2017.01.03

Little Tales of British Life 「食材の微妙な違いと冬の暮らし」 イギリス生活のだらだら体験から

先日、ある公邸のディナーで千切りにしたフルーツ人参のサラダをイギリス人たちと食べながら、話題になったのはVegetableとSaladとの違いでした。ご存知の方もいらっしゃるとは思いますが、なんとSaladと野菜とでは微妙な認識の違いがあるのですね。当方も30年前にイギリスで判ったことです。以来、イギリス人にとっては常識だと思っていましたが、この場面で我が子のような若いイギリス人がわざわざ話題にしたので、彼らのためにいろいろと意見交換をしました。

両者の違いはいくつかあります。まず、量販店に行くと、VegetableとSaladとでは売り方と売り場とがそれぞれ異なります。レタスの個体はVegetable売り場の一画を占めていますが、レタスを洗ってバラしたもの、あるいは他の野菜と混ぜてパック詰めされたものが加工食品としてSalad売り場に並んでいます。

20170103_mac_000 今日に至って、量販店では野菜とサラダだけではなく、Vegetable, Bagged Salad, Prepared Vegetableとさらに細分化されています。

また、コース料理の場合、食べる順序として、Saladはアペリティフやスターターとして頂くものである一方、Vegetableとは主菜(肉や魚)と一緒、あるいはサイドディッシュとして出されるブロッコリー、カリフラワー、ニンジン、ジャガイモ、グリンピース、パースニプスのような付け合せの温野菜であるという認識です。

Vegetable自体はニンジンのように千切りにしてサラダに混ぜればSaladにもなり得るのですから、どの時点でどのように提供するかによって、同じ植物でもVegetableとして出されたり、Saladに変身して提供されたりする可能性があるということです。もちろん、諸説あるので、以上はご参考までの話です。

20170103_mac_002 「料理が出来たよ」と言われてダイニングに行ってみると、サラダと生食パンとハムだけが皿に盛られていて、マヨネーズやらドレッシングやらパンに付けるものやらが並んでいる光景というのは、今でも珍しくないと思います。この画像のサラダも、マンゴーとザクロと鴨肉を散らしただけで、特に工夫が見られませんが、キウイとタラゴンを素材にしたドレッシングが食欲を進めてくれました。
20170103_mac_004 温野菜といえば、グリンピースも忘れてなりませんね。90年代まではどのレストランでも、グリーンではなく黄緑色まで煮込まれていましたし、ニンジンもフォークに刺さらないほど茹で過ぎでした、2013年撮影のこの店では、食感もまずまずの茹で具合でした。

ところで、このディナーでの意見交換の際中に、当方たちよりも30歳の差がある若い彼らには知られざるイギリスの食糧事情の歴史も話題にもなりました。「あの時代、冬には何を食べていたっけ?」彼らの生まれる以前、1980年代の冬と言えば、まだ、ヨーロッパ中の量販店から新鮮な緑の食材や林檎・梨以外のフルーツが消える季節でした。しかし、年々緑黄色野菜の供給が高まり、90年代の中頃には日本と変わらないほどの品揃えが、イギリスの量販店でも見られるようになりました。

片や、2007年の冬からにスイスのフランス語圏に住み始めると、イギリス量販店の1980年代の光景が広がっていました。「あれ?フランス料理の国だから、食材には期待していたのに…」野菜売り場は極端に小さく、種類も少なく、活気もありません。しかも萎れているのに、日本の値段の数倍はするホウレン草の残り3束をジッと眺めていました。

20170103_mac_001 サラダは自家製に限る。と義父はハウス栽培で、キウリやピーマンも家庭菜園で作っています。左端に見えるのはルバーブを刈り取った跡です。

買いたいけど…、欲しいけど…、手が出ないのですね。ジッと見つめていれば、何かが変わるかもしれない。「この子(ホウレン草)にも何かイイところは見つかる筈だ」という念願にも近いポジティブ思考は、大方の場合、無駄な妄想に終わります。そのクオリティであれば、今時のイギリスでも売らないであろうし、日本であれば、夏の夕方まで放置された路地栽培の無人店でも引き取り手が無いであろうほどの萎れ加減です。「なぜ、こんなものを売るのだろうか?そして、なぜ買う人がいるのだろうか?」その心は、「茹でたら、新鮮なものとの見分けは付かない」と言ったのは誰だったか?日本人では無かったと思います。

20170103_mac_005 デザートは繊維質を摂取する重要な役割をしていることもあります。画像は朝食の様子ですが、前夜のデザート残りを「ファイバー摂取のために」という大義名分を語る妻が自分だけに配膳していました。ミューズリーでもう繊維質は充分ではないのか、と思うのですが…」

本来、生鮮食料品とは季節ものであり、生産地域界隈に供給は限定されることは判っているのですが、年がら年中何時でもどこでも何でも入手可能な流通の発達した便利な国、日本やイギリスに住んでいてスポイルされた自分自身に改めて気づかされるのは、このような第三の国に訪れた時です。(当方の言う第三国とは故国日本と、生活の拠点であるイギリス以外の国を意味しますので、誤解されませんように)スイスのようにOECD統計で生活レベルが世界トップランキングの国でもこんなものです。もちろん、冷凍食品や高価な葉物野菜もあるので、冬でも何とか5色の食彩を整えられますが、今でも食料事情は然程変わっていないようです。先日も10年以上ジュネーブに住む邦人が当方に伝えたのは、「スーパーの中を一周しても、買い物カゴは空っぽ。冬になると買いたいモノが無いのよっ」

日本やイギリスのように何でもある国というのが、むしろ異常なのかもしれません。ただ、イギリスでは日本と同じクオリティを求めるとなると、かなり高価な買い物になってしまうことがあります。

20170103_mac_008 ICIの創立者がオーナーだったマナーハウスの尖塔からの一望です。大きなグリーンハウス2棟は現在では苗木のための設備ですが、かつてはここでコリアンダーやミントなどのハーブ類を冬でも食べられるように栽培していたとか。その末裔は最近までイギリス航空日本支社長でした。彼は子供の頃、お爺さんの棲むこのマナーの庭(約1万坪)を独占して、親類中の子供たちと一緒に遊んでいたそうです。

当方は魚好きなので、ロンドンの街中の魚屋とは面識もあったのですが、2000年頃までに軒並み閉店してしまいました。ソーホーのBrewer Streetにあった魚屋で燻製たらこを買って、週末の晩酌でアテにしていましたが、同店は90年代の終わりに人知れず閉店すると、跡地は妖しげな遊興劇場に替わっていました。仕方なく、仕事場からほど近い百貨店のフードコートに行きます。ロンドンのウェスト・エンドで最高級の魚にお目に掛かれるところと言えば、オクスフォードストリートにあるセルフリッジやメリルボーン・ハイストリートにある昔ながらの魚屋でしょう。築地場内と比べると値段差が10倍はするであろうヒラメを奮発して買ったことがあります。

20170103_mac_006 ここ数年、魚屋の様子に変化が見られます。30年前はイカやタコなどは絶対に食べなかったんですけどねえ。かつての記事でも述べましたが、魚屋の店頭に鴨がぶら下がらなくなりました。金曜日に魚を食べなければならないキリスト教徒の中でも、魚嫌いだった18世紀のあるキングは、水鳥を魚屋に置くことを許可し、水の中(水上?)で暮らす、足ヒレのある水鳥も魚の一部であると見做しました。因みに、そのキングは痛風だったそうです。

高価な魚に見慣れて来ても、特別な行事や(食べたい)欲望の昂まりが抑え切れない時以外は、美しく新鮮な魚を眺めては目の保養をするだけで素通りすることが常になりますが、稀に日本の5倍くらいの金額で売られているモンクフィッシュ(あんこう)の白身を見つけると「あ、(この国では)バーゲン!」と思って、給料日前にも関わらず衝動買いしてしまったことがあります。実際、数日間分の食費代を費やしてしまったと記憶しています。

20170103_mac_007 塩漬けを低温で燻製にしたコッドロー(たらこ)です。塩分が強いので、大根おろしと一緒に土曜日の朝食にしたこともあります。塩分の無いマヨネーズと混ぜると、たらこマヨネーズになります。天然素材しか使っていないので、苦味が出ません。今や高級品になってしまったのが残念。

Billings Gate Fish Marketに行けば、新鮮な魚は得られますが、ひと箱に10㎏の鯖や鰺など箱単位での購入を強制されるし、小口では売って貰えないし、おまけに35種類と取扱いが少ないし、欲しい魚の供給が安定していないので、50%の確率で空振りの帰宅をしたことがあります。因みに築地市場で扱う魚の種類は350種類以上。築地が世界で一番取扱い品種の多い理由とは、日本の位置的な生物多様性の豊かさと、需要の多様性であると築地市場の元社長鈴木敬一さんから伺った話です。イギリス人に需要のある魚が少ないことと、我々が中高の地理で習ったドッガーバンクなど北海の漁場と、日本の近海漁場とでは、豊かさも多様性の面でも大きく異なるわけです。

これもまた20年以上前のことになりますが、在英中のある日、日本に行ったことも無く、和食を数回しか食べことのない英人の友人から食事に招かれたことがあります。「当日は和食をつくるわね」と言われたのです。親しいとは言え、失礼かとは思いましたが、「和食に必携の味醂と出汁はこの国では入手できないから簡単には作れないよ。君の得意な料理を作って下さい」と頼んだことがあります。寿司と刺身との区別さえつかない当時の情報量では英人の作る「ワショク?」はまだ信頼できなかったのですが、今時となっては、少し信頼してあげてもいいかもしれません。但し、生食できる魚の専門店を仄めかしてあげれば、ある種の諦めがついて健康被害に遭う可能性が低くなるかもしれません。イギリス人が作ってくれるのであれば、彼らの作り慣れているイギリス料理を楽しみたいものです。念のために申し上げますが、お招き頂いた際に自前の調味料を持参しては失礼に当たるのでご注意を。(はい、当方はいつも醤油を隠し持っておりますが…。笑)

20170103_mac_009 超有名店のサラダプレート。凝視しても判らないであろう桃のコンポット以外は見てのとおりです。普段から粗食に努め(?)ている当方には、何が原価を高くしているのか疑問の一皿です。最高の食材に最高の技術ということは判りますけど、普通の食材を使って素人の技術でも作れない料理ではありませんよね。息子のGF家族は誰かの誕生日など、機会あるごとにこの店に脚を運ぶそうです。最近の数年間、その家族とはイギリスに戻ると毎回高級レストランで食事していますが、当方はセレブリティではないので、付き合いのバランスが取れず、ため息が出そうです。ああ、お茶漬け食べたい。

Text&Photo by M.Kinoshita

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マック 木下

マック木下

ロンドンを拠点にするライター。96年に在英企業の課長職を辞し、子育てのために「主夫」に転身し、イクメン生活に突入。英人妻の仕事を優先して世界各国に転住しながら明るいオタク系執筆生活。趣味は創作料理とスポーツ(プレイと観戦)。ややマニアックな歴史家でもあり「駐日英国大使館の歴史」と「ロンドン の歴史散歩」などが得意分野。主な寄稿先は「英国政府観光庁刊ブログBritain Park(筆名はブリ吉)」など英国の産品や文化の紹介誌。

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