でも伝統文化が存続していくための切実な後継者問題が、その背景にあるのではないかと思われます。資格を取っても食べて行けるだけの熟練した職人になるのは、どこの世界でも困難であることに変わりないのでしょう。


2014.09.24
Text&Photo by M.Kinoshita

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マック 木下

マック木下

ロンドンを拠点にするライター。96年に在英企業の課長職を辞し、子育てのために「主夫」に転身し、イクメン生活に突入。英人妻の仕事を優先して世界各国に転住しながら明るいオタク系執筆生活。趣味は創作料理とスポーツ(プレイと観戦)。ややマニアックな歴史家でもあり「駐日英国大使館の歴史」と「ロンドン の歴史散歩」などが得意分野。主な寄稿先は「英国政府観光庁刊ブログBritain Park(筆名はブリ吉)」など英国の産品や文化の紹介誌。

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