47番地と49番地は別の大陸だ、映画『きっと、それは愛じゃない』 | BRITISH MADE (ブリティッシュメイド)

ブリティッシュ“ライク” 47番地と49番地は別の大陸だ、映画『きっと、それは愛じゃない』

2023.12.14

映画 きっと、それは愛じゃない WHAT’S LOVE GOT TO DO WITH IT?
『ノッティングヒルの恋人』、『ラブ・アクチュアリー』、『ブリジット・ジョーンズの日記』のサーティム・ビーヴァンがプロデュースする最新作、というキャッチコピーを耳にすれば、王道英国ラブコメディを通ってきた方は作風をイメージすることが容易いに違いない。

ロンドンでドキュメンタリー映画監督として活動するゾーイは次回作のテーマを模索していた。ある日、隣に住む幼馴染みカズが見合い結婚をするという話を聞き、これを題材にドキュメンタリーを撮ることを制作会社に提案する。カズは、被写体になることを拒絶するが、幼馴染みであるゾーイの懇願に渋々了承する。お見合い結婚の当事者やその家族に密着取材する日々が始まる。

『きっと、それは愛じゃない』は、冒頭で述べたようなラブコメディの要素を持っている一方で、BBCやNHKのドキュメンタリーを見ているような側面も持ち合わせているのが特長だ。主人公ゾーイとカズは同じ英国人であり、互いの家族ぐるみで付き合いをする仲睦まじさだ。同じ英国人であることに変わりはないが、カズのルーツはパキスタンにある。生まれも育ちも一緒なのに、パキスタンにルーツを持つだけで、ことあるごとにいかがわしい目で見られテロリスト扱いを受ける。物語が進むに連れてその問題の深刻さを痛感していくのだ。英国での生活の実態をありのままに描くブレイディみかこさんのコラムにもそういった記述があったはずだ。“47番地と49番地は別の大陸だ”というカズの台詞はまさにそれを比喩しており、厳しい現状を訴えるにあたってこれほどシンプルでメッセージ性の高い言葉はない。

英国とパキスタン、両国の文化の違いを丁寧に描いているのは本作の魅力の一つだ。パキスタン人の信仰と生活は想像以上に密接している。それゆえに同族同士の結婚を重視しているのは合理的だ。信仰の有無はあるが、日本人に近い考え方を持っている。結婚式に 3 日も要するということも本作を通じて初めて知った。そのスケールの大きさが儀式の重要性を物語っている。一方で、パキスタンに在住するパキスタン人と、英国に在住するパキスタン人とでは異なる考え方を持っていたり、英国に同化し、袂を分かったことから同胞であるパキスタン人から村八分にされてしまう現象もあげられている。文化の垣根をこえることは一筋縄ではいかない。実際に理解し合えるかどうかはさておき、まずは相手を知ろうとするという一歩が重要であることは言うまでもない。

監督のシェカール・カプールはパキスタンのラホール出身で、長く英国で活動している。物語の軸である、結婚のありかたの表現方法がいかにも彼らしく、共感できる点が多かった。シェカール・カプールの代表作『エリザべス』でもそういった片鱗をうかがわせる。女性であり、君主であり、英国国教会の頂点でもあらねばならないエリザベス1世の描き方が神秘的で、いわゆる古典伝記の焼き直しとはまったく異なる独創的な作風だ。

脚本を担当したジェミマ・カーンは言わずと知れたゴールドスミス家出身のセレブリティであり、故ダイアナ妃の盟友であったことは周知の事実だ。パキスタン前首相イムラン・カーンと結婚後、ラホールとイスラマバードに10年間ほど在住している。この映画には、噓っぽさやとってつけたような筋書きがなく共感を抱ける。それはきっと、シェカール・カブールやジェミマ・カーンのエッセンスが色濃く脚本に反映され、正確に役者に伝達されているからに違いない。

最後に、本作に登場する魅力的なキャストにも触れたい。主演ゾーイを演じたのは英国をはじめ米国でも人気女優であるリリー・ジェームズだ。このコラムに登場するのは『ガーンジー島の読書会の秘密』以来だ。そして、本作で最も好きなキャラクターとなったゾーイの幼馴染であるカズを好演したのが、シャザド・ラティフだ。非の打ちどころがなく、まるで聖人のような好男子ぶりに嫉妬せずにはいらなれないが、ゾーイへの想いと、家族や宗教への思いに揺れながら映画の中核をなした素晴らしい役者だった。シャバナ・アズミやサジャル・アリーなど、パキスタンで名を馳せる役者の顔触れも新鮮で、英国が誇るエマ・トンプソンとの芝居は絵力があった。

映画 きっと、それは愛じゃない WHAT’S LOVE GOT TO DO WITH IT? 映画 きっと、それは愛じゃない WHAT’S LOVE GOT TO DO WITH IT? 映画 きっと、それは愛じゃない WHAT’S LOVE GOT TO DO WITH IT?
10月から11月にかけ、半月ほどトルコとイタリアに滞在した。コロナがまん延したせいもあって、じつに4年ぶりの海外旅行だった。イスタンブールに訪れた際にこんな出来事があった。妻と子供2人を連れだっての入国だったので、顔認証ではなく有人のパスポートコントロールを通過しなければならなかった。トルコ人に間違えられたこと以外は何の問題もなく、約5分で終了した。しかし、同じレーンには我々と同じ家族構成の面々が通過できずに並ばされていた。そのほとんどがチャドルやニカブで目を覆ったムスリムだった。多くはそういった対応に慣れてしまっているように見えたが、稀に押し問答になっているケースも見受けられた。出身国や容姿であっさり入国が許可される場合とそうでない場合があることをここで痛感した。中東出身の友人にこの話をしたところ、やはり顕在的な区別はあり、その現状を目の当たりにすると心が痛かった。ミラノのマルペンサエクスプレスでもこんなことがあった。巨大なスーツケースを4つ抱えて降車しようとした女性がいたので手伝った。その際にしばし会話をしたが、彼女はパキスタン出身で祖国から出稼ぎでやってきたらしい。流ちょうな英語を話し、イタリア語も話す聡明そうな人だった。だがやはり、彼女に対する助太刀の手が少ないことに驚いた。目的地までは駅から徒歩で向かうと言っていたが、一体どうやって運んだんだろうか…。

自由に渡航できる世界は大変素晴らしいことだが、相互の歩み寄りや理解も同様に必要なのではないだろうか。たとえば食文化など、まずは興味を持ったところから始めてみるのがいい。筆者自身も今回のトルコ・イタリア旅行を経てイスラム圏の国により一層興味を持った。すぐに次の訪問を考えていた矢先に、本作でパキスタンの魅力を知った。英国はパキスタンの旧宗主国であり、歴史を紐解けば両国の関係や、なぜ映画の題材とされることが起こっているのかがよくわかるはずだ。もし英国に魅力を感じるならば、時にこういった角度からも照らし合わせてみてはどうだろうか。より深く英国について知ることができるはずだ。

映画 きっと、それは愛じゃない WHAT’S LOVE GOT TO DO WITH IT?
『きっと、それは愛じゃない』
https://wl-movie.jp/
12/15(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国公開
出演:リリー・ジェームズ、シャザド・ラティフ、シャバナ・アズミ、エマ・トンプソン、サジャル・アリー

2022 / イギリス / 英語・ウルドゥー語 / 109分 / カラー / スコープ / 5.1ch / 字幕翻訳:チオキ真理 / 原題:WHAT’S LOVE GOT TO DO WITH IT? / G © 2022 STUDIOCANAL SAS. ALL RIGHTS RESERVED.
提供:木下グループ 配給:キノフィルムズ

ブリティッシュメイド公式アプリ

plofile
部坂 尚吾

部坂 尚吾

1985年山口県宇部市生まれ、広島県東広島市育ち。松竹京都撮影所、テレビ朝日にて番組制作に携わった後、2011年よりスタイリストとして活動を始める。2015年江東衣裳を設立。映画、CM、雑誌、俳優のスタイリングを主に担い、各種媒体の企画、製作、ディレクション、執筆等も行っている。山下達郎と読売ジャイアンツの熱狂的なファン。毎月第三土曜日KRYラジオ「どよーDA!」に出演中。
江東衣裳
http://www.koto-clothing.com

部坂 尚吾さんの
記事一覧はこちら

同じカテゴリの最新記事