2015.05.26

Little Tales of British Life 生まれて初めての宗教行事

洗礼式の際にキャサリン妃が身に付けるドレスの色は?ということなどが賭けの対象になっています。

去る2015年5月2日に生誕され、英国王室の新しいメンバーとして加わったシャーロット妃の次なる世間の注目は洗礼式です。と、英国の大衆紙並みの記事を書くつもりはありませんが、今回特に注目しているのはブックメーカーという賭博屋さんたちで、シャーロット妃が洗礼する教会はどこか? 日取りは? 洗礼式の際にキャサリン妃が身に付けるドレスの色は? 洗礼式に「あの人物」は招かれないのではないか?ということなどが賭けの対象になっています。

英国のブックメーカーは何でも賭け事にしてしまいます。この店内に未成年は入ったらいけません。「80日間世界一周」という映画もリフォーム・クラブという賭け事から始まった冒険ドラマでした。今回のシャーロット妃の命名やジョージ王子の第一声も賭けられていましたね。

実にどうでもイイことである筈なのですが、お金に関わってくると、本来不要な情報や生産性のない議論が白熱して来ては、そこから様々なエピソードが作り出されるのが、英国式ユーモアの源とも言えるわけです。どうでもいいことを大勢で真剣に議論し合い、たまに我に返って、自分たちの議論を自らがバカにする。自虐的に自身を笑いものにする分、それだけ人間としての余裕を持っているのかもしれませんし、成熟しているようにも見せかけているのかもしれません。

チャールズ皇太子妃候補として決まったばかりの頃の20歳のダイアナ嬢。ピムリコの幼稚園で勤務していた頃、買い出しで雨中を走るところをパパラッチが撮影したものです。シャーロット妃に対しても、ダイアナ妃との面影を重ね合わせたい人々はたくさん居られるでしょう。ダイアナ妃こそ、孫たちの洗礼式に出たかったでしょうね。

さて、その洗礼式ですが、宗派によっても、地域によっても洗礼のやり方や呼び方は異なります。王室の宗教行事は英国国教会のプロトコル方式に基づいて行われます。旧教と大半の新教ではクリスニング、バプテスト教ですとバプタイズと言います。洗礼にはバリエーションが多いので、ここでは在英邦人の経験した12回の洗礼式のまとめを述べてみます。

12度経験したということは、英国側の親類には我が子も含めてそれだけの子どもが生まれたということです。英人の姪と甥だけで10名居ることになります。他にスイスと英国の二重国籍の子どもが最近の7年間に2名生まれましたが、この2名は諸事情あって年齢差50歳の従兄妹になります。

まず、最近のこの従兄妹の2名について言うと、彼らは洗礼を受けていません。スイス人の若い母親はカソリックのクリスチャンですが、大事なのは信仰心であって、宗教行事を最優先する意味は無いと主張するためです。それでも、他の親類や親友が洗礼をすると言うと、教会で行われる儀式に参加します。自分のやり方を尊重して貰いたい一方で、親類たちのやり方も尊重するという個人主義的な考え方です。今時は、旧教でもこういう考え方の人とその考え方を受け容れる家族も増えているようです。


洗礼用のガウンとビブ(よだれ掛け)。ガウンは子供の丈よりも大分長いものが一般的。牧師の法衣のように長めにしつらえられているのは、神聖な装いを強調するためと言われています。

我が子らの場合は、20年以上前になりますが、伝統的な洗礼を受けています。それぞれ生後5か月でした。これを幼児洗礼と言います。日本で言えば、見た目は水天宮へのお宮参りのようなものでしょうか。キリスト教では、その実入信のための両親の誓いの場であるのですね。キリスト教徒の妻の所属する教会からは、わざわざ担当する牧師さんが拙宅まで見えて、仏教徒の在英邦人に「洗礼式をやっても良いか」という許可を貰いに来てくれたので、その際に宗教観について語り合うことになりました。

正直な話、子供たちには英国人として人並みの経験をさせておくべきかな、と考えたくらいのことで、深い考えはなかったのですが、牧師の前ですから国際人たるべき振る舞いを格好つけたわけです。洗礼式では、赤ん坊を抱えた両親が牧師の言葉を繰り返して宣誓をするのですが、異教徒同士の夫婦の子どもということで、牧師は宣誓の内容を少し変えてくれました。残念ながら具体的な言葉は覚えていませんが、「子供がより良い人生を送るために、親として神の言葉をよく聞き、子供にも伝えます」という趣旨の宣誓であったと思います。

洗礼式に向かう直前の母と生後5か月の娘。親としても子供の最初の行事が嬉しいのですね。

洗礼式は教会の都合によって週末の午後に予約して執り行われるのが普通です。赤ん坊の両親の親類や親友たちが集まって、洗礼式はものの30分で終わります。そして、近所のレストランや赤ん坊の両親の家に全員が集まって軽いディナーをするという段取りです。以上、少し異教徒観が入りましたが、これが一般的な庶民の洗礼式です。

さて、王室ではシャーロット妃のためにどんな洗礼式を執り行うのでしょうか?洗礼式は、日本ではあまり馴染みがありませんが、英国では生誕の次に来る一大イベントです。6月はジューン・ブライドの結婚式をたくさん見掛けますが、洗礼式は地味に年中執り行われています。教会を見て「あ、何かやっている」と思ったら、近づいて祝福の言葉を投げかけてみるのも悪くないと思います。それから、もし、お葬式の場に出くわしてしまったら、亡くなった方のために、仏教徒として合掌して静かにお辞儀する姿勢を見せてあげて下さい。心を込めたその敬虔なフォルムは、世界中が認める普遍的なコモンセンスです。


こちらのウェブをご参考に。
Church of England to rewrite baptism service words in ‘EastEnders’ speak

2015年1月、フィリップ殿下の令嬢ザーラ妃のお子様の洗礼式の記事です。
Queen and Prince Philip gather at tiny church for christening of Zara Phillips’ daughter


2015.5.27
Text&Photo by M.Kinoshita

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マック 木下

マック木下

ロンドンを拠点にするライター。96年に在英企業の課長職を辞し、子育てのために「主夫」に転身し、イクメン生活に突入。英人妻の仕事を優先して世界各国に転住しながら明るいオタク系執筆生活。趣味は創作料理とスポーツ(プレイと観戦)。ややマニアックな歴史家でもあり「駐日英国大使館の歴史」と「ロンドン の歴史散歩」などが得意分野。主な寄稿先は「英国政府観光庁刊ブログBritain Park(筆名はブリ吉)」など英国の産品や文化の紹介誌。

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