2016.11.17

English Garden Diary vol.4
英国ガーデンの魅力を世界に知らしめた天才造園家ケイパビリティ・ブラウン

英国では10月末から冬時間となり、日本との時差は8時間から9時間に変更。午後4時頃には真っ暗となる季節が到来しました。来年の春に向けてチューリップや水仙の球根を植え終えた今は、家の中でガーデンニング専門誌を見たり、英国ガーデンの歴史について調べるのにぴったりの時間です。

さて、英国のガーデン史といえば、今年はとても重要な年にあたります。そのため、「イヤー・オブ・ザ・イングリッシュ・ガーデン(Year of the English Garden)」と銘打ったキャンペーンが行われ、特に春以降、英国各地のガーデンで多くのイベントが開催されてきました。

なぜ今年がこのガーデニング王国にとって重要かといえば、世界的に著名なランドスケープ・デザイナー(造園家)であるランスロット‘ケイパビリティ’ブラウン(Lancelot ‘Capability’ Brown)の生誕300周年にあたるからです。 ブラウンについて日本ではあまり知られていないかもしれませんが、英国ではガーデニングに全く興味がない人でも必ず知っているというほど有名な人物です。というのも、ブラウンは、18世紀に人気となった「風景式庭園」を英国中に広めた第一人者だからです。

20161117_garden_1 ランドスケープ・デザイナーとしてだけでなく、起業家、ビジネスマンとしての能力にもたけていたブラウン ©Portrait of Lancelot ‘Capability’ Brown, c.1770-75, by Richard Cosway (17421821)/Private Collection/Bridgeman Images. 
当時、富裕層の間では、庭園を改良することが流行っていました。そして、その機にあわせ、それまでは幾何学的なデザインのフォーマル・ガーデンが主流だった英国の庭を、まるで自然の景色そのままのような風景に作り替えてしまったのがブラウンだったのです。

彼がデザインを手がけたのは超リッチな人々の邸宅だったため、「庭」といってもそれぞれの規模は巨大です。それがイングランドとウェールズで250にも及ぶ(総面積にしてサッカー場約1000個分にあたる)というのですから、英国庭園の歴史に与えたその影響の大きさは大変なものでした。そして現在、人々が「英国らしい、自然な風景」と思って見ているその景色の多くは、実は彼によって「人工的に生み出された」風景なのです。そのため彼は「英国の庭園史上、最も偉大なランドスケープ・デザイナー」とか「庭園の魔術師」などと評されることもあります。

20161117_garden_2 壮大なスケールのブレナム宮殿
©Blenheim Palace
20161117_garden_3 石造りの橋もブラウン・デザインの特徴のひとつです
©Blenheim Palace
ところで彼の名前の「ケイパビリティ」というのは、本名ではありません。彼が依頼を受けた庭園の持ち主であるクライアントに対し「この庭はもっと素晴らしくなる可能性(ケイパビリティ)がある」と言うのが口癖だったため、このようなニックネームがつけられたと言われているそうです。

ブラウンのデザインした庭は「自然な風景」のように見えるのが特徴ですが、すでにあった樹木を取り除いて、新たに多くの木を植えつけたり、もともとなかった池や湖を作り上げたり、ときにはお屋敷からの景観を邪魔する近隣の村ごと移動させてしまう、ということさえ行った大規模な事業でした。

1764年にはハンプトン・コートのロイヤル・ガーデナーとして指名され、名実ともに英国トップのランドスケープ・デザイナーとなったブラウン。ひとつの庭園づくりに早いもので2年、長いものでは30年もの年月を要しました。その間、彼は各地を馬に乗って訪ね、指揮をとりながら美しい景観をつくりあげていったといいます。

20161117_garden_4 ハンプトンコート・パレスにはブラウンが住んでいたことを示すブループラーク(青い銘版)がかけられています ©Historic Royal Palaces
20161117_garden_5 「ダウントン・アビー」の舞台となったハイクレア城。レバノン杉はブラウンの庭園によく植えられている特徴的な植物です © Highclere Castle
英国内には、人気テレビ・ドラマ「ダウントン・アビー」のロケ地として知られるハイクレア城や、ウィンストン・チャーチル生誕の地であるブレナム宮殿、イングランド北部のチャッツワース・ハウスなど、現在でも一般公開され、彼の手がけた庭園を見ることができる場所がいくつもあります。

特にユニークなのは「ハハー(ha-ha)」と呼ばれる地下に埋め込んだ形の壁です。この面白い名前は「ハハーン!」「なんと!」といった感じで、これを見た人たちが感心することからつけられたといいます。というのも、現在のような電動芝刈り機がない時代には、広大な庭園に生える芝生管理のために、牛や羊などの動物を飼っていました。ただし、それらの動物が一定の距離以上、屋敷の建物に近づくのを避けるためにフェンス(壁)が必要でした。ところが芝生の途中に高い壁を立ててしまうと、屋敷から見る風景が台無しになってしまいます。そこで、庭園の持ち主が住む建物からはまるでそのまま芝生による緑のカーペットが続いているかのように見えるけれど、動物たちには登ることのできない壁を作りました。それがこの「ハハー」なのです。

20161117_garden_6 「ha-ha」の様子 ©National Trust Images, David Levenson
 「ハハー」自体はブラウン以前に考案されたものですが、こうしたしかけを使いながらブラウンが作り上げた庭園は、間違いなくその後の英国の景観を作り上げたのです。

英国のガーデンに興味をもたれたら、緑豊かで穏やかなこの国の田園風景を形作ったといわれる、ブラウンの手がけた庭を訪ねてみてはいかがでしょうか。

ケイパビリティ・ブラウン生誕300周年記念ウェブサイト
http://www.capabilitybrown.org/


Text by Mami McGuinness

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マクギネス真美

マクギネス真美

英国在住の編集&ライター。9年半の雑誌編集を経て「ちょっと長めのホリデー」のつもりで渡英。たくさんのあたたかな人たちとの出会いにより滞在が長期化し、現在に至る。 2004年より英国を拠点に書籍・雑誌・新聞・インターネット等にて企画、編集、取材、執筆、コーディネイト、撮影を手がける。テーマはライフスタイル、ガーデニング、料理、人物インタビューや旅ガイドなど。メディアを問わず、英国の素敵なひと、場所、ものごとをひとりでも多くの方に伝えたいと考えている。『英国ニュースダイジェスト』では英国の食に関するコラム「英国の口福を探して」を連載中。2012年以降、文化放送、NHKラジオ、TOKYO FM等のラジオ番組に出演も。
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