2016.03.16

Little Tales of British Life Gentlemanshipと花の威力

世界のどの国でも華僑の中華街に行くと、店先にはかならず4種類のバーベキュー(BBQ)がぶら下がっています。チャーシュー、クリスピーポーク、チキン、そしてダック(鴨)です。ロンドンやバーミンガムなど街いっぱいに五香粉の香りを放った中華街では典型的な光景です。ロンドンに戻ると真っ先に食べに行くのが、クリスピーポークとダックを白いご飯の上に乗せたぶっかけ皿です。英国食ではありませんが、日本の中華料理では滅多に食べられないので、ロンドンに長く生活する一部の邦人にとってはソウルフードのひとつとして知られている(?)と思います。

20160315_main1在英邦人のソルフード、クリスピーポークとダックの合い掛けご飯です。Add on some green vegie and ginger sauceと注文するのは上級者(?)です。世界のどこでもチャイナタウンに行けば頂けるBBQご飯です。

そのダックとは、日本語で言うマガモのことです。日本の合鴨とはアヒルとマガモのハイブリッドで、脂分が少なくて比較的あっさりして食べ易いと思います。中華ではあまり旬を感じさせませんが、日本では鴨と言うとネギと一緒に頂く鍋の季節のモノですね。

英国では3~7月が若鴨、ダックリングの旬と言われます。生後6週間から2か月までの成長になる前の肉質が特に柔らかくて、美味だそうです。絞めてから3日後が食べごろと言う人もいますが、まる一日ほど皮を乾かしてからローストすると充分に美味いと思います。

20160315_main2鴨もこれだけ成長してしまうと、食材として不適です。肉質が硬くなり、ニオイもきつくなってしまうのですね。鳥にも加齢臭がある、ということでしょうか。

今住んでいる国では鴨を食材として使うことが少ないので、自家製ロースト・チャーシューに甘んじていますが、夢に見るほど食べたくなるのが皮面を香ばしくカリカリに焼いた 英国の鴨です。料理のスタイルは英国式であろうが、中華であろうが、英国産の鴨は脂が乗っていて、肉質のしっかりしたエネルギーに満ちた味なのです。1990年代に在英中の当方は、特に用事のない金曜日の夕方になると吊るしBBQ店に行って、ダックとチャーシューを持ち帰って、晩酌のアテにしていました。

20160315_main6こちらは英国料理店の鴨料理。鴨の胸肉をカリカリに焼き上げることがおいしさのポイントのようです。画像はイマイチですが、季節のマッシュルームの種類も豊富で、鴨肉にいろいろな風味を添えていて相当な美味でした。また、鴨肉は生後8週間だかがベストとか。また、動物福祉の観点から鴨にとって快適な環境を与えて育てているので、ストレスフリーの肉質は最上級になるとのことでした。

ところが、当方の義父の金曜日のライフスタイルは少々違っていました。今年80歳になる義父(英人)が、60歳の現役までロンドンで働いていた頃、毎週金曜日の夕方になると花束を持って帰宅していました。その花束を受け取る義母は、夫に軽く挨拶のキスをして、花瓶に活けた花を金曜の食卓に置いたそうです。

実はこの活けられた花には役割があります。夕飯が出来たことを告げる母親の声で、遊んでいた子供たちが階下に降りて来ると、まず食卓の上に活けられた花を目にします。そして、この花は家族に週末の団欒時間が始まったことを告げているのです。この光景は第一次大戦後から一般的に展開された近代英国家庭での典型的な習慣なのです。

20160315_main3義両親宅の居間から後庭を臨む。咲いている花々を少し間引いたり、形を整えたりした時に摘まれた花々はそのまま活けられて室内に飾られます。フラワーアレンジメントとは本来そういった残り花を美しく魅せるために生じた技術でもあるのです。
20160315_main4垣根の向こうには家庭菜園もあります。

この場面は英国の社会では80年代までは一般的な光景でした。そして、現代に至っては次第に廃れつつある習慣でもあると言われがちですが、若くても、家族と奥さんを大事にする当方の親類や保守系の友人(英人)たちは、この「金曜の花束」の習慣を続けています。

また、この情景で、花は2つの役割をしています。一つは紳士の振る舞いの「道具」であり、もうひとつは、先に述べたように、家族に週末の団欒を知らせる「サイン」なのです。

英国紳士たる者として、常に紳士然として振る舞われるべき存在とは、妻ではないでしょうか? ティーンの男子が最初にGentlemanとして目覚めるのが、異性の目から如何様に見られたいという気持ちから始まるとしても、美しさや逞しさなどの見せかけだけの人間ではないことを証明するのは時間を掛けないと判らないことです。そのために、男子は常に紳士たる態度を意識するのです。

言い方を換えれば、かつて、互いの素性も知り合わない頃、男女両名が発信しあうのは、見掛けや見栄えもあるでしょうけれど、本質的な付き合いになっていく始まりは、両者の人格を認め合うことであることは、どなたからもご賛同頂けると思います。その人格の見極めを示す所作が男子の場合はジェントルマンシップなのです。

20160315_main5ロンドンは街中でもこのように綺麗な花々が咲いています。行政のお蔭と言えるかもしれませんが、ボランティアの力も大きいと思います。

今や、ジェンダーを越えた関係の時代ですから、何を今さらと思われるかもしれませんが、Gentleman-shipの中身から出ずる「振る舞い」と「その質」とは人間同士であれば、誰にでも関係することです。写真でご覧のように、当方の見掛けはむくつけき大男のヘテロですが、男女や年齢差を問わず、日本語でも言葉遣いはこの文章のような公正さと、何気なく心を添えた所作を振る舞えるように心掛けているつもりです。そのせいか、当方の友人の年齢幅は20代から80代と相当広いようです。つまり、ジェントルマンシップは世代間を越える万能のプロトコル(作法)と言えるわけです。

20160315_main7毎度のことですが、世界中のFour Seasons Hotel のロビーは見事です。この花を活けたのは元小学校の美術教師で、今でもロンドンのFour Seasonsでアーティストとして働いています。インタビューの際に、特別な教育を受けたのかと尋ねると「私は芸術家であって、学ぶことではありません」と応えたことが印象的な人物です。

花は冠婚葬祭などの特別な機会だけでなく、生活の一部として英国人の生活の中に深く溶け込んでいることが、義父の行ってきた習慣からお判り頂けるでしょう。おそらく、義父自身にはジェントルマンとしての自覚は殆ど無いと思いますが、その無自覚の所作こそ自然なジェントルマンシップではないかな、と30年間以上彼を見ていて感心することです。つまり、身の回りのアイテムを揃えることとは別に、心から身に付いたジェントルマンシップの中には「自然のジェントルマン」もありということです。実際に、義父母と妻の口からSwear Word(罵る言葉)を一切聞いたことが無いと言うと、意外なことに誰からも驚かられるので、異常に「純粋なジェントルマンシップ」もありなのかもしれませんね。


※当記事の素材については、フラワー・アーティスト多恵子・マーヴェリーさんからのご協力を賜りましたことを深く感謝致します。
Taeko Marvelly`s School of flower arrangement http://www.marvelly.com/


Text&Photo by M.Kinoshita

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マック 木下

マック木下

ロンドンを拠点にするライター。96年に在英企業の課長職を辞し、子育てのために「主夫」に転身し、イクメン生活に突入。英人妻の仕事を優先して世界各国に転住しながら明るいオタク系執筆生活。趣味は創作料理とスポーツ(プレイと観戦)。ややマニアックな歴史家でもあり「駐日英国大使館の歴史」と「ロンドン の歴史散歩」などが得意分野。主な寄稿先は「英国政府観光庁刊ブログBritain Park(筆名はブリ吉)」など英国の産品や文化の紹介誌。

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