2017.03.23

ブリティッシュ“ライク” 3月はライオンのようにやってきて子羊のように去っていく

先日、名作「オリエント急行殺人事件」を久々に観た。このコラムで何度か述べているが、探偵物や推理物は、小説や映画問わず好きなジャンルである。同作は、アガサ・クリスティ原作の映画で、私立探偵エルキュール・ポアロが活躍するシリーズだ。

ここで少々核心部分に触れる。豪華列車オリエント急行で遺体が発見され、偶然乗り合わせていた名探偵ポアロは、これを殺人事件と推測する。しかし、疑わしい人物たちには全員アリバイがあり、捜査は行き詰まる。ポアロは、残された証拠を元に、デイジー・アームストロング誘拐事件との関連性を見出し、事件の謎を解いていくという内容だ。柔軟性があり、機転のきいたポアロらしい事件の締めくくり方は一番の見所だ。

Murder on the Orient Express (1974) Trailer
内容さながら、この映画で興味深かったのは、衣装の備品たちが重要な手がかりとなっていることだ。例えば、ハットボックス。第二次世界大戦後、無帽でも失礼にあたらないスタイルが定着し、帽子をかぶる方は減少した。それに伴い衰退してしまったアイテムだろう。アンティークショップや、瀟洒な帽子屋にでも行かない限りなかなか見ることがないアイテムだ。続いてはパイプクリーナー。そもそもパイプを愛用する方自体が希少なゆえ、この備品の存在が世に知られる機会が少ないのである。オリエント急行は、複数の国をまたぐ長距離移動手段だ。中でも各国の富裕層たちが利用する特別車輌では、それに付随する稀有なアイテムを目にすることができるのも魅力の一つである。

スーツ、シューズ、シャツ、タイなど、主役となるアイテムに頓着する方は多いが、それを支える備品、例えば、ハンガー、ガーメント、シューツリー、ブラシなど、備品にまで手が行き届いている方は類まれだ。備品には必ず意味があり現存している。歴史などから深く掘り下げてその相互関係を理解すると、装いにも奥行きが出るのではないだろうか。

映画を鑑賞する上で、衣裳や美粧などがその年代を見分ける重要な要素になることは言うまでもないが、衣裳にまつわる備品によって時代を考証したり、ひいては作品に登場するキャラクターを紐解く重要なヒントとして“推理”してみるのも、また違った魅力があるのではないだろうか。

アガサクリスティ
Photo&Text by Shogo Hesaka

plofile
部坂 尚吾

部坂 尚吾

1985年山口県宇部市生まれ、広島県東広島市育ち。松竹京都撮影所、テレビ朝日にて番組制作に携わった後、2011年よりスタイリストとして活動を始める。2015年江東衣裳を設立。映画、CM、雑誌、俳優・タレント・文化人のスタイリングを主に担い、各種媒体の企画、製作、ディレクション、執筆等も行っている。山下達郎と読売ジャイアンツの熱狂的なファン。
江東衣裳
http://www.koto-clothing.com

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