イギリス人の暮らしに寄り添ってきたラベンダー | BRITISH MADE

2018.07.19

English Garden Diary イギリス人の暮らしに寄り添ってきたラベンダー

青空にラベンダーの紫がよく合う。サマセット・ラベンダーにて。
目の前に広がる一面の紫。それは、6月から8月にかけて、イギリスで見かけることのできるラベンダー畑です。異常気象かとも思えるほどに好天気が続き、気温も30度近くまで上がる日もあるここ数週間のイギリス。でも、澄み渡る真っ青な空の下に続く紫色の花畑は、その芳香とともに、爽やかさを感じさせてくれます。
ラベンダー・ファームは気持ちのいいカントリーサイドにあることが多い。
ラベンダーの産地というと世界的に有名なのは南フランスです。まぶしい日差しが降り注ぐプロヴァンスに対して、イギリスはいつもどんよりした曇り空というのが一般的なイメージ。なので、イギリスがラベンダーの産地だということは、あまり知られていないかもしれません。私自身、2005年に取材でコッツウォルズにあるラベンダー園を訪ねるまでは、この国で、こんなにたくさんのラベンダーが咲く様子を見られるとは思ってもいませんでした。

でも、ラベンダーは、イギリス人の暮らしに最も身近なハーブのひとつなのです。
ラベンダー畑の中で、人々は思い思いに時を過ごしている。
私がイギリスに来てすぐ、ホームステイをしていたときのことです。ある日、当時小学3年生だったその家の次男ジョーが、足に切り傷をして泣いていました。ほんの少し血が滲んでいるだけで、それほど深刻なケガではなさそうでしたが、ジョーは「この世のおしまい」とばかりに大声をあげて泣いています。すると、母親のルースが、キッチンの端っこにある戸棚から小さな茶色い瓶を取り出して、それを脱脂綿につけ、傷口に塗りました。
「痛かったね。これをつけたらよくなるから。」となだめるルースが手にしていたのが、ラベンダーのエッセンシャル・オイルでした。
「薬じゃなくて、ラベンダーをつけるの?」と私が聞くと、「そう、このくらいのかすり傷なら、これで十分。ラベンダーのオイルはブーツ*で買えるし。」と教えてくれました。一般の家庭で、こんな風にラベンダーが利用されているというのに、ちょっと驚いた出来事でした。
イングリッシュ・ラベンダー(Lavandula angustifolia)は、耐寒性に優れ、イギリスの気候に合うこともあり、一般家庭のガーデンでも、よく育てられている。
現代に限らず、イギリスでは古くから薬用ハーブとして利用されてきたラベンダー。イギリスのハーブ第一人者といわれるジェッカ・マクヴィカーさんの著書『ジェッカズ・コンプリート・ハーブブック』によれば、ラベンダーは地中海地方、カナリー諸島、インドが原産地。ローマ人はお風呂の中にラベンダーを入れていたといい、イギリスには、ローマ時代にもたらされたのではないかと考えられているそうです。

ラベンダーは、イギリス王室とも深いかかわりがあります。というのも、エリザベス一世は、悪臭とペストなどの疫病を避けるために、常にラベンダーを身につけていたそうです。また、偏頭痛の解消にラベンダーのお茶を飲んでいたことが知られています。
ラベンダー・ティーはお土産にも。
さらに、ヴィクトリア女王はこの植物をこよなく好み、毎日この花を宮殿に飾っていました。また、イングランド・サリー州のサラ・スプルールさんを女王ご用達の業者に指名し、彼女の作るラベンダー・オイルを常に用いていました。女王のラベンダー好きを真似て、貴族の女性たちは揃ってこの香りをまとっていたと言います。また、その影響は一般市民にも及び、当時のロンドンでは、ラベンダーの収穫時期になると街でラベンダーの花束を売る屋台なども出ていました。

こうしてイギリスの人々の生活に浸透していたラベンダーですが、この国でのラベンダー栽培は、生産コストの高騰や、ライバルの生産地であるフランス産ラベンダーの勢いに押され、衰退していきました。

それが、ここ20年前後の間に、再びラベンダー栽培をする農家が現れました。多くは家族経営で、それぞれ規模も違いますが、共通しているのは、訪れた人がくつろぐことのできるカフェがあったり、畑で収穫されたラベンダーを使ったエッセンシャル・オイルやポプリ、ラベンダー・ティーなどのお土産品を売ったりしているところ。まずは地元の人々に知られるようになり、徐々に観光客が訪れるような人気のラベンダー・ファームになってきたのです。
左:ヒッチン・ラベンダーは20エーカーの場所に、約40kmに渡ってラベンダーが植えられている。
右:ヒッチン・ラベンダーで摘んだラベンダーを使って、サシェを作ってみた。
左:サマセット・ラベンダーでは、シェドと呼ばれる小屋が可愛いショップになっている。 右:ファームでは、ラベンダーの苗を購入することも可能。
ラベンダー・ファームは、ロンドンから日帰りで行くことのできる場所もありますので、日本からの観光でイギリスにいらした方も、ぜひ足をのばして訪ねてみることをおすすめします。ファームオリジナルの商品は、日本へのお土産にもきっと喜ばれるに違いありません。

*ブーツ(Boots)は、イギリス内にあるチェーン系の薬局。かつて日本にも出店していたことがありました。

イギリス国内で人気のラベンダー・ファーム


● ヒッチン・ラベンダー(Hitchin Lavender)
場所:Cadwell Farm, Ickleford, Hitchin, Hertfordshire SG5 3UA
開園期間:5〜9月、毎日 10:00-17:00
入園料:大人6ポンド、14歳以下3ポンド、5歳以下は無料(入場料にはラベンダー摘みが含まれる)
ウェブサイト:www.hitchinlavender.com

● サマセット・ラベンダー(Somerset Lavender)
場所:Horsepond Farm, Faulkland, Somerset BA3 5WA
開園期間:5~9月、水~日曜日 10:00-17:00
入園:無料
ウェブサイト:www.somersetlavender.com

● コッツウォルド・ラベンダー(Cotswold Lavender)
場所:Hill Barn Farm, Snow Hill, Broadway, Worcestershire WR12 7JY
開園期間:6~8月 毎日10:00-17:00
入園料:大人4ポンド、子供2ポンド(15歳以下)、5歳以下は無料
ウェブサイト:www.cotswoldlavender.co.uk

● メイフィールド・ラベンダー・ファーム(Mayfield Lavender Farm)
場所:1 Carshalton Rd, Banstead SM7 3JA
開園期間:6~9月 毎日9:00-18:00
入園料: 大人2ポンド、16歳以下は無料
ウェブサイト:www.mayfieldlavender.com

Photo&Text by Mami McGuinness

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マクギネス真美

マクギネス真美

イギリス在住の編集&ライター。9年半の雑誌編集を経て「ちょっと長めのホリデー」のつもりで渡英。たくさんのあたたかな人たちとの出会いにより滞在が長期化し、現在に至る。 2004年よりイギリスを拠点に書籍・雑誌・新聞・インターネット等にて企画、編集、取材、執筆、コーディネイト、撮影を手がける。テーマはライフスタイル、ガーデニング、料理、人物インタビューや旅ガイドなど。メディアを問わず、イギリスの素敵なひと、場所、ものごとをひとりでも多くの方に伝えたいと考えている。『英国ニュースダイジェスト』ではイギリスの食に関するコラム「英国の口福を探して」を連載中。2012年以降、文化放送、NHKラジオ、TOKYO FM等のラジオ番組に出演も。
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