2016.04.05

イギリス的な視点で楽しむ 映画「グランドフィナーレ」

パオロ・ソレンティーノは、いま、最も注目されている気鋭の監督のひとり。ショーン・ペン主演の異色作『きっと、ここが帰る場所』やアカデミー外国映画賞を獲得した『グレート・ビューティ』などで高い評価を受け、<21世紀の映像の魔術師>とも呼ばれている。そんな彼のゴージャズな最新作『グランドフィナーレ』はスイスの高級ホテルで休暇を過ごすセレブたちの物語で、引退した音楽家、遺作に取り組む映画監督、ハリウッドの人気スターなど、さまざまな人々が集い、自身の人生を静かに振り返る。監督はイタリア人、舞台はスイスだが、実はイギリス的なテイストが随所に盛り込まれているので、その魅力を探ってみよう。
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主人公の音楽家を演じるのはイギリス出身の大ベテランとして50年以上活躍してきたマイケル・ケインである。60年代に『アルフィー』(66)で初めてオスカー候補となり、その後、『ハンナとその姉妹』(86)や『サイダーハウス・ルール』(99)などでアカデミー賞を手にしていて、かつては常識的に見えながらも(実は)いかがわしい部分がある役が得意だったが、近年は落ち着いた貫禄も出て『バットマン』シリーズ(05~12)の執事役でもいい味を出していた。今回は集大成ともいえる引退した音楽家の役で、自分が残した音楽や家族の問題と向き合うことで、新たな活力を見出す主人公を好演する。 ケインは93年にはエリザベス女王からCBE勲章を受け、00年にはサーの称号も手にした。劇中ではフィリップ殿下や女王のためにもう一度指揮棒を振ってほしいと依頼されるが、実生活でも王室から称号を授与されているケインゆえ、その役柄にも説得力がある。
20160405_002マイケル・ケイン(左)とハーヴェイ・カイテル(右)
トラッド系のかっちりしたファッションにも英国的な魅力が出ている。アメリカの監督役のハーヴェイ・カイテルはジャケットの下にわざと派手なシャツを着て、ボタンをかなりあけているが、ケインはボタンを上までとめ、きっちりネクタイを着用。ノータイの時も少ししかボタンをあけない。色もグレーや紺などダーク系だが、それが渋く年を重ねたケインによく似合うし、さりげない帽子のかぶり方も粋に見える。その英国的なダンディズムが映画の見どころのひとつにもなっている(英国のChurch’sの靴も劇中では使われている)。
20160405_003レイチェル・ワイズ
そんなケインの娘に扮しているのが、英国出身の実力派女優、レイチェル・ワイズ。名門ケンブリッジ大学の出身で、『ナイロビの蜂』(05)ではアカデミー賞受賞。実生活ではジェームズ・ボンド役で知られるダニエル・クレイグと11年に結婚。今回は離婚問題に直面した主人公の娘という設定で、人生最悪の状況を通じて、失われていた父子の絆を取り戻していく。知的ですっきりした顔立ちの彼女はシンプルなファッションで通し、傷つくことも知った大人の女のシックな魅力を見せてくれる。
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音楽にも英国的なこだわりが見える。ケイン扮するフレッドはBBC交響楽団で、代表作『シンプル・ソング』の指揮依頼を受ける。BBC交響楽団は英国を代表する名楽団のひとつで、1930年に指揮者のエイドリアン・ボールトによって設立され、作曲家としても知られるピエール・ブーレーズなどが主席指揮者をつとめたこともある。劇中ではそんな楽団の(フィクションとしての)演奏シーンも登場し、タキシード姿のマイケル・ケインが指揮棒を振る姿も楽しめる。
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また、ポピュラー音楽界からは2015年のブリット・アワード賞で女性ソロ・アーティスト賞を受賞している英国のミュージシャン、パロマ・フェイスが実名のまま参加。歌手という役どころで役者としてもチラリと出演。人気ミュージシャン、ファレル・ウィリアムズが作曲・プロデュースを担当したノリノリの曲『Can’t Rely on You』も披露する。自身のミュージック・ビデオでは幻想的で演劇的な世界を作り上げるフェイスだが、映画の中の音楽シーンはストレートで派手な演出になっている(監督のイタリア的な個性のせいだろうか?) 『グランドフィナーレ』はイタリアの監督の作品ながら、役者から音楽まで英国的なこだわりも楽しめる作品に仕上がっている。

『グランドフィナーレ』
4/16(土)新宿バルト9他全国順次ロードショー
http://gaga.ne.jp/grandfinale/

Text by SawakoOmori / 大森さわこ

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