英国の銀世界 | BRITISH MADE

Little Tales of British Life 英国の銀世界

2015.12.09

BRITISH MADEでは銀器の名門Deakin & Francisの商品が扱われていますので、今回は銀(Silver)の話をしましょう。

結婚記念と銀について言えば、25周年記念が銀婚である他にも、17周年目に銀器をプレゼントする地域もあるようです。当方も17年目には、(純度の低い)銀のマグカップなどを頂いたことを思い出します。そして、25年目には義両親から旅行にでも行っておいでという意味で、お小遣いをもらいました。イギリスの通貨はSterling Pound(STG)と銀の品質に由来するので、「25周年婚を祝ってもらうには絶好の『銀』かもね」と妻と話したことを思い出します。

20151209_main617年目婚のとき、どなたかに頂いたビア・マグカップの底には、ピューターという合金で造られたという印がありました。銀よりもだいぶ軽く、金銀銅の次に当たる第4位の合金として何かしらのレースの入賞者に渡されることもあります。

ご存知のように英国の通貨表示にはGBP(Great Britain Pound)と前述のSTGとの二つがあります。1300年から英国銀貨と銀製品の鋳造材料は純度92.5%の銀と定め、その標準を作りだしたドイツ人のスターリングさんに因み、信頼できるSterling Silverから転じてSterling Poundへと銀貨以外の英国通貨にも使われる表示になったということです。そして、sterlingは「信頼に足る」という形容詞的用法にも使われるようになったのです。

20151209_main3拙宅で見つけた数少ない銀器。さて、どれでしょう?
20151209_main4茶漉し(シブ)を受ける小皿。残念ながら、英国製ではありません。純度も80%程度のものです。
20151209_main5それでも、比重が鉄よりもだいぶ重たく感じます。

結婚に関する華やかな話はさておき、英国人と銀との関わりと言えば、真っ先に思い出すのは1840年のアヘン戦争です。あの戦争はまさに銀貨の争奪戦線だったわけで、英国は産業革命を経ていたものの、大量生産可能なものは限られていたので、輸出できるものは富裕層用の時計や顕微鏡などの光学機器だけで、中国(清国)の大衆市場に輸出するものは殆ど無かったのですね。その一方で、清国はお茶、陶器、絹織物など対英貿易の一大輸出国でした。

つまり、清国で買い物すればするほど英国銀貨が流失し、英国の貿易赤字になってしまうところで思いついたのが、英国政府と商人とが結託し、清国にアヘンを売る三角貿易だったということも皆さんご存知の通りです。清国政府によってアヘン輸入と販売が禁じられても「アヘンの需要があるんだから売らせろよ」という妙な言い掛かり作戦で、アヘン戦争とアロー号戦争へと至って行くわけです。

これらの戦争にも勝って、英国は清国銀を蓄えて栄えていきます。その一方で、清国の人々は敗戦によって従来の倫理観も見失い、国力の衰退が始まります。そして、麻薬問題は世界に広がり、現在でも国連の監視下に置かれています。麻薬問題の原因を作ったのは軍力で国際経済を支配した英国でしたが、国際連盟や国際法の整備など後年の秩序を作り出す中心になった国もまた英国でした。英国は世界でもいち早く大人になり、世界の秩序を整えるための尽力を始めた最初の国と言えると思います。

さて、先に述べたように、銀の価値は純度に拠ります。その分析と鑑定を行い、品質保証印ホールマークを刻印する権威機関をアッセイ・オフィスと言います。1327年にロンドンに設置されて以来、エディンバラ、バーミンガム、シェフィールドの4都市に現存しています。

良い銀を入手するには、スターリング・スタンダードを基本に設けられたいろいろな規準をある程度知っておくと銀製品選びも楽しく、且つ安心して財産になるものを選べるでしょう。18世紀の英国では銀の純度を95%に上げて、ブリティッシュ・スタンダードが設けられたのですが、銀器としては柔らかすぎて使用に耐えず、製品自体も限られているということです。

Deakin & Francisはバーミンガム出身。いわば、1773年からアッセイ・オフィスを持つ銀生産の盛んな都市のエース企業です。銀には歴史あり、秘話あり、技術ありで、なかなか奥深い金属製品のひとつです。

20151209_main7かつて、Kings Streetにあった幻のアンティーク常設市場にあった店Fergusonは狩猟関係のアンティーク専門店。こちらでは、愛犬などの銀製品(フィギュアやブローチ)などが陳列されています。Fergusonは5年前に骨董通りであるKensington Church Streetに移動し、その後経営者が高齢のために閉店したそうです。信頼できる名店でした。
20151209_main8ハンティングは富裕層の趣味ですから、交流などその活動以外の面でも高価なものになります。こうして銀製品を友人間でお祝いなどの際に交換し合うのです。右にある番号付きの札は狩猟の際に携帯し、捕えた獲物の数を記録したものです。これもまた銀製品です。
20151209_main9亡き愛犬の姿を偲んで造られた銀製の置物。銀の像にされるほど愛された犬もさぞかし幸せな一生を送ったことでしょう。
20151209_main10この種の愛犬ブローチを目にすることは少なくありません。失礼ながら、どの犬も犬種の違いくらいしか区別できませんが、飼い主の思いによって、純度の高い銀製品になることで、その存在意義がいろいろな意味を持つことになるのですね。モノには魂が宿るということですが、銀製品となることでその魂はさらに崇高さを増すのかもしれません。
20151209_main11どちらもマグカップです。左のキツネのマグにビールやワインを注がれると、飲み干すまでずっと手に持っていなければなりませんね。

ロンドンにあるアンティークショップでも銀は扱われています。手に取って見せて貰える店も多いので、ホールマークを見て過去との対話を楽しむのも粋ではありませんか。また、ロンドンにはSilver Vaultという埋もれそうなほどの大量な銀製品だけで溢れかえる巨大な地下市場(全部で27店舗)があります。入場は容易ですが、出入り口は厚さ約1mもある金庫のようなドアを抜けて行くことになります。つまり、金庫の中にある市場なのですが、よく考えてみると巨大な「銀庫」なのですね。

20151209_main1ロンドンのホールボーン駅から徒歩で5分ほどの距離にあるシルバー・ボルトの内部。第二次大戦中の空襲にもビクともしなかった堅牢な造りで、現代でも銀製品取扱の権威を維持しています。
20151209_main227店舗は食器や装飾品など一応専門別になっていますが、ひとつの店で大方の銀製品が扱われています。British Cheapと言われる模造品や銀純度の低いものでも少しは揃っています。

新製品はもちろん、アンティークの銀製品も取り揃えています。婚礼用品として使う新しい銀器には、これからの歴史が吹き込まれて行きますが、アンティークの銀器には歴代の持ち主の思いが込められています。以上、皆様が銀器との対話を楽しんで頂くヒントになれば幸いです。

20151209_main12アンティークを直観だけで選ぶヒトは大体の場合は儲からないと言います。この本はガイド的なもので、アンティークを客観的に評価する基準を教えてくれます。オークション会場では鉄道時刻表のようにジッと眺めながら、学習する人、考えをまとめている人を見掛けることがあります。銀製品だけの専門ガイドもあり、かつてはSilver Vaultでも無料で配布されていました。
20151209_main13銀製品の項目をちらりとお見せすると、こんな感じです。どこの街の組織がその製品の品質保証をしているかが、これらの刻印で知ることが可能です。このような対照表を眺めてショッピングと歴史を楽しむのですね。


Text&Photo by M.Kinoshita

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マック 木下

マック木下

ロンドンを拠点にするライター。96年に在英企業の課長職を辞し、子育てのために「主夫」に転身し、イクメン生活に突入。英人妻の仕事を優先して世界各国に転住しながら明るいオタク系執筆生活。趣味は創作料理とスポーツ(プレイと観戦)。ややマニアックな歴史家でもあり「駐日英国大使館の歴史」と「ロンドン の歴史散歩」などが得意分野。主な寄稿先は「英国政府観光庁刊ブログBritain Park(筆名はブリ吉)」など英国の産品や文化の紹介誌。

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