2018.04.24

英国クリエイティブの窓  マッキントッシュ生誕150年の春、デザインの街グラスゴーを歩く。

4月だというのに、その日のグラスゴーでは雪が降った。ロンドンからエディンバラを経由し、電車に揺られること6時間。疲れとあまりの寒さに、駅に着くなり「もう勘弁してよ」と独り言ちたが、まあここまでは織り込み済みではあった。やや大げさかもしれないが、この時期のスコットランドに春を期待する方がおかしい。
20180420_machintoch_Glasgow_people ホリデーの夕方、この寂しさは言葉にできない
目抜き通りのブキャナン・ストリートは、正午を過ぎたばかりだったが人もまばらで活気が感じられなかった。イースター・ホリデーの最終日であった。そんなことも知らずに旅程を組んだ自分を呪い、思い出した。この国では、例えショッピング街であっても休むときはしっかりと休むのだ。

観光に充てていた予定が全て白紙に戻り、やむなくホテルでチェックインを済ませることになった。そして、パソコンに向かう。日本からのメール、日本とのスカイプ、日本とのチャット。果たして、こんな働き方が自由だと言えるのか、僕にはよくわからない。時にはオフィスにいる方が楽なときだってある。それにしても。仕事に打ち込むのも悪くはないが、英国の連休に裏切られた気持ちがわだかまって結局頭を切り替えることにした。

明日の予定を立てよう。

一時間後には、パズルを組み立てるように夢中になっていた。今日の挽回に与えられた明日の自由時間は、午前中のたった120分だ。いかにして効率的に観光するか、はてさて——
20180420_machintoch_kelvingrove 雄壮なたたずまいのケルビングローブ美術館
グラスゴーはデザインの街として知られるが、これを牽引するのがグラスゴー美術大学などの教育施設や美術館である。このほか、具体的な人物でいえば、チャールズ・レニー・マッキントッシュの名前が真っ先に挙がるだろう。生前はそれほど評価はされていなかった彼だが、今や世界中に知られる建築家となり日本での人気も高いと聞く。どの作品も清廉としてシンプルなデザインが印象的で、とりわけ有名なのがハイバックチェアだろう。

実は、今年はマッキントッシュの生誕150周年。これを記念して、3月末からスコットランド屈指のケルビングローブ美術館で「チャールズ・レニー・マッキントッシュ展」が開催されている。このタイミングでグラスゴーに来て見に行かない手はない。そもそも、ここだけは絶対に外せないと決めていた場所だし。朝一番に訪れることにした。

そのあとはどこに行こうか。おそらくケルビングローブ美術館で一時間は費やすことになるから、もう一箇所が限界だろう。そうなると、あまり遠くにも行けない。いろいろと調べてみると、歩いて5分ほどの場所に同じくヒゲの建築家(マッキントッシュのこと)に関わる施設があることがわかった。グラスゴー大学内にある、その名もマッキントッシュ・ハウスだ。午前中は30分のガイドツアーがあるということで、迷わずここに決めた。他にも古本屋さんや大聖堂も行ってみたかったけれど、今回はこの2つだけ。マッキントッシュ祭りとあいなった。
20180420_machintoch_mackintoshhouse マッキントッシュ・ハウスの外観。大学の一部
さて、ここまで書いておいて、残念ながらマッキントッシュ作品の画像はない。というのもケルビングローブ美術館でもマッキントッシュ・ハウスでも、撮影禁止だったからだ。どうかお許しいただきたい。慰めになるかわからないが、マッキントッシュ・ハウスのウェブサイトに一部スライドショーがあるので、ここでなんとなく雰囲気は感じていただけると思う。

とにもかくにも、実際に彼の作品を目の当たりにすると、思わず息を飲むこと請け合いだ。どちらの場所でも僕は夢中になって、時間があっという間に過ぎていった。アートには疎い素人の感想ではあるけれど、彼の作品の細部に徹底して魂が込められていることはわかる。こまやかな計算があらゆるところに見られるのだ。その圧倒的な美意識が、三次元に昇華された様はどれもこれも美しい。
20180420_machintoch_book1 150周年展のパンフレット
例えば、マッキントッシュ・ハウス。ここは、かつてマッキントッシュがグラスゴーに住んでいたときの部屋をそのまま移築させ、当時の様子を再現したスペースなのだけれど、足を一歩踏み入れただけでそのまま心地よい。まるで魔法をかけられたかのようだ。彼はこの家を借りてすぐあらゆるものをリノベーションしたそうだが、ガイドの説明で興味深いものがあった。

曰く、玄関を入ってまず2メートルほど先の壁に窓(左側)と鏡(右側)がレイアウトされているのだが、これは第一印象でその家を広く、くつろいだ空間に見せるための演出だったそうだ。これだけではない、他にもワクワクするような仕掛けが施されている。これ以上書くと野暮になるから、このへんにしておこう。グラスゴーを訪れた折にはぜひマッキントッシュ・ハウスのガイドツアーに参加し、ご自身の目で確認してもらえればと思う。

いずれにせよ、たった2時間でここまで満喫できるとは思っていなかった。このほかにもマッキントッシュにまつわる建築や施設はグラスゴー市内にたくさんあるようだ。また時間を見つけて行かなければ。6時間の電車の旅はあまりに長いけれど、その価値はある。
20180420_machintoch_book2 150周年展で飾られていたイス

Text&Photo by Ishino Yuichi

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Ishino Yuichi

Yuichi Ishino

ロンドン在住。放送局、出版社、大手Webメディア編集部マネジャーを経て、日本のデジタルプロダクション/エージェンシー「TAM」のイギリス子会社「TAMLO」代表。企業に向け、ウェブメディアの戦略コンサルティング、SNS施策、デジタル広告の運用、コンテンツの制作などを日英両言語でサポートする。欧州におけるデザインシンキング・セミナーも主催。好きな英国ドラマは『フォルティ・タワーズ』。ウィスキーはラフロイグ。

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