2015.01.20

Little Tales of British Life 英国は年がら年中スポーツの季節

皆さんご存知と思いますが、英国にサッカーという競技はありません。あるのはフットボールです。かつてイングランド代表キャプテンであったディヴィッド・ベッカムは、アメリカのチームに移籍した際に「サッカーという言葉に慣れなくては…」と言って、メディアを笑わせていました。同じ競技でも周囲で使う言葉が異なると、外国に来たんだなあ、という実感が湧いてくるのはベッカム様といえども我々と同じなのでしょう。

イングランドのプレミアリーグに昇格したばかりのクリスタルパレス。試合前風景が試合以上にワクワクして楽しいですね

世界最多の競技人口のスポーツと言えばフットボールで、2位はクリケットということもよく知られていると思います。大英帝国の統治領域が18世紀後半までにそれだけ世界に広がった、ということでもあるのですが、植民地から自治領、そして同じ女王を長として頂きながらも独立していった連邦国家群(カナダ、オーストラリア、ニュージーランドなど)にも、英国の球技文化は支配下国の人間であっても、同等であることをアピールするかのように、それぞれの地域に根強く残ったのです。

一方、球技はそれぞれの季節の風物詩です。英国でもそれは例外ではありません。英国のセカンダリ・スクール(11~18歳)では、男子の場合、学校の始まる秋からクリスマスまでラグビー、年が明けてイースターの時期までがフィールド・ホッケー、そして春先から夏にかけてはクリケットが行われます。女子の場合は、ラクロス、ネットボール(ポートボールに類似)、そしてフィールド・ホッケーが主流です。もちろん、学校によってスポーツに関する体制は異なるので、皆が一様にそれらの球技に関わるわけでもありません。乗馬、テニス、陸上など、学内で専門を高めていく生徒もそれなりに、誰もがいくつものスポーツを同時に楽しめる環境にあります。


ラグビーはクリスマス明けの競技。真冬でも芝生は青々としています。怪我人が続出するラグビーですが、大方の選手は怪我を恐れないし、怪我するとは全然思っていないそうです
フィールドホッケーはパブリックスクールでは秋のスポーツ。息子はフットボールでもホッケーでもミッドフィールダ―でした。英国の某私立学校

11歳から共学のパブリックスクールで教育を受けた娘と息子を振り返ると、娘はまったく運動に興味がなく、体育の授業でラクロスのディフェンダーをやらされた以外にフィールドプレイの経験がありません。残念ながら、英国らしい女子スポーツの話を彼女からは導けません。但し、現在の駐日英国公使のお嬢さんがイングランド・クリケット代表なので、スポーツ万能の彼女に、いずれインタビューしてみたいと思います。

英国の某大学ホッケー部の男女混合のチャリティマッチ風景

一方、息子はパブリックスクールに入る前はフットボールでプロのジュニアアカデミーにスカウトされるほどの腕前(脚前?)でしたが、次第にその興味は「紳士のスポーツ」の方に傾いて参りました。
フットボールは大衆スポーツと言われることはあっても、紳士のスポーツと言われることはありません。むしろ、ハングリーなスポーツです。息子はティーンエィジャーの頃にその違いに気づいて、彼自身に見合ったスポーツを選ぶと同時に、次第にフットボールから離れて行きました。それでも、いまだに一番好きで、得意なスポーツはフットボールだと言います。

日本の多くの高校球児やサッカー選手が必ずしもプロ選手にならないように、英国でもスポーツは人生を楽しむための手段として捉えることはよくあることです。憧れのスポーツは好(よ)き思い出として胸に仕舞っておくことも、ひとつの人生の在り方なのかもしれません。

フットボールUnder10のジュニアチームの試合前風景

さて、英国人がもっとも英国らしいスポーツと思っているのはクリケットです。クリケットは長い時間を屋外で過ごす季節の象徴であり、純白のユニフォームは快適な夏を思わせるスポーツです。陽の長くなる夏至の頃が近づき、ラジオからお馴染のプレゼンターHenry BlofeldやBrian Johnstonの声が響いてくると、英国人たちは皆思うのです。「ああ、夏の声が来たな」と。

かつてよく言われたことですが、空き地に日本人とアメリカ人が集まると野球が始まり、大陸(中南米、アフリカ、欧州など)の人が集まるとフットボールが始まり、そしてイギリス人(連邦を含む)が集まるとクリケットが始まる。でも、このことは少し前までのことです。

現駐日英国大使もバットマンの打順を待ちます。横浜アスレチッククラブにて
駐日英国大使館チームがビジター用の青ユニフォームと白ユニフォームの二手に分かれて練習試合。横浜アスレチック倶楽部
クリケットのギア一式。クリケットの試合時間と言えば5,6時間は普通です。長ければ、プロになると1週間も続きます。長時間外野で守備に就いていると、真夏でも夕方になれば身体が冷えます。白いギア一式、つまり靴も白です
クリケットの防具。このグローブを着けるのはウィキッド・キーパーと呼ばれるキャッチャーだけです。クリケットは極めて人間の動作に対してオリジナルな競技であって、野球のようにグローブを使わないという点と比較しても、決して原始的なスポーツではない。と英国人は言い張るのですが…

近頃は、夏のハイドパークに行くと、伝統的な乗馬やクリケット以外に、見たこともない競技で様々な人種、異国籍、そして多様なジェンダーの人々が入り混じって、皆が一生懸命にプレイしている光景が目に入ってきます。彼らの楽しそうな様子を眺めていると、新しい英国の姿が見えて来るような気がします。ベッカム様のアメリカ・サッカー体験のように、スポーツを通じて文化の違いを認め合い、且つ楽しめる時代になりつつあることは喜ばしい変化ではないでしょうか。でも、冬のピッチは芝生を養生しているところが多いので、荒らさないように気を付けましょうね。


2015.1.21
Text&Photo by M.Kinoshita

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マック 木下

マック木下

ロンドンを拠点にするライター。96年に在英企業の課長職を辞し、子育てのために「主夫」に転身し、イクメン生活に突入。英人妻の仕事を優先して世界各国に転住しながら明るいオタク系執筆生活。趣味は創作料理とスポーツ(プレイと観戦)。ややマニアックな歴史家でもあり「駐日英国大使館の歴史」と「ロンドン の歴史散歩」などが得意分野。主な寄稿先は「英国政府観光庁刊ブログBritain Park(筆名はブリ吉)」など英国の産品や文化の紹介誌。

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