「英国ものとの幸せなつきあい方について」イラストレーターのソリマチアキラさんインタビュー | BRITISH MADE

My Favourite Journals 「英国ものとの幸せなつきあい方について」イラストレーター・ソリマチアキラさんインタビュー

2018.05.19

今回は、イラストレーターのソリマチアキラさんにお話をおうかがいしました。服に興味がある人なら、『GQ』『MEN’S Precious』『Men’s EX』などのメンズファッション誌に掲載されているスタイル画を目にした記憶があることでしょう。実は、ご自身も大の服好きであり、英国もの(※英国製または英国調のアイテム)好きなのだそうです。
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ソリマチアキラさんは1966年に東京で生まれて、1991年からフリーランスのイラストレーターとして活躍されています。下の写真は、ここ20年ほど公私を共にしてきたという手帳です。ご自身がジャケットをビスポークするにあたってのアイデアが書き込まれたりしています。これまでファッション雑誌や広告といった各媒体のためにスタイリッシュなイラストを書き続けてきただけでなく、私的な時間においても洋服に思いを馳せながらペンを走らせてきました。そういった時の積み重ねから見えてくるものとは……。「筆記具」から「靴」「タイ」「鞄」「眼鏡」「ビスポークスーツ」に至るまで、6つの愛用品について語っていただきました。

公私において信頼を置く筆記具はクラシックな意匠の英国製

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「ヤード・オ・レッドは、英国の筆記具ブランドです。このシルバー製のボールペンは、15年くらい使用してきたもの。ロックの帽子も被っていたりして英国製のアイテムをすごく贔屓にしている知り合いの方からの頂き物です。造形がクラシックで産業革命の頃の雰囲気があるというか、銀製品ならではのホールマークが入っているところにも英国らしさが感じられていいですね。これまでにペンを使って仕事の内容から次にオーダーしてみたいスーツのアイデアまで公私に渡っていろいろなことを手帳に書き込んできました。いまだにスケジュール管理もアナログ派(笑)。職業柄もあって、実際に手を動かして書いたことの方に安心感を覚えてしまいますね」

チャーチの3足は、それぞれが大活躍している模様

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「現在、所有している革靴はカジュアルなブーツも含めて30〜40足ほどになりますでしょうか。その中でも、やはり信頼性という意味において英国の靴は欠かすことのできないものです。セミブローグのディプロマット、フルブローグのバーウッド、モンクストラップのベケット。チャーチでは、この3足を愛用しています。ディプロマットは、いかにも英国のクラシックな靴といった顔つきでウールスーツからコットンスーツまで幅広く合わせることが可能です。ポリッシュドバインダーレザーを使ったバーウッドは、雨の日にも重宝しますね。ソールにゴムを貼って、雨への対応力をアップさせて履いています。ツイードなんかの武骨なジャケットスタイルにもぴったり。ベケットは、コットンスーツやジャケパンスタイルで少し洒落を利かせたい時に最適です」

ビスポークスーツに合わせるタイのこだわりとは

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「ビスポークのスーツは、〝長年に渡って着続ける〟という感覚で作っています。毎年、同じスーツを着たりするので、その時々の気分はタイで取り入れるようにしています。最も好きなのは、無地のタイ。ニットタイも数多く持っています。色でいうとベージュやブラウンが多いかも知れません。堅苦しくなく、それでいて上品に見えるからでしょうか。職業がフリーのイラストレーターなので、ビジネスっぽい匂いのする着方は避けるようにしています。ちょっと自由業な感じにまとめるというか(笑)。茶系のタイはネイビーやグレーのウールスーツはもちろん、ベージュのコットンスーツにも合ってくれて万能だと思いますね。これらのタイは、すべてドレイクスのものです。ネイビー地にパープルのドットが入ったタイは、パーティーの際にブラックウォッチのジャケットに合わせたりしています。実は、2015年の春夏シーズンにドレイクスのルックブックのイラストを自分が描かせてもらいました。クリエイティブ・ディレクターのマイケル・ヒルさんからご指名をいただき、彼との打ち合わせを経て、〝ドレイクスのウエアをどういう風に身に着けたらいいのか〟というスタイル画を描いたのですが、とても楽しい仕事で筆がよく走りました(笑)」

お気に入りの鞄はブラックとブラウンの2色を揃えて

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「ブライドルレザーは、長年使えて、その年月に合わせて変化していくところが魅力だと思います。僕は、これを〝経年美化〟と呼んでいます。どんどん美しくなっていくという感覚があるので、使っていて楽しいんですよね。使えば使うほど、使い手に寄り添ってきてくれるという感じです。世の中には使えば使うほどダメになっていくものも数多いのですが、グレンロイヤルの革製品は使い手にどんどん寄り添って美しくなっていくように作られていると思います。角の部分の色が少しはがれてきているのだって、愛おしく感じられます。このトートタイプの鞄は、いろいろなものを入れることができて、少しくらい荒っぽく使っても大丈夫という頼りがいのあるところが気に入っていますね。仕事の打ち合わせの際に資料をたくさん入れて出かけたり……。カジュアルにもスーツスタイルにも合わせられるので、とても重宝しています。同じ型で黒と茶(ライトブラウン)を持っていて、その日の服や靴の色に合わせて使い分けているんです」

掛ける人のキャラクターをさりげなく立てる眼鏡

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「サヴィル ロウ(ブランド名)の眼鏡は、1920年代頃の人々を撮影した写真集なんかでもよく見るセル巻きやテンプルエンドのアンティークっぽいスタイルが気に入っています。グレンロイヤルのトートと同じように、この眼鏡も同じ型で黒と茶(べっ甲)の2色を揃えています。あまり前に出すぎたデザインではなくて普通に作られているんですけど、その中に〝いいな〟と思わせてくれるものがあります。このテンプルエンドだと掛ける時の仕草までがクラシックな感じになるのもいいですよね。そういうところも含めて、身に着ける人のキャラクターをさりげなく盛り立ててくれます」

長年着てきたスーツからは、いいオーラが溢れ出る

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「これらは春夏シーズン用に仕立てたリネン、ウール、コットンのスーツになります。コットンスーツは2006年、ウールスーツは2008年、リネンスーツは2015年にバタクでビスポークしたものです。バタクの中寺さんは、サヴィル ロウ(ロンドンにあり、紳士服の聖地とよばれる場所)が華やかだった時代のスーツをバラして研究されていたりする方。そこを熟知した上で、着る人にとっての黄金比を考えながらスーツを作っています。凛々しさ、ストイックさ、端正な男らしさを感じさせてくれるのが英国調のスーツだと思います。ただ、軍服のようにガチガチに堅い雰囲気で凝り固まることなく、古いフランスやイタリアの映画に見られるようなソフトなムードを漂わせたりもしたいですね。画家の藤田嗣治の晩年の姿は、自分の目指すところです。タートルネックニットにツイードジャケットをさらっと着ているだけでも、そこに本人のキャラクター性がにじみ出ていたりしますからね。にじみ出る味わいがあるといいますか……。
グレンロイヤルの〝経年美化〟もそうなんですけど、使い続けて、着続けて、スーツの場合は似たようなものを何回か作り直してもいいんでしょうけど 、〝いつも俺、これだな〟 というようなものが人生の中で見つけられたらいいなと思います。ビスポークスーツなんて、まさに作ったばかりの頃よりも何年か着た後の方が格好いいですしね。自分の体型をなぞるように少し丸くなってきたりもして。長年使っていくグローブのようなものだと思っています」

最後に「本当の愛用品を見つけるなら、英国ものがいいですね。使えば使うほど、自分の生活に寄り添ってきてくれて、古くなるという形を借りながら自分らしいものなってくれるからです」とソリマチさんは語ってくださいました。さらには「英国ものに囲まれていると、〝今、何が流行っている〟ということで慌てなくなります(笑)。〝何を買ったらいいのか分からない〟という迷いがなくなりますよ」とも。英国ものとの幸せなつきあい方、ぜひとも参考に。


Text by Kiyoto Kuniryo
Photo by Kenji Yamada

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