2015.03.31

Little Tales of British Life 遅刻するイギリス人の自虐的な言い訳

一時間に一本しかない列車がキャンセル?さらに一時間待つか、別のルートを考えなくてはなりません。

かつてのブリティッシュ・レイル(英国国鉄)は、現在に至っては総じてナショナル・レイルと呼ばれています。「総じて」と言うのも分割民営化され、地域別、目的別に様々な鉄道会社の所属する代表団体のブランド名がナショナル・レイルであって、単体の企業名ではないということです。詳しくはこちらをご覧ください。

ナショナル・レイル http://urx2.nu/haR8

ロンドン・ヴィクトリア駅から南に向かう列車群。これらの列車は異なる3社の資本によって運営されています。路線の運行管理はまたさらに異なる会社によって運営されています。ロンドンからガトウィック空港やドーバー方面など、ケント州・サリー州に向かうにはこのラインを利用します

ひとつの鉄道路線に、いくつかの異なる会社が異なる目的で車輛を走らせるわけですが、元々レコード屋さんだったヴァージン社などの鉄道会社が事業に乗り出してから、英国内の鉄道の旅も相当快適になりました。しかし、ナショナル・レイル全体を眺めると、やはり、ブリティッシュ・レイルの伝統的「無形」文化遺産が自動的に継承されていることを確信せずには居られないのです。

その遺産とは、トレイン・キャンセルです。以前より少し減った気はしますが、初めて遭遇した時、在外邦人には意味がまったく判りませんでした。一時間に一本しかない列車がキャンセル?さらに一時間待つか、別のルートを考えなくてはなりません。しかし、何故キャンセルになったのか、ということは特に問題にされることなど無く、誰も特に文句を口にすることもなく、駅の電光掲示板の前で目的地に向かう第二の手段を、見知らぬ者同士が笑顔で話し合う光景が展開されます。

たまに、キャンセルされた理由がアナウンスされることもあります。「運転士が寝坊して遅刻しました。次の列車(1時間後)をご利用下さい」「運転士がお腹を壊して運転出来ません」「運転士が始発駅を間違えて、自家用車で異なる駅に行ってしまいました」「皆さん、祝ってやって下さい。運転士に赤ん坊が生まれました。今、産院にいる運転士から連絡が来たところです」キャンセルだけでなく、遅刻の理由も無形文化遺産に含めるべきでしょうか。


ロンドンの地下鉄がチューブと呼ばれる由来が判るような形状をした車両です。電気、水道、ガスなどのライフラインの下に交通機関を造るとなると、地中に缶詰を潜らせて横に進むと、こうした円柱形を横にしたカタチになるわけです。19世紀前半、このシールド工法を生み出した人物は、歴史上最も偉大な英国人として第二位に選ばれたブルネル卿のお父さんです。因みに最も偉大な人物の第一位はチャーチル元首相

日本で担当運転士に不都合が起きると、代行運転士が対応するだけのことですが、もし運行に支障がでたら、それだけでけっこう大きなニュースになりますよね。1990年頃、ブリティッシュ・レイルの時代に「なぜ代行を立てないのか」と意見書を送ると、「人員が不足している」「アナタの支払う料金では、代行運転士の給与までカバーし切れない」という不思議な返事を貰ったことがあります。

このような状況で、英国人が怒りださない理由もあります。英国人には伝統的に人の話をよく聞く習慣があります。我々日本人から見れば、言い訳を受け容れる文化とでも言い換えられましょうか。遅刻とその理由が英国社会に受け容れられる以上、トレイン・キャンセルは絶対に無くならないでしょう。

ハリー・ポッターの寄宿学校ホグワーツに向かう列車は、このプラットフォームから発車します。
運行管理と鉄道会社が、どんな企業であるのか、とても気になります

英国人の普段の話し方からしても、日本人から見れば、やたらと言い訳がましく聞こえる傾向があります。その理由は経験論的な話し方と言うのでしょうか、相手の顔色を見ながらなかなか結論を言わないで、序論、本論、結論の順番で語るのです。日本の会社員や演繹的思考のフランス人の場合、報告の最初は結論ありきですから、この序論と本論を語っている間が、無駄な時間に思えるし、「~したからこういう結果なった」のように結果の良し悪しには関係なく、常に言い訳をしているかのような印象を受けるのです。

したがって、話も長くなります。その代り、聞き手側の理解が深くなる分、遅刻者の言葉を慮(おもんぱか)って納得しちゃうわけですから、遅刻された人はどんなに頭に来ていても、たとえその理由が何であれ、一旦理解に達したら、遅刻して弁解する人にどんなに非があろうとも決して怒ってはならないのです。つまり、理性で感情を抑制しなくては人に尊敬されませんし、聞き手が感情をむき出しにしていては、弁解する人と対等の関係にはなれないのです。
もちろん、言い訳をする側にも相手を納得させる力量が必要です。遅刻の理由として最も有効な手法は、どんなに努力してもダメだった、つまり「不可抗力」だったのでこういう結果になったという自虐的なロジックに導いて行くことです。そのために、というわけでもないのですが、英国では小学生の頃からロジックを科目として取り上げ、リーダーシップ、ディスカッション、ディベート、そしてプレゼンなどで、その能力をお披露目する機会が与えられます。それらの経験で言い訳が上手になるというか、理論を構築する教育的配慮が与えられているのです。

ロジックサイト(英文ですが、ちょっとお試しあれ)
http://www.educationquizzes.com/gcse/maths/logic-f/


鉄道ファンなら是非乗りたいと言うフライング・スコッツマンです。1928年に操業開始し、運営の紆余曲折を経て現在もロンドン‐エジンバラ間を疾走中です。オリエント・エクスプレス以上に鉄道マニアには人気です

第三者から見れば、同じ遅刻であっても、許される場合と許されない場合との違いは、遅刻者の説明の仕方や理由によって、それとこれとでは「ちがう話」として扱われて、例外的な遅刻として皆に認めて貰えることもあるのです。しかし、在外邦人としては、列車の運転士が遅刻する理由に納得したことも無ければ、同情の余地を感じたことは、あまり覚えがないのですが…。ともあれ、英国で約束の時刻に間に合わせるには、たとえ1時間に1便のサービスしかなくても、一本前の列車を利用することをお奨めします。



2015.4.1
Text&Photo by M.Kinoshita

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マック 木下

マック木下

ロンドンを拠点にするライター。96年に在英企業の課長職を辞し、子育てのために「主夫」に転身し、イクメン生活に突入。英人妻の仕事を優先して世界各国に転住しながら明るいオタク系執筆生活。趣味は創作料理とスポーツ(プレイと観戦)。ややマニアックな歴史家でもあり「駐日英国大使館の歴史」と「ロンドン の歴史散歩」などが得意分野。主な寄稿先は「英国政府観光庁刊ブログBritain Park(筆名はブリ吉)」など英国の産品や文化の紹介誌。

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