Museumの楽しみ その5 扉の向こう | BRITISH MADE

London Yarns Museumの楽しみ その5 扉の向こう

2015.10.07

ロンドンでは1年に一度、「Open House」というイベントが開かれます。 デザインや建築により親しみを持ってもらい、関心を深めてもらおうという目的で1992年より始まり、普段はなかなか入れない建物を一般公開するというものです。

有名なところでは、今年の公開リストには「10 Downing Street」つまりイギリス首相官邸や、「ガーキン(きゅうりのピクルスのこと)」の愛称で親しまれている「30 St Mary Axe」などから、小学校や普通の住宅まで、100を優に超える建物が並んでいます。

週末のたった2日間の開催のため、全てを回ることはもちろんできないので、どこに行くかを吟味しなければなりません。リストを何度も眺めて、最終的に私は自分の住む地域の建物を見て回ることにしました。

最初に向かったのが、地下鉄Northern LineのAngel駅の近くにある「Angel Building」です。外観は、よくあるガラス張りのオフィスビルなので、これまで大して気にも留めていなかったのですが、中に入るととてもアートな空間が広がっています。どこを見ても、インテリア雑誌の中の写真のようです。
新しい建物かと思っていたら、1980年に建てられたビルの骨組みを生かして、より断熱性の高い素材で外壁を覆ったリサイクル建築だと知って、少し驚きました。
 

Angel Buildingの入り口。Angel Buildingの入り口。
入ってすぐに目を引くユニークなベンチ(もしくはアート?)入ってすぐに目を引くユニークなベンチ(もしくはアート?)
ロビーの一部。ロビーの一部。

普段はこの中の会社の従業員さんしか味わえない、テラスからの壮大な景色を見られただけでも、ここに来た甲斐がありました。
テラスからはロンドンの名所が一望できます。こんなところで働いたら、外ばかり眺めて、仕事にならないかも(?)テラスからはロンドンの名所が一望できます。こんなところで働いたら、外ばかり眺めて、仕事にならないかも(?)

次に向かったのは、「Finsbury Health Centre」という場所です。実は、ここは私の地元のクリニックでもあり、予防接種や処方箋をもらいに何度も中に入っているのですが、古びたこの建物がなぜOpen Houseのリストに載っているのか興味があったので、訪ねてみました。

今の建物の様子と、建てられたばかりの建物の様子。今の建物の様子と、建てられたばかりの建物の様子。
今の建物の様子と、建てられたばかりの建物の様子。

この建物が完成したのは1938年、当時はこの辺りはスラム街で、結核や伝染病などが蔓延していました。それを改善すべく、地域の医療の中心となる場所を作る目的で、作られたのがこの建物だそうです。
有名なBerthold Lubetkin氏が設計を担当しました。ここでは、ボランティアのガイドさんが丁寧に説明をしてくれて、面白い話が聞けました。残念ながら、全てをここに書くことはできませんが、私がいちばん感銘を受けたのが、人々に希望を与える場所を作ろうというコンセプトの元にこの場所が作られたこと(当時、結核と言えば死を意味する病でした。)、今の建築に通じる新しい考えをいち早く取り入れていることです。
そして、何より、今も現役で地域の人々の健康を支えているというのはすごいと思いました。


今の待合室の様子と、創設当時の待合室の様子。今の待合室の様子と、創設当時の待合室の様子。病院というより、サロンのような居心地の良い場所にしようと最初は受付窓口もなかったとか。 ガラスの壁は、結核に良いとされる日光をたくさん取り入れると同時に、明るい雰囲気が人々の希望につながるとして採用されたそうです。

日光浴もできるバルコニー。 日光浴もできるバルコニー。

翌日の日曜日には、「Marx Memorial Library」へ行きました。「資本論」で有名なカール=マルクス氏が唱えたマルクス主義を学ぶ場所として1933年に建てられたもので、収容されている本や資料は48,000冊以上、主に労働階級の運動の歴史や共産主義関連の書物が並んでいます。特に、スペイン内戦に関しての資料が充実していて、世界中から研究者が訪れるとにことです。

シンプルな外観ですが、中に入ると…。 シンプルな外観ですが、中に入ると…。

地下に迷路のように広がるトンネルにも書物がぎっしり。 地下に迷路のように広がるトンネルにも書物がぎっしり。このトンネルの入り口は、レンガでふさがれていて、発見されたのはごく最近だとか。まだ先があるそうですが、どこに続いているのかはまだ調査されていないそうです。

優美なデザインで有名なウィリアム=モリス氏(マルクス主義者でした。)やロシアの革命家レーニン氏ともゆかりが深く、彼らにちなんだものもたくさん展示されています。

ウィリアム=モリス氏が寄付したのぼり。ウィリアム=モリス氏が寄付したのぼり。
レーニンが使っていた部屋。 1902年から1903年の1年間、レーニンが使っていた部屋。そのまま保存されています。

最後に訪れたのは、「Finsbury Town Hall」です。現在はダンス学校として、また、演劇などの催し物や結婚式に使用されていますが、建設された当時(1895年)はTown Hall、つまり市役所のような事務所や議会場の役割も果たしていました。しかし、当初から事務機能だけではなく、人々の集いの場としての目的を持って建てられたため、あちらこちらにアールヌーヴォー様式の豪華な装飾が施されています。

Finsbury Town Hallの外観。 Finsbury Town Hallの外観。

館内のホール。 館内のホール。ここでもボランティアガイドさんが丁寧に説明してくれました。

館内全体がアールヌーヴォー様式の装飾で飾られています。 館内全体がアールヌーヴォー様式の装飾で飾られています。

デザインや建築を身近に見られたということも良かったのですが、それよりも、私にとっては、そこにしみ込んだ歴史や人々の思い、外から見ただけではわからない建物の息吹が印象に残りました。


2015.10.7
Text&Photo by Amesbury Kae

plofile
アムスベリー 加恵

アムスベリー加恵

ロンドン留学中にヴィンテージウエアを販売する「Old Hat」ロンドン店でアルバイトをしたことをきっかけに、紳士服に興味を持ち始める。職人の技を身近に見る機会にも恵まれ、英国のクラフツマンシップにも刺激を受ける。カレッジを卒業後、いったん帰国。結婚を機に2012年10月に再渡英、現在ロンドン在住。
夫に作ったニットタイが好評で、夫の友人たちから注文が相次ぎ、2013年11月にオーダーメイドの手編みニットタイを販売する「Bee’s Knees Ties」を立ち上げる。

Bee’s Knees Ties
ロンドンを拠点に、オーダーメイドの手編みのニットタイを制作、販売しています。
色はもちろん、ステッチや結び目の大きさ、長さや太さなど、お客様のお好みをおうかがいお伺いしてから、1本1本、手で編みあげます。素材にもこだわり、大量生産の糸にはない魅力を持つ糸を探し求め、何度も試作を繰り返した後に、品質が良く、ユニークで、長く愛用していただける糸だけを採用しています。手編みならではの親しみやすい風合いが、スーツだけではなく、ニットウエアやツイードにもよく合い、日常の色々なシーンでお使いいただけます。
ロンドンではサヴィル・ロウのテーラー「L G Wilkinson」にてお取り扱いいただいております。
facebook.com/bees.knees.ties

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