2015.09.15

Little Tales of British Life 口を開くとお里が知れる英国人

出勤前のある朝、BBC(英国放送協会)のテレビニュースを点けるといつもと何かが違っていたので、局を間違えたかなと思いました。

1990年代の初め頃、出勤前のある朝、BBC(英国放送協会)のテレビニュースを点けるといつもと何かが違っていたので、局を間違えたかなと思いました。まず、プレゼンターの声を聞いて違和感を覚えました。「あれ?スコットランド人?」

出勤前の慌ただしさの中にも関わらず、身繕いしながらテレビに見入ってしまいました。テレビからの声が気になったのですから、聞き入るだけで良かったのですが、高校時代の政治経済の先生のように、シリアスなニュースを親身に伝える雰囲気を持つ声を久々に耳にしたので、これまでのお堅いイメージのあったBBCプレゼンターとは異質の人物に親しみを抱いた瞬間でもありました。

映画「マイフェア・レディ」の舞台となったコヴェント・ガーデン。オードリー・ヘプバーンの演じるイザベル嬢の話す言葉がこの映画のテーマのひとつです。果たして、メイフェアなのか、マイフェアなのか。言葉の矯正をしてくれるヒギンズ先生が次第にイザベルに魅かれていくところと、イザベルの言葉遣いと知性を養っていくイザベルが人としての主体性を持ち始める変化も注目点です。

BBCイングリッシュという言葉が存在するほど、BBCは日本放送協会同様に綺麗な標準語を使うことで有名なテレビ局だと誰もが思っていたのですが、この突然のスコットランド人の起用は当時の英国では相当な話題になりました。そして、その後BBCの朝のニュースの視聴率が高くなったのです。

ホテル用の花籠運びの様子です。この画像の時代からホテルは花屋さんにとって、大のお得意先だったのですね。産業革命からだいぶ経って落ち着いたこの時代は、地方から集まった労働者の言葉とロンドンのオリジナル言葉が混じりました。軽快な言葉遣いが人気となり、コクニ―のような洒落言葉が発展したのです。

日本に置き換えて言うならば、日本放送協会の夜7時のニュースに、ズーズー弁と言われる秋田弁のアナウンサーが登場して「おばんですぅ(正しく発音するとobandaeseu)」と語りだすという具合です。(因みに、両親の故郷である秋田弁には相当の愛着と愛情を抱いておりますので、ひとつの例として挙げるには妥当と思った次第です)

日本で音声を合成する研究をする言語科学者ニック・キャンベル博士(国立情報学センター)が仰るには「大阪弁は標準語の東京弁よりも歴史が長いだけあって、かなり成熟した言語です」ということです。東京弁の発音は明確ですが、抑揚も少なく、リズムも割と平坦です。抑揚やリズムは、声の音質や語り方同様に、言葉に感情を移入するための大事な要因なのです。関西の言葉、特に大阪弁はその要因を多く含む歴史の長い言語であるということです。

オードリー・ヘプバーンの映画よりもずっと以前のロンドン街中の女性の様子です。この時代はロンドンの街中では98%の人々がコックニーを使っていた、と言われています。あとの2%は王室、貴族、そしてパブリックスクールで教育を受けた上流階級たちでしょうか。

スコットランド語のBBCアナウンサーに話を戻して、キャンベル博士の理論を当てはめると合点がいきます。高校時代の社会科の先生は生徒に判り易いにように心を込めた指導をしてくれたのですが、「生徒たちに判るようにするには、どのような問い掛けが好いだろうか」と教材研究の段階で常に考えていたわけですね。生徒に合った指導をするわけなので、生徒の心を掴むために、時の話題と勉強のテーマとを沿わせたり、時には情動的な働き掛けをするなど様々な工夫をするわけです。

一方、BBCのスコットランド人アナウンサーは視聴者であるイングランド人やウェールズ人にも判るように、スコットランドの地元の極端な方言や言い回しは使わずに、視聴者を思い遣ってニュースを正確に伝えようとしているのです。その伝え方には、それまでに最も大事にされていた客観性以上に、視聴者が最も理解し易いように「な、あんた。このニュースはこういうことなんだよ」と親身に語り掛けて来るように聞こえるのです。そして、視聴者は気付きます。「ニュースを読むだけなら誰でも出来るけど、しっかりと伝えられることとは違う」

天気予報でも、淡々と手続きのように語られていくと頭に入って来ませんが、話の上手な予報士さんの語り口ですと、自分の必要な情報が確実に記憶に残ります。

ここ10年あまり前からの新たな社会問題として、母国語が異なる生徒への対応と、生活の格差を無くすための教育的指導が求められています。この小学校の場合は、犯罪者の巣窟であった悪名校を一人のカリスマ的な人物が経営者(校長という役職名でしたが)となり、貧困の子供たちに朝食を与える基本的なところから生活を改善し、数年後には欧州連合から支持されるモデル校にまで発展しました。今でも生徒の多くはパスポートを持たないアサイラム・シーカー(亡命者)や移民の子供たちです。もはや、言葉や文化の違いを受け容れることは国際都市にとって当然のことになりつつあるのです。

さて、BRITISH MADEの職人さんたちはどんな言葉を使っているのでしょう? 今時の職人さんは地方に分散していることが多いので、ロンドンのコックニーを話す人はあまりいないと思いますが、おそらく、熟練した日本の宮大工や工芸関係の職人さんたちが「今日は海苔(ノリ)が来た」(調子に乗ってきた)と言うような、経験に裏打ちされたウィット感のある言韻を踏んだ言葉を連発されると思います。あまり品の良い内容とは言えませんが、コックニーの言葉を集めたウェブをご参考まで。今にお手元にあるBRITISH MADEの商品から職人さんたちの声が聞こえて来るような気がしませんか。


2015.9.16
Text&Photo by M.Kinoshita

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マック 木下

マック木下

ロンドンを拠点にするライター。96年に在英企業の課長職を辞し、子育てのために「主夫」に転身し、イクメン生活に突入。英人妻の仕事を優先して世界各国に転住しながら明るいオタク系執筆生活。趣味は創作料理とスポーツ(プレイと観戦)。ややマニアックな歴史家でもあり「駐日英国大使館の歴史」と「ロンドン の歴史散歩」などが得意分野。主な寄稿先は「英国政府観光庁刊ブログBritain Park(筆名はブリ吉)」など英国の産品や文化の紹介誌。

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