
〈カレドアー〉の定番商品として根強い人気を誇るメリノウールTシャツ。実は今シーズンから素材をブランドオリジナルのライトメリノウール生地へとアップデートしています。本特集ではブランドディレクターの吉村さんへインタビューを実施。そのデザイン誕生背景や生地の開発秘話を余すところなく語ってくれました。
大好評モデルにオリジナル新素材が登場
――生地がブランドオリジナルの物へとアップデートされたメリノウールT。ブリティッシュメイドでも通年で扱う定番アイテムとして好評です。
吉村 ありがたいことに、服好きな方々から好評をいただいていますね。大手セレクトショップに加え、各地のこだわりのある小売店や、ファッションとアウトドアの両方を提案するお店でも取り扱っていただいています。
――それだけ服好きに刺さっているのは、どういうポイントだと思いますか?
吉村 実用一辺倒なインナーではなくて、それ単体でスタイリングが完成することかな、と。当初から「一枚で着られるカットソー」がテーマでした。
やはり、メリノウールって一枚で着てこそ魅力が際立つ素材だと思うんです。冬はあたたかくて、夏は涼しい。風通しもいいから蒸れにくくてニオイが気になりにくいし、肌触りもいい。その上で、風合いも魅力的だから、インナーとしてだけではなくてファッションアイテムとしてメインにも据えられる。
――ここ数年、ファッションブランドでも、メリノウール製のカットソーを単体で出すブランドが少しずつ増えてきましたね。
吉村 はい。ただ、ファッション畑でもクルーネックであったり、普通のポケTであったり、デザインのバリエーションはある程度限られていると思います。
〈カレドアー〉のものは、ボートネックを採用しました。一枚で着て様になるカットソーを考えたとき、真っ先に浮かんだのがバスクシャツだったんです。


――なるほど、そこでテーマ「一枚で着られるカットソー」が生きてくるわけですね。ヘヴィデューティーな印象が強いバスクシャツを、軽く柔らかなメリノウールでサンプリングした、というのがまたなんとも絶妙です。
吉村 ただ、バスクシャツをそのままメリノウールでやると、首元の開きが少し気になって、微調整を加えました。生地が柔らかく落ち感がある分、首元が開きすぎると少し印象が強くなってしまうんです。
だから首元の前下がりや天巾を調整して、開きすぎない上品なネックラインに仕上げています。英国らしい知的さが欲しいし、かといってスカしている感じにもしたくない。「わかる人にはわかる」くらいのデザイン性。
ブランドの在り方としてこのバランスはしっくり来ていて、今回のリニューアルでも旧モデルからデザインは一切変えていません。
――理想的なバランスを体現した、究極のベーシックにしてブランドのアイコンでもあるわけですね。
吉村 とは言え、2年ほど前から旧モデルに課題を感じるようになりました。というのも、僕自身が毎日着ている中でちょっと気になることが出てきたんですよ。
前作に感じていた物足りなさと試行錯誤
吉村さんの私物メリノウールTシャツ。約30枚も持っているのだとか。――ずばり、その課題とは何でしょう。
吉村 もう少し、軽くしたかったんです。旧モデルは結構肉厚で、ニットっぽい。この頃、温暖化で夏場に着ていると「暑いなあ」と。
僕自身、毎日メリノウールを着ているので、トレイル系やアウトドア系のブランドのものを含めて30枚くらいは持っているけれど、好きなものはどれも軽くて、気兼ねなく着られるんです。
――たしかに、旧モデルは落ち感や質感にどこかニットのような雰囲気を感じさせますね。カットソーらしい涼しさと軽やかな質感を目指したかった、と。
吉村 そこで一度、軽さと日常使いに適した耐久性を求めて今回のリニューアルより前にポリエステル繊維を混紡した素材で作ったところ、毛玉ができやすく、快適性にも課題がありました。穴は空きにくかったんですけどね。
――そこから今回のリニューアルモデルが生まれるまでにどんな経緯があったのでしょう。
吉村 これまで既製品の生地から採用していたのを、オリジナルで生地を開発することになりました。旧モデルの生地は双糸で、二本の糸を撚り合わせたものを編み上げています。その生地は光沢感があり、肉厚で、ニットライクな仕上がりでした。
一方で、僕が好んで着ている他ブランドのメリノウールカットソーは、単糸の生地を使っていて、薄手で軽い生地でした。そこで今回は、単糸を使い、編み方や仕上げも含めて、目指す軽さと風合いを追求しました。
最終的に、メリノウール加工のスペシャリストとして知られる尾州の株式会社艶金さんにお願いして、17.5マイクロンという極細繊維を使ったメリノウール生地が完成しました。繊細で、滑らかな肌触りが気持ちよく、軽い、まさに求めていた理想の着心地が実現しました。

一年にわたる開発の長い道のり

――とはいえ、薄手で軽い生地というと、耐久性の観点で問題は出なかったのでしょうか。
吉村 まさにそこがネックで、細い単糸で薄く編む分、摩擦による毛羽立ちや穴の開きやすさなど、耐久性とのバランスが課題でした。また、生地の斜行、いわゆるねじれにも配慮が必要でした。
――生地の特性上、避けられない弱点ですね。そこをどう克服しましたか?
吉村 生地の表面には剪毛(せんもう)という加工を施しています。表面の毛羽を刈りそろえて、毛玉の発生を抑えるためです。ただ、薄い天竺は端が丸まりやすく、加工にも工夫が必要だったと伺っています。また、編み立てを担当した大橋ニットさんにも、敢えて効率度外視の方法でねじれ対策を徹底していただきました。
――想像を絶する手間がかかって完成したのですね。生地の開発にはどれくらいの時間がかかりましたか。
吉村 丸一年です。4、5回は試作品を戻しているので。他の〈カレドアー〉のモデルでもオリジナル素材を使っているものはあるけれど、ここまで何度も戻したことはないですね。
丸編み機の編み立て部分を確認・調整している場面。一年中のお付き合い、一生手放せないお買い物
――こうして出来上がった理想のメリノウールTですが、気温が下がるこれからの季節、吉村さんはどう着ようと考えていますか?吉村 一枚で着るのはもちろん、薄手で軽い分、インナーとしても使いやすいです。たとえば、僕は同じ生地を使っているハーフジップセーターとレイヤードして、“メリノウール二枚重ね”をやっています。
――夏に涼しく、冬にあたたかい。天然で温度調整ができるメリノウールならではの付き合い方ですね。
吉村 はい。冒頭お話しした「一枚で着られるカットソー」に加えて「一年中着られる」ということも魅力だと思います。たとえば、僕が冬にパリ出張へ行ったときは、長袖のメリノウールT二枚とハーフジップセーター二枚を着回して、中綿のアウターと合わせながら二週間の出張を乗り切りました。東京よりも寒い真冬のパリでも寒い思いをせず快適に過ごせました。
――二週間!通気性に優れ、防臭性があるメリノウールですが、そこまで長期間粘れるとは…….。
吉村 そうですね。荷物を減らせるのは助かります。匂いは気になりにくいんですけど、生活している中で汚れてしまうことは避けられないので、汚れや汗のかき具合に応じて洗濯しています。ちなみに、洗濯をすることでメリノウール特有の風合いが出て、味わいの変化を楽しめるということもあります。


――素材の特徴が佇まいとして現れるのも、また魅力ですね。
吉村 このTシャツ(上写真)は他ブランドのもので、もう13年くらい着ています。長く着ているので穴も開いていますけど、気に入っていて、今でも着ています。メリノウールって穴が開いてもそれはそれでかっこいいんですよ。
ハイカーの中には、ウェアに穴が開いていた方がかっこいいなんていう人もいるくらいですし。僕にとっては、着込んだ風合いも含めて愛着のある一着ですね。
――〈カレドアー〉らしい、こだわりながらも主張し過ぎないデザインというのも風合いを楽しむうえで一役買っているように思います。
吉村 デザインも着心地も、ニュートラルに楽しめる一着なので、ブリティッシュメイドらしいトラッドなテイストや、カレドアーで扱っているようなアウトドアウェア、古着、デザイナーズブランドの服まで、様々なテイストの服と合わせても馴染んでくれます。
迷ったら手に取っている、気が付いたら着ている。そういう存在として、服好きにこそ手に取っていただきたいベーシックウェアですね。



