2016.05.24

英国靴対談 中川一康(UNION WORKS 代表)&ウィリアム・チャーチ(JOSEPH CHEANEY オーナー)

ユニオンワークス外観

無類の靴好きリペアショップオーナーと、
ノーザンプトンシューズの作り手が、ノーザンプトンシューズを語り尽くす。


「ユニオンワークス」は創業21年、現在都内に4店舗を構えるシューズリペアショップ。確かな技術と誠意ある仕事が評判を呼び、多くの靴好きの方が通うことでも知られています。創業者で代表の中川一康さんご本人も無類の靴好きにして、特に靴の聖地と言われる英国・ノーザンプトンの靴をこよなく愛する方。今回はジョセフ チーニーのオーナーであるウィリアム・チャーチさんの来日を機に、ノーザンプトンシューズの作り手と、ノーザンプトンシューズをこよなく愛するシューリペアショップのスペシャル対談が実現。すべての靴好き必見のインタビューをお楽しみください。

中川さんは靴の中でも特にノーザンプトンシューズが大変お好きだということで、今回お時間をいただきました。中川さんは、ウィリアムさんの手がけているブランド、ジョセフ チーニーをどうご覧になりますか?

中川一康
中川一康 「僕は自分でも病的と言えるほどノーザンプトンのシューズを愛しているんですね。そういう僕にとって、実はそのメーカーの歴史とかは関係がなくて、あくまでも今のモノが良いかどうかなんです。ノーザンプトン製シューズというのは、基本構造は変わらないと僕は思っています。同じノーザンプトン製の靴の中でも、一番安いものと最高級ものにおける一番の差は素材です。あとは普通の人が見分けられるかどうかというレベルの細かいテクニックの話になります。そういう中でチーニーは丁度良いレベルの、どんな人でも買えるシューズではないでしょうか」

ウィリアム・チャーチ 「中川さんのおっしゃる見解は私も同じです。我々チーニーもノーザンプトンという大きな傘の中にある存在だと思っています」

中川 「チーニーはすごく立派なお店がロンドンに4つくらいありますよね」

ウィリアム 「はい、ありがとうございます。それが我々がノーザンプトンのシューメーカーとしての特徴の一つでもあります。お店はお客様とダイレクトにお話できる場所ですから。あと最近では新しいラスト(木型)の開発に挑戦したり、イギリス製のコードバンを使った靴を世に送り出すなど、私たちは歴史に甘んじることなく、今の時代のチーニーを作ろうとしているんです」
ウィリアム・チャーチ

中川さんが考える良い靴の条件とはどんなものですか?

中川 「良い靴かどうかというのは、やっぱり履いてみないと分からないと思っています。極論、1年ぐらい歩いてみないと分からないし、Aさんにとって良い靴であっても、Bさんにとっては悪い靴かもしれない。靴と足の相性もありますし、その人のライフスタイルもありますから」

ウィリアム 「ひとりひとり足の形は違いますので、本当にその通りですね。私も完璧な靴というものはないと思います」
二人の革靴

ではリペアする側の観点から、良い靴と悪い靴というのはありますか?

中川 「多少誤解されるかもしれないですけど、我々リペア側にとって良い靴というのは、直すことを前提に作られた靴になりますね。車のタイヤと同じことですが、ソールにしても定期的に変えることを前提に作っているもの。だから、ノーザンプトンのシューズは良いんです。一方で我々が一番直しにくいのはスニーカーです。なぜなら直すこと前提に作っていないですから。それはもちろん靴としての良し悪しの問題ではないのですが」

ウィリアム 「ノーザンプトンの靴というのは、そうやって修理することを前提にしていますし、その靴ができるだけ長く生きられるように作っているのがノーザンプトン製の靴の良さだと私も思います。そしてそれは我々にとって重要なサービスの一つでもあります。我々の工場に修理で帰ってきて、ソールを張り替えたりすることは、靴に愛着を持ってもらうためにはとても必要なことですから」

ちなみにユニオンワークスさんに持ち込まれるノーザンプトン靴というのは、
どれくらいの割合ですか?

中川一康とウィリアム・チャーチ
中川 「当社は創業して21年になるのですが、昔はノーザンプトン製の靴が7〜8割を占めていました。今は女性のお客様が増えて、レディース靴の比率が増えているので、その割合はかなり変わってきています。ただしメンズシューズに関して言えば、7割くらいがノーザンプトン製の靴ではないでしょうか。」

ウィリアム 「ちなみにユニオンワークスさんには、月にどれくらいの靴が修理に持ち込まれるのですか?」

中川 「全店舗合わせて月に3000〜4000足ですね。とはいえその中にはとても簡単な修理のものも含まれています」

ウィリアム 「すごい数ですね。なぜ中川さんはシューリペアの世界に進んだのですか?」

中川 「僕は昔から靴が好きだったのですが、実は自分の靴を修理に出した時に散々な目に遭ったんです。当時はインターネットもないので、調べられなかったところもあるかもしれないのですが、僕が安心して修理に出せるところがなかったんです。あの当時もすでにノーザンプトン製や世界中の良い靴はたくさん日本にも入っていましたけど、『みんなどこで直すんだろう?』と思ったのが最初です。当時の靴修理屋さんというのは、今もそういうところはありますけど、職人さんがサンダル履いてエプロンして、という格好のところばかりだったんですね。僕は自分の大事な靴を、そういう人に大事な靴を任せたくなかった。だからウチのショップスタッフはみんなしっかりとシャツを着て、ちゃんとした靴を履いて、タイを締めたスタイルでお店に立ってもらうんです。そういうところも信頼につながることだと考えていますので」

ウィリアム 「素晴らしいですね。このお店の雰囲気もそうですが、ユニオンワークスというブランドを確立されていますよね」

中川 「ありがとうございます。でもウチはノーザンプトンのいろんな方達に助けていただいたんですよ。特に創業当時や最初の10年ほどは本当にお世話になったので、今でもとても感謝しています」

それは当時どんなことがあったんですか?

シューズリペア素材1
中川 「当時日本で靴修理屋を始めようと思ったら、リペア素材がたくさんある浅草に行くしかなかったのです。僕も起業してまず浅草に行ったんですけど、非常に排他的で。機械にしても工具も材料も満足の行くものが揃えられませんでした。もうイギリスに、ノーザンプトンに行くしかないと思って飛び込んだら、“本物”があるわけです。僕が欲しかったリペアに必要な素材が揃っていたんです。本物だ!と感動しましたね。そしてそこのみなさんが本当に優しくて。『東京からこんなところまで何しに来たの? えっ、材料買いに来たの?』って喜んでくれて、お茶まで出してくれたんです(笑)。嬉しかったですね」

ウィリアム 「それは良かった。でも中川さんみたいな方が日本に限らず世界中にいてくれることがノーザンプトンにとっては重要なことなのです。靴をお求めになったお客様がユニオンワークスのような、ちゃんと本物の素材を使って蘇らせることによって、靴を長く履いていただけますし、そういった方が増えていくことを望んでいます。次はいつ頃ノーザンプトンにいらっしゃいますか?」
シューズリペア素材2
中川 「毎年春は必ず行っているんですが、今年は仕事の都合でまだ行けていないんです。でも夏までには行くと思います。素材の仕入れ、あとは我々もノーザンプトンでオリジナルのシューズを作っているので、そのブラッシュアップのミーティングもすることになっています」

ウィリアム 「もしお越しになるなら、ぜひチーニーの工場にも来てくださいね。120年も歴史のある建物の中に、工場と我々のいる本社がありますので。その名も“シューメーカー”という地元のビールもありますから、乾杯しましょう」

中川 「ありがとうございます。ぜひ行ってみたいですね。僕は靴オタクとして、ぜひチーニーに作って欲しいなと思うものが実はあるんです」

ウィリアム 「それは何ですか?」

中川 「チーニーの1886”という木型、僕も凄く好きなんです。でも現在は外羽根のモデルしか作っていないですよね。それはなぜですか?」

ウィリアム 「現在日本で展開している“1886”ラスト(木型)を使ったコレクションは、日本に入っているさまざまな素晴らしいメーカーのドレスシューズがある中で、まずはチーニーとしての独自性を打ち出したかったのです」

中川 「ああ、そうだったんですね。個人的にはこの木型で内羽根モデルを作って欲しいなと思っていました」

ウィリアム 「面白い視点ですね。ぜひ検討させてください」

中川 「僕はどんなに良い革を使ってもらって構いません!(笑)。楽しみにしています」


Photo by Junko Yoda / 依田純子
Text by Yukihisa Takei(HIGHVISION) / 武井幸久


UNION WORKS(ユニオンワークス)

東京:渋谷、青山、銀座、新宿 神奈川:高津で革靴(メンズ・レディース)と鞄の修理と販売を行っております。ヒール(かかと)の修理、オールソール(靴底の張り替え)、サイズの調整など、鞄や革小物の修理もご相談ください。

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