意外にも旬を語るイギリス人 | BRITISH MADE

Little Tales of British Life 意外にも旬を語るイギリス人

2016.02.17

まだ冬は続きますが、食べ物がおいしい季節ですよね。特に海産物。イギリスでは冬になると魚屋に並ぶカレイやヒラメの種類が増えるような気がします。カレイはハリバット、ダブ、ウィッチ、そしてフロンダーなど、ヒラメは舌平目(tonguefish)、レモンソール、アメリカン・ソウル、ドーヴァー・ソウルなどです。産卵期の関係もあるのかどうかは判りませんが、冬の魚がドッガーバンク辺りでけっこう収穫されるそうです。イギリス人はフィッシュ&チップスやグリルにして食べることが多いですが、子持ちガレイなど、あの卵は捨ててしまうのですねぇ…。前回にお話ししたアンコウの胆同様に、あの卵も魚屋さんから貰い受けると、在英邦人は甘露煮にして食卓に出します。無料の食材ですね。イギリスの魚屋さんに余計な知恵が付かないことを祈るばかりです。

さて、旬の食材は、「はしり」の頃ばかりが注目されがちですが、さらに旨くなる時期は「旬」で、消費者が飽きる頃には安くなる「名残」の時期の方がさらに美味しくなるという話を、築地場内のお兄ちゃんから聞いたことがあります。

20160217_main1ロンドン・ブリッジのバラ・マーケット。かつては主に青果の扱われる市場だったと記憶しています。築地市場を勝手にイメージして初めて行ったのが80年代。卸売ばかりで素人の行くところではありませんでした。今や、当方に言わせれば、模擬店市です。
20160217_main2それでも、バラ・マーケットで旬のモノは揃います。お値段はちょっと、と言うか、日本と比べるとだいぶお高めです。

実は、イギリスでも同じことが当てはまります。90年代の事ですが、6月下旬の苺摘みのシーズンであるにも関わらず、例年のように開いている筈の苺狩り農園がその年に限って開いていないのです。「何でかな」と思いつつ7月の下旬の週末、いつものように車で農園脇を通り過ぎると、“ Pick Your Own ! ”と書かれた看板が立っていました。

幼いわが子らを連れて、義理両親宅に行く途中でしたが、少し摘んで持って行けば義母にも喜ばれるだろうと提案すると、妻も賛成してくれたので、しばし苺狩りをすることにしました。

7月にもなると苺狩りはシーズンの真っ只中ですが、下旬ともなると、もはや旬には出遅れているのですが、こちらの農家は何かの都合で開園時期が遅れてしまった結果として、たわわに実った苺を訪問客に提供するに至ったのでした。正に「名残」の苺です。当時、2歳だった息子と4歳の娘は口のまわりを真っ赤に染めて、名残を楽しんでいました。

「苺の収穫が7月?」と思われた方もいらっしゃるでしょう。実は80年代前半まで、日本の苺の収穫時期は5月でした。つまり、温室栽培が普及するまで、日本でもイギリスでも、苺の旬は自然の摂理に従っていたのですね。人類が勝手にその時期を1月頃に変えてしまったのはつい最近のことです。

20160217_main3イチゴ狩りの画像が見つかりませんでしたので、旬の果物をご覧ください。イングランド中に群生しているブラックベリーです。赤いものはまだ熟し切っていません。旬は8月の終わりから9月上旬でしょうか。パブリック・フットパスで見つけると、ハイキングしながら摘んで持ち帰ります。

今でもイングランドの苺のシーズンはウィンブルドンでクリーム・ストロベリーが振る舞われる6月の終わりから、辛うじて夏を感じる9月までです。イチゴ狩りは通常7月いっぱいでしょう。但し、旬を遅らせて開園するイチゴ狩り農園にはその後お目に掛かっていません。

当方が子供の頃、1960年代は、茄子(ナス)と言えば真夏の野菜でした。やがて、1970年代の後半から、ナスは年中出回るようになりました。イギリスでもナスは90年代の初め頃から一年中供給される食材になりました。産地はスペインやトルコなど地中海沿岸です。しかし、冬のナスはどこの国で栽培してもスカスカのスポンジなのです。買ってから3日目には急速にその品質を下げています。以前寄稿していた会員誌「農業経営者」の編集者さんたちに伺ったところ、冬に温室の有機栽培をしても、夏のようなナスはなかなか出来ないのだそうです。

20160217_main4秋はいろいろな動植物の旬、つまり豊穣の季節ですが、その前の季節にはこうして花を咲かせます。Cobnutというナッツです。こちらのウェブから正体を見つけて下さい。ケント州の名産です。

2月辺りの寒い季節でも原産地の北アフリカやトルコ、スペインなど現地に行くと判りますが、温室栽培の農家はここ10年間で確実に増えています。イギリスなどの大消費地の台所を支えるのはEUと周辺諸国と言えるのですね。

20160217_main5散歩の途中、広大で気持ちいい景色の前で無粋な看板を見つけてしまいました。ここはかつてパブリック・フットパスが通っていた場所です。没落した貴族が土地を売ると、次の地主さんは立ち入り禁止にしてしまいました。ノブリス・オブリージェの思想とは無縁な外国のお金持ちが地主さんのようです。

この季節は一年の中でも最も寒さが身に応えます。外に立っているだけで、エネルギーを消耗します。自らを野に放ちパブリック・フットパス を、とぼとぼハイキングをしていると身体が凍えて来るので、パブを見つけるたびに、「つい」立ち寄ってしまいます。ハイキングをしていたつもりが、いつの間にか「はしご酒」(パブのはしご)になってしまうこともあるのです。と言って、意図していくつものパブに行くわけではありません。イギリス人と一緒で、飲む目的だけで出掛ける際は一ヵ所のパブで管を巻いて終わりです。しかし、友人数名で散歩に出掛けると、「このパブのあのエールが飲みたい」「そのパブの地サイダーが飲みたい」と誰かが言いだしては、ハイキングとパブの両方を楽しみたくなるのです。

20160217_main6田舎のパブの画像は山ほど持っているのですが、このガストロパブは食事が美味し過ぎて、紹介したくなりました。ケント州の片田舎ですが、とても有名です。パブツアーを催行することがあれば、当方がいろいろなパブにお連れすることも出来るかもしれませんが…

ところで、お酒の飲み方にも旬はあります。
詳しくは、当方(ブリ吉)の書いたこちらの記事をご覧ください。Britain Park


Text&Photo by M.Kinoshita

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マック 木下

マック木下

ロンドンを拠点にするライター。96年に在英企業の課長職を辞し、子育てのために「主夫」に転身し、イクメン生活に突入。英人妻の仕事を優先して世界各国に転住しながら明るいオタク系執筆生活。趣味は創作料理とスポーツ(プレイと観戦)。ややマニアックな歴史家でもあり「駐日英国大使館の歴史」と「ロンドン の歴史散歩」などが得意分野。主な寄稿先は「英国政府観光庁刊ブログBritain Park(筆名はブリ吉)」など英国の産品や文化の紹介誌。

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