2014.10.08

Little Tales of British Life 伝統的なライフスタイル

基本的に快適なのですが、少し不便で、モノ足りなさを感じるところでもあります。

在外生活をしている事情で、数年に一度は英国の義理両親宅で数日間厄介になることがあります。私にとって英国への最初のアクセスとなった場所ですし、妻の育った家ですから、巣に戻るような気分です。

その巣の居心地は基本的に快適なのですが、少し不便で、モノ足りなさを感じるところでもあります。
まず、この家には電子レンジがありません。ガスコンロは1920年代に普及したものと同型を1965年から46年間使い続けて、4年前に新調したものです。洗濯器も最近まで1950年型の一層式筒型モデルを使っていました。メーカーから消耗部品を取り寄せて、その部品が供給できなくなった頃にモーターが動かなくなり、4,5年前にようやく脱水機付きで、扱い方が出来るだけシンプルな全自動式を購入しました。脱水の手間が減ったにも関わらず、義母は手絞りの良さを強調し、便利な筈の全自動の使い勝手に愚痴をこぼしています。


ガスコンロはガスストーブ、あるいはホブと言われます。一番上はガストースター、真ん中はガスコンロ、そして最下段はガスオーヴンになっています。1970年頃まではこの型式が主流でしたが、英国人の料理も徐々に汎用性を広め、中華料理やイタリア料理などでフライパンを振って使うようになってからは、油も飛び散りますし、最上段のトースター部分が邪魔になって、この型は旧式扱いされるに至ったのです。しかし、義理両親などの保守層たちは、この画像のスタイルを堅持しています。野菜炒めなど絶対に作りません。因みに、このガスストーブは数年前に買い替えた新品。旧式でも様々な分野(台所用品、車、バイク、芝刈り機など)で新品として、生産者が存在する限りマーケット上にまだまだしぶとく息づいています

また、この家にはシャワーもありません。風呂はありますが、浸かるのは週に3回程度です。我ら家族は毎日風呂に浸かるので、義理両親には贅沢だと言われてしまいます。日本では真夏にもなれば、日に朝晩シャワーを浴びるか、毎日風呂に入ると言うと、義理両親はカルチャーの違いなのか、と一言口にするとその後は何も言わなくなりました。(笑) 英国では照りつけるような日差しを受けることなど年に数日しかないので、毎日湯につかる必然性がないのですね。


2階に設置された温水タンク。通常はAiring Cupboardというタオル置き場になります。タンクは赤い断熱材で覆われ、温度はサーモスタットで60℃程度に調整されています。このサーモスタットが壊れて熱湯になることもあれば、タンクやパイプから水が染み出て、1階の天井や壁に染みを作ることも珍しくありません。拙宅のタンクの容量は大きい方ですが、それでも一晩に二人がお風呂に入ると、夕飯後の皿洗いに必要なお湯を得るまで2時間ほど待たなくてはなりません。昨今では瞬間湯沸かし器の需要も増えていますが、日本と比べて高価です

お湯を貯めるタンクの容量が風呂1.5回分前後と少ないので、家族全員が毎日風呂に浸かるのは、確かに難しいのです。そのタンクの容量も英国人の生活習慣に準(あつら)えて定着したものです。但し、1回の風呂の湯の容量は底から10㎝程度までです。まるで、行水のようなものです。湯水を実際に湯水の如く扱える、日本の風呂文化と英国の風呂文化とはまるで異なるものなのです。


これは妻の叔母宅。英国の平均的な台所。数年前に改装したので、モダンなデザインです。この小さなシンクで料理と皿洗いをします。台所を見ただけで、美味しいものが出て来るかどうか…大方の想像が付きます。こういう台所からは…。まあ、偏見は禁物です。おいしいモノを作ろうとする人は国籍や民族に関係なく、どんな台所でも最高の工夫を凝らして持て成してくれます。たぶん…

炊事の皿洗いでも、シンクや桶に洗剤を投入し、泡立つお湯の中に汚れた皿などを入れて、表面を擦るとすすぎもせずに、流し台に並べていきます。そして、まだ少し汚れの残っている皿やコップを布巾でふき取って、棚に戻すのです。我々日本人にとっては「洗う」というよりも「汚れを薄めた」だけにしか見えません。(笑)
しかし、英国は歴史的に水利が困難な国でしたから、こうした水の使い方は、普段から水を大切にする考え方から生じているものなのです。拙義理両親の場合は、質素倹約を重んじるメソディスト教徒(キリスト教の一派)であることも然ながら、質実剛健な英国人としての思想や生活上の工夫が見え隠れしています。
このように昔のままのインフラを維持するお宅は英国ではまだまだ多いのです。本人や社会全体がどんなに豊かになっても、英国式の彼らの生活の基本スタイルは変わらないということでもあります。あるいは、変えられないだけかもしれませんが、帰巣する子供たちにとっても、昔のままの巣だからこそ居心地が好いのだと思います。



2014.10.08
Text&Photo by M.Kinoshita

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マック 木下

マック木下

ロンドンを拠点にするライター。96年に在英企業の課長職を辞し、子育てのために「主夫」に転身し、イクメン生活に突入。英人妻の仕事を優先して世界各国に転住しながら明るいオタク系執筆生活。趣味は創作料理とスポーツ(プレイと観戦)。ややマニアックな歴史家でもあり「駐日英国大使館の歴史」と「ロンドン の歴史散歩」などが得意分野。主な寄稿先は「英国政府観光庁刊ブログBritain Park(筆名はブリ吉)」など英国の産品や文化の紹介誌。

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