映画「バンデットQ 」全知全能の神の正体 | BRITISH MADE

ブリティッシュ“ライク” 映画「バンデットQ 」全知全能の神の正体

2016.12.22

2016年も最後の回となった。Vol.16では、度肝を抜かれた映画「バンデットQ」を紹介したい。この作品は、1981年にイギリスで製作。ジャンルでいうならば、SFやファンタジーと位置付けられるだろう。
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簡単に内容にも触れておこう。平凡な家庭で育つ一人っ子の少年ケビン。ある日、突然彼の目の前に現れたのは、創造主である神からタイムホールが記された地図を奪い逃走中の6人の小人“Q”。ケビンと6人の小人たちは、タイムホールが記された地図を片手に時空を移動する旅に出るのである。お宝を強奪しながら逃避行する7人、その地図を狙う悪魔一味、そして、地図を取り返そうとする神。イタリア遠征期のナポレオンに遭遇したところから旅は始まり、ロビンフッド物語、ギリシア神話、タイタニック号沈没などを舞台に、一進一退のタイムトラベルを繰り広げていくのである。

実際、時代考証を考慮したセットや衣裳、ヘアーメイク、小道具等は、映画の世界観を崩すことなく緻密に構成されている。小人や悪魔といった登場人物の具現化といったことまで考えると非常に厄介な設定に違いない。

表題に戻る。後半、というよりもほぼ最後まで全知全能の神は、お姿をお見せにならない。つまりは抽象的な姿に変えて煙に巻くのだ。悪魔や小人の凝った容姿のことを考えると、きっと「ロード・オブ・ザ・リング」のガンダルフのような雰囲気か、はたまたホドロフスキーの「ホーリー・マウンテン」の魔術師のような姿なのか…などと想像を駆り立てる。

そして、時は来た。満を持しての神が登場するシーンだ。そこに現れたのは、なんと、スリーピースのスーツを着用した老紳士なのである。しかも、その着こなしは完璧で、完全な英国人。チェンジングポケットに、お尻がすっぽり隠れた着丈、ハッキリとクッションが入った裾。挙げればキリがないが、その出で立ちはクラシックそのもので圧巻だった。同じくこの作品にアガメムノンとして出演するショーン・コネリーの存在が霞んでしまうほどだ。ファンタジーの世界観で突っ走り、一番気になる人物をスーツ姿にしようとしたクルーは天晴れだ。

何を隠そう、神を演じたのは名優ラルフ・リチャードソン。古くは1930年代から活躍したイギリス映画の常連で、フロックコート、テイルコート、ラウンジスーツなどの着こなし姿はどの作品を見ても一級品だ。ローレンス・オリヴィエと親交が深かったことでも有名で、威風堂々たる姿は他を寄せ付けない。類は友を呼ぶとはまさにこのことだろう。

「バンデットQ」の衣裳を手掛けているのは、ジェイムズ・アシュソン(またはジム・アチスンとも)。「ラストエンペラー」、「恋の闇、愛の光」、「危険な関係」の3作でアカデミー衣裳デザイン賞を受賞している強者だ。「スパイダーマンシリーズ」の衣裳も彼によるものだ。個人的には、坂本龍一が音楽も手がけた「シェルタリング・スカイ」こそがもっとも記憶に残る作品となっている。

再び本筋から逸れてしまったが、小人“Q”の中には、「スターウォーズシリーズ」の“R2-D2”でお馴染みのケニー・ベイカーの姿もある。そのうえ、本作品の製作総指揮&音楽を担当しているのはなんとジョージ・ハリソンなのである。

かつて、七つの海を制覇した大英帝国。僕には、世界を統治する英国人の自負がメタファーとなって神の姿に反映されているように感じられた。子供でも楽しめる壮大なスペクタルの一面を持つかたわら、さまざまなエッセンスが入り混じり、異なる側面をも垣間見る可能性を秘めているのがこの作品の、引いてはこの手のジャンルの面白さでもある。

Photo&Text by Shogo Hesaka

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部坂 尚吾

部坂 尚吾

1985年山口県宇部市生まれ、広島県東広島市育ち。松竹京都撮影所、テレビ朝日にて番組制作に携わった後、2011年よりスタイリストとして活動を始める。2015年江東衣裳を設立。映画、CM、雑誌、俳優のスタイリングを主に担い、各種媒体の企画、製作、ディレクション、執筆等も行っている。山下達郎と読売ジャイアンツの熱狂的なファン。毎月第三土曜日KRYラジオ「どよーDA!」に出演中。
江東衣裳
http://www.koto-clothing.com

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