2018.01.19

ブリティッシュ“ライク” 真実を巡り、二つの時間軸が交差する映画「ベロニカとの記憶」

記憶というのは曖昧なもので、時に都合の良いものである。自分よがりに解釈するために忘れてしまったり、そもそも書き換えてしまったり。こういった耳が痛くなるような経験はないだろうか?

今回紹介するのは「ベロニカとの記憶」という映画だ。中古カメラ店を経営し、年金生活を送るトニー。妻のマーガレットとは離縁したが良好な関係を築いていて、娘のスージーには間もなく子供が産まれる。そんなある日、法律事務所から遺産相続の通知がトニーに届く。 差し出し人は40年以上も前に交際していた、かつての恋人ベロニカの母セーラからである。遺された品はかつてトニーの親友だったエイドリアンの日記。突然の出来事に戸惑うトニーに追い討ちをかけるのはベロニカがこの遺品の引き渡しを拒否していることだった。長い年月が経過しているにもかかわらず、どうしてこのようなことになっているのかが理解できないトニー。真実は過去と現代を交差しながら露になっていく。
監督は、本作が長編第2作にあたるリテーシュ・バトラ。前作「めぐり逢わせのお弁当」ですっかりファンになってしまった、インドはムンバイ出身の映画監督だ。現代のトニー役はジム・ブロードベンド。以前STORIESで紹介したマイク・リー監督の「家族の庭」でも主演を演じている英国の名優だ。現代のベロニカ役には大女優シャーロット・ランプリング。彼女についても同様に、以前紹介した映画「さらば愛しき女よ」で触れている。実際、シャーロット・ランプリングが登場している時間はさほど長くはない。にもかかわらず、物語における存在感、影響力や発言力の大きさは計り知れないものがある。翻ってほぼ主要シーンに登場し、この作品の屋台骨を支えているのはジム・ブロードベントだ。彼の芝居からは味わい尽くせないような奥深さがある。
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リテーシュ・バトラの作品に登場する人物はさほど多くはない。加えて各々に明確なキャラクターがあり印象深いため、つい情がわいてしまう。例えばトニーの時計はいつもフェイスが内側に向いていて、それについて度々指摘されてしまう点。または、どうしてトニーがライカを扱うお店を経営しているのかなど、彼の人間性がよくよく構築されていて鑑賞の助けとなる。かつての悪友3人が再会しSNSを巡りパソコンとにらめっこするシーンや、郵便配達員とのやりとりは何とも言えぬ愛くるしさがある。それを手助けするように、舞台となるロケ地の選択、衣装、小道具、美術までが洗練されている。細部に至るまで僕自身の嗜好にかなった作品である。
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劇中の舞台はロンドン。予告篇でも映っているのはグラグラ橋ことロンドン・ミレニアム歩道橋だ。偶然にも以前の旅行でまったく同じ場所からテムズ川を見下ろした経緯があり、寸分違わぬ位置にジム・ブロードベンドとシャーロット・ランプリングが立っていたという事実に感極まった。

鑑賞後にじっくりと身体の中に伝わってくるような感覚。この心地良い余韻に浸りながらこの文章を書き上げた。

『ベロニカとの記憶』

2018年1月20日(土)、シネスイッチ銀座、新宿武蔵野館ほか全国順次公開
監督:リテーシュ・バトラ
脚本:ニック・ペイン
出演:ジム・ブロードベント、シャーロット・ランプリング、ミシェル・ドッカリー、ハリエット・ウォルター、エミリー・モーティマー ほか
配給:ロングライド
原作:「終わりの感覚」ジュリアン・バーンズ著(新潮社刊)
公式HP: longride.jp/veronica/
2015年/イギリス/英語/108分/シネマスコープ/カラー/5.1ch/原題:The Sense of an Ending/日本語字幕:牧野琴子

Photo&Text by Shogo Hesaka

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部坂 尚吾

部坂 尚吾

1985年山口県宇部市生まれ、広島県東広島市育ち。松竹京都撮影所、テレビ朝日にて番組制作に携わった後、2011年よりスタイリストとして活動を始める。2015年江東衣裳を設立。映画、CM、雑誌、俳優・タレント・文化人のスタイリングを主に担い、各種媒体の企画、製作、ディレクション、執筆等も行っている。山下達郎と読売ジャイアンツの熱狂的なファン。
江東衣裳
http://www.koto-clothing.com

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