2016.10.20

English Garden Diary vol.3 英国のガーデンに欠かせない果樹とは

英国では10月といえば林檎の季節です。寒冷な気候に合うせいか、この国ではいたるところで林檎の木を見かけます。あちこちの家のガーデンはもちろんのこと、時には街路樹にまで林檎の木が植えられているところさえあるほどです。
20161020_apple2 街路樹として植えられた林檎の木からのwindfall
以前住んでいた家には庭に大きな林檎の木がありました。もう何代も前の家主から引き継がれてきたと思わせるそれには、握り拳より大きい、無骨な形をした緑色の林檎が実りました。それは「ブラムリー(Bramley Seedlings)」という品種で、英国では「クッキング・アップル」と呼ばれる、加熱して食べるとよりおいしいというタイプのもの。酸味が強く、柔らかく煮溶ける果肉がアップル・パイにぴったりです。

次に引っ越した家の庭にもやはり林檎の木が。それも今度は3本もあり、こちらはどれも赤ちゃんの結んだ手ほどの大きさしかない、赤い実。品種は「コックス(cox’s orange pippin)」といい、ほどよい酸味と甘み、そしてほのかな芳香もあり、英国人お気に入りの林檎です。こちらは「イーティング・アップル」という種類にわけられ、そのまま皮ごとまるかじりする人がほとんどです。

20161020_apple4 1850年にリチャード・コックス氏によって発表されたコックスは、英国人が最もお気に入りの林檎
こんなふうに英国では林檎が「クッキング」用と「イーティング」用に区別されているのです。初めて知ったときには、いかにもたくさんの種類の林檎がある英国らしいな、と感心したものです。

歴史的には新石器時代の英国で野生の林檎が育っていたという記録があるそうですが、現在のような甘みのある品種が伝わったのは、ローマ人による征服時代。その後、英国での林檎栽培の歴史にはアップダウンがありましたが、19世紀末から20世紀初頭にかけて新品種の改良がピークに達したといいます。

先に挙げたブラムリーとコックスの二種は英国を代表する林檎ですが、これら英国の林檎が特においしいのは、雨が多い気候ゆえ、ゆっくり時間をかけて実が成長するためだそうです。その間にしっかりと林檎の実全体に風味が行き渡るというわけです。

20161020_apple1 春に花をつけ、芳香を放つブラムリーの木
ところで、この季節になると「ご自由にどうぞ」というメッセージがついたカゴや箱にいっぱいの林檎が家の前に置かれているのを見かけることがあります。「ウィンドフォール(windfall)」と呼ばれる秋の実りを、近所の人にもシェアしよう、という英国の人々の習慣です。
朝には山盛りだったのが、夕方帰宅途中に見ると、残っている林檎は2、3個に。そんな様子には「たくさんの人がお裾分けにあずかったんだな~」と、つい笑顔になってしまいます。

20161020_apple3 庭で採れた林檎は形もバラバラで個性的なのが楽しい
残念ながらわが家の林檎は完全無農薬(ほったらかし)で育てていたため、芯の部分に虫がいることが多く、採ってそのままご近所さんに配る、という訳にはいきません。そのかわり、虫喰い部分を取り除き、それを刻んで、チーズやサンドウィッチによく合うチャツネをつくります。瓶詰めにしたチャツネは、友人や家の修理に来てくれたビルダーさんなどにプレゼントしました。
20161020_apple5_2 わが家のチャツネのレシピは義祖母から受け継がれたものです
チャツネやジャムなど、林檎や秋の実りを瓶に閉じ込め保存食にしたものは、かつては定番のクリスマス・プレゼントとされていたそうです。そういえば、キャサリン妃もエリザベス女王へのクリスマス・プレゼントとして、手作りの林檎入りチャツネを贈ったというニュースがありましたね。
英国の林檎は、分け合ったりギフトにしたりと、人と人とをつなぐ役目も果たす果物といえそうです。

20161020_apple_7 庭で採れた林檎とブラックベリーを使ったクランブルは英国定番のデザート
10月21日は「林檎の日(Apple Day)」のため、その日を前後して英国各地でお祝いのイベントが開催されます。観光客に人気のあるロンドンの食料市場「バラ・マーケット」では、今年は23日(日)にお祭りが行われます。会場に並ぶ数えきれないほどの種類の英国産の林檎を見れば、この国で林檎がどれほど愛されているかがわかるはずです。

バラ・マーケットApple Day 2016
http://boroughmarket.org.uk/events/apple-day-2016

Text&Photo by Mami McGuinness

plofile
マクギネス真美

マクギネス真美

英国在住の編集&ライター。9年半の雑誌編集を経て「ちょっと長めのホリデー」のつもりで渡英。たくさんのあたたかな人たちとの出会いにより滞在が長期化し、現在に至る。 2004年より英国を拠点に書籍・雑誌・新聞・インターネット等にて企画、編集、取材、執筆、コーディネイト、撮影を手がける。テーマはライフスタイル、ガーデニング、料理、人物インタビューや旅ガイドなど。メディアを問わず、英国の素敵なひと、場所、ものごとをひとりでも多くの方に伝えたいと考えている。『英国ニュースダイジェスト』では英国の食に関するコラム「英国の口福を探して」を連載中。2012年以降、文化放送、NHKラジオ、TOKYO FM等のラジオ番組に出演も。
ホームページ:
http://mamimcguinness.com
twitter
Facebook

マクギネス真美さんの
記事一覧はこちら

RECOMMEND