2018.08.24

UKカルチャー溢れる映画『ブレス しあわせの呼吸』 

ポリオ感染者は人工呼吸器をつけてベッドの上で過ごさなければならない!?という定説を大胆に打ち破った実在の人物、ロビン・カヴェンデッシュ。その型破りでハートウォーミングな実録物語は、1950年代後半に始まりラストの90年代まで、UK好きには堪らない英国カルチャーを満載して展開する。

始まりは1958年、英国陸軍を退官したロビンが、ロンドン近郊にある瀟洒なクラブハウスでクリケットに興じるシーン。お馴染みのアイボリーウェアで決めたロビンがベストショットを決めるのを、Vネックのクリケットセーターを着たり、カノチエを被り、ストライプジャケットを羽織った仲間たちが囲む。ハイティーを楽しみながら試合の動向を見守るのは、後にロビンの妻となり、波乱の半生を共に生きることになるダイアナだ。テーブルの上にはハイティーには必須のお湯を高温で保てる銀のティーポットが置いてある。その後、ロビンは愛車MG(っぽいクラシックカー)のサイドシートにダイアナを乗せてカントリーロードをドライブする。
ブレス しあわせの呼吸 ブレス しあわせの呼吸 ブレス しあわせの呼吸
怒濤の英国カルチャーは、紅茶の卸業を始めたロビンが、買付のために紅茶の原産地、ケニアのナイロビに訪れてからも続く。サバンナに陽が落ちるのを眺めながら、ロビンとダイアナ、そして、友人たちがキャンプファイアを囲むのは、いかにも大英帝国風・屋外での過ごし方。ケニアの英国大使館の裏庭にはテニスコートがあって、ロビンはクリケットの時と同じ勢いでサービスを決めるものの、直後に激痛を感じてコートに倒れ込む。
ブレス しあわせの呼吸
ところで、古くからケニアはイギリスにとって大切な紅茶の産地。中でもケニアのアッサムはフレッシュでマイルドな香りがイギリス人好みで、アフタヌーンティーやアフターディナーティーではよく愛飲されている。ケニアはアフリカ最大の紅茶生産地。ヨーロッパからの運送時間が短いことも利点だ。

それにしても、イギリス人の健啖家ぶり、場所を選ばない食事好きには驚く。屋外でのハイティーなんて序の口で、人工呼吸器付き車椅子ごとロビンを車に乗せた家族が、訪れたスペインの山道脇で、テーブルを設置して赤ワインとパンとソーセージで堂々とディナーを始めてしまう。これは恐らく、否、間違いなく、中世の英国貴族がハンティングをしながら外で食事をする習慣の名残と思われ、後に、この習慣はピクニックという形で庶民にも受け継がれることになる。

英国風ファッションも要チェックだ。クリケット、テニス等のスポーティブな服以外にも、特に印象的なのはロビンが喉の管を隠すために度々首に巻くスカーフのチョイスだ。チェック、ペイズリー、幾何学模様と、場面毎に柄が変わるスカーフは、アスコットタイを愛するイギリス紳士の粋を象徴しているかのよう。また、劇中で絶妙なコメディリリーフぶりを発揮するダイアナの双子の兄、ブロッグスとデイヴィッドが、肩が丸いストライプ・オン・ストライプのシャツとジャケットで登場するシーンは注目だ。スーツには白いシャツという概念を最初に打ち破ったのはイギリス人だと言われていて、そんな伝統とプライドがこの着こなしからは伝わって来る。衣装デザインを担当したのは第2次大戦下のロンドンを舞台にしたロマンティック・コメディ「人生はシネマティック!」で1940年代の英国ファッションを再生し、同じく第1次大戦での体験を小説にしようとする女性を描く最新作「The Guernsey Literary and Potato Peel Pie Society」(18)では、リリー・ジェームズのために1940~50年代のレディース・ファッションをデザインしているシャーロット・ウォルターだ。
ブレス しあわせの呼吸
そのウォルターを含めて、ロビン役のアンドリュー・ガーフィールド、ダイアナ役のクレア・フォイ、双子の兄役のトム・ホランダー、発明家役のヒュー・ボネヴィル等、メインキャスト、そして、ロビン・カヴェンディッシュを父に持つ製作のジョナサン・カヴェンディッシュや、本作で監督デビューを果たしたアンディ・サーキス等、スタッフ&キャストはほぼ全員イギリス人。そういう意味で、これはここ数年、逸材を次々ハリウッドに奪い取られているイギリス映画が、オールUKで挑んだ生粋のメイド・イン・UKムービー。つまり、作品のフォーマットそのものが英国カルチャーの象徴なのかも知れない。
ブレス しあわせの呼吸
「ブレス しあわせの呼吸」
9月7日(金)より角川シネマ有楽町他にて全国公開
監督:アンディ・サーキス
出演:アンドリュー・ガーフィールド、クレア・フォイ、トム・ホランダー、ヒュー・ボネヴィル
2017年 / イギリス / 英語 / 118分 / シネスコ / 原題:BREATHE /日本語字幕:松浦美奈 / 配給:KADOKAWA
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Text by 清藤秀人 映画ライター・コメンテーター

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