2014.11.28

Little Tales of British Life 駐日英国大使館の職人さんたち

日本の道具よりも重厚感があり、使いこなすには技術や腕力が求められるので、実際に使って自分の身体に合うかどうか試してみたくなります。

BRITISH MADEで庭道具や大工道具の扱いを始めたのは数か月前ですが、そのことを駐日英国大使館の庭師さんと大工さんに伝えると、是非見に行きたいという話になりました。

庭師さんは英国大使館の専属庭師のお子さんとして館内で生まれ育ち、造園加工管理技士1級を有し、2000年頃からお父上の仕事を継いだ人物で、1万坪の英国大使館内の植生を熟知しています。一方、大使館に20年近く勤める大工さんは、前職こそ古民家の営繕を担当する建築士でしたが、現在では洋館の維持修理を扱える数少ない職人さんです。


駐日英国大使館の庭師さんが設計し、洋館専門の大工さんが作った篩(ふるい)。庭に敷き詰められた玉砂利に混じった枯葉と小石とを篩い分けるために作られた。以下の緑色の篩とこの篩は、どちらも用途と機能が全く同じ

このお二方は謙虚で且つ研究熱心なだけに、「実際に、英国ではどうなっているんですか」という類の質問を在英経験者たちに、しばしば投げかけておられます。つまり、彼らとしては日本に居ながらにして、英国式の庭の景観や、見た目に仕上げるわけですから、本当の英国式とはちょっと異なるんではないかという疑問と不安を常に持たれているのですね。

BRITISH MADEの新しいカテゴリーBRITISH WEEENDの取扱いアイテムの一つ、英国 BULLDOGのHand Trowelなど
BRITISH MADEで扱っているRiddle(篩:ふるい)は、土と小石を篩分ける。花壇には欠かせない道具のひとつである

職人さんたちにBRITISH MADEの商品を見て貰うと、なにやら感慨深い表情をされていました。たとえば、画像のように青緑色(ビリジアン色)の道具類を見て、「建築の補強部分や庭の備品に使われる銅製品の錆びた色(緑青:ろくしょう)を意識して、緑色にするんでしょうか」という疑問を上げておられました。確かに英国のDIYショップ(ホームセンター)に行くと、スコップやら移植コテやら土に触れる部分は鋼鉄で、その塗料はビリジアン色です。調べてみましたら、この色を選ぶ理由は諸説ある中でも、最も有力な理由は緑青の色と緑の芝生や風景に合うもの、ということだそうです。

また、英国製のshovel(以下、ショベル)と日本製品のスコップ[shovel:シャベル(関西)、 スコップ(関東)]との違いについても、職人ならではの見解がありました。英国製は重く、鋼鉄も厚く頑丈で、踏み込むときに足を掛けるステップ部分が付いていません。ショベル自体が日本製と比べてかなり重たいので、むしろ泥をショベルから拭う時に邪魔になる折り返しステップは要らないのではないかということが論点になりました。また、英国製は鋼製の柄の部分が長いのは、石灰質と粘土質の多い英国の粘着質の土壌に対して、ショベルの柄が折れないための工夫ではないかとのことでした。まさに職人さんならではの見解です。

こうした道具が欲しいかどうか、職人さんたちにと聞くと、「もちろん、使ってみたいです。日本の道具よりも重厚感があり、使いこなすには技術や腕力が求められるので、実際に使って自分の身体に合うかどうか試してみたくなります。それに、せっかく英国式庭園や英国式建築を扱っているのですから、英国の道具を使える嬉しさを味わってみたいですし、愛着を持ってメインテナンスの手間も掛けたくなります。また、道具が揃ってくると物置やガレージの壁に掛けるだけでインテリアになるので、英国通で粋な気分なれますね」という反応でした。


枯葉が敷石に紛れ込むと景観に影響する。王室や皇室も来館する駐日英国大使館では、来賓が目にする敷石の見栄えまで配慮が行き届いている

庭仕事にしても、大工仕事にしても、学校で教わった技術や資格試験で学んだ知識はすべて、現場では基礎や基本にしかならないそうです。プロの仕事として仕上げることは、基本の技術をいくつも組み合わせた応用と、適材を選別しながら、英国式の出来上がりを意識した創意工夫が求められるというのが職人さんたちの持論です。プロフェッショナルとしての成果を求められる職人さんたちは、英国式を具現化するために、英国に対する個々のイメージ、想い、情熱をその仕事に反映されているのですね。

去る10月はじめ、数年ぶりに復活した英国大使館正門前の花壇。英国大使館のGreen Teamがエコロジー活動と季節ごとのテーマ作りとを兼ねて寄植に参加したもの。ロンドンのチェルシー薬草園から来日していた庭師/植物記録マネージャーによるデザインで、今回のテーマは英国の秋。厳寒の夜空を彩る秋と冬の風物となる花火のトピオリ―が活かされている。左の人物が文中に登場した庭師

この職人さんたちの姿勢は、前回の記事で申し上げたステータスとしての芝にも関係します。職人さんたちは大使館を訪問される皇室や政財官界の重鎮だけでなく、すべてのお客様に豊かな気持ちになって頂くため、庭に、建築に、最大限の工夫を施されているのですね。今回、職人さんたちの言葉に触れながらBRITISH MADEの陳列品を眺めていると、それぞれの道具には皆さまの使い方次第で、それぞれの異なった魂が吹き込まれて行くのだろうなあ、という思いがしました。


2014.12.3
Text&Photo by M.Kinoshita

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マック 木下

マック木下

ロンドンを拠点にするライター。96年に在英企業の課長職を辞し、子育てのために「主夫」に転身し、イクメン生活に突入。英人妻の仕事を優先して世界各国に転住しながら明るいオタク系執筆生活。趣味は創作料理とスポーツ(プレイと観戦)。ややマニアックな歴史家でもあり「駐日英国大使館の歴史」と「ロンドン の歴史散歩」などが得意分野。主な寄稿先は「英国政府観光庁刊ブログBritain Park(筆名はブリ吉)」など英国の産品や文化の紹介誌。

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