2019.08.01

『トールキン 旅のはじまり』をより楽しむための5章 現代ファンタジーの祖が駆け抜けた愛と友情の物語

「ホビットの物語」、「指輪物語」の原点がここに。

「ホビットの冒険」、そして「指輪物語」……。のちに世界中で愛されることになる大いなる物語を描いた作家の礎を育んだのは、幾つもの愛と友情、そして過酷な運命でした。

先日、ドメ・カルコスキ監督最新作『トールキン 旅のはじまり』の試写を鑑賞しました。タイトル通り、イギリスが誇る世界的作家J・R・R・トールキン(1892〜1973年)の半生を描いた映画です。
主人公のトールキンは、『女王陛下のお気に入り』、『X-MEN』シリーズのニコラス・ホルトが、そしてトールキンにとって生涯のミューズ(*のちの彼の文学に登場するエルフの王女のモデル)となるエディスは『あと1センチの恋』のリリー・コリンズが演じています。

先にお伝えしておくと、この映画は一人の若者の青春劇であり、同時に、彼を取り巻く者たちの群像劇でもあります。つまり、トールキンの文学及び映画化作品に触れていない方でも楽しめるのです。

ここでは、8月30日の全国ロードショーに先駆けてシノプシスを紹介しつつ、本作をより深く楽しむためのポイントを5章に分けて、駆け足ですが紐解いていこうと思います。

1. 物語の背景と美術

本編は夢か現実かわからないようなシーンからはじまります。
トールキン 旅のはじまり
第一次世界大戦、フランスで繰り広げられた“ソンムの戦い”です。このソンムにおける凄惨な戦地の模様は、本編の終盤まで、トールキンの幼少期〜青年期の間に度々挿入されていきます。

同大戦における最大の会戦として知られる“ソンムの戦い”で、トールキンは病んだ身体を押して、消息を絶った親友ジェフリー・スミス(アンソニー・ボイル)を命からがらの状態で探し続けます。(*言ってしまうと、『指輪物語』における『死者の泥沼』といった記述は、この“ソンムの戦い”が下敷きになっていると言われています)
トールキン 旅のはじまり
1892年、トールキンは南アフリカのオレンジ自由国(現・南アフリカ共和国の一部)で、イギリスの銀行家の父とその妻の間に生まれました。

しかしバーミンガムの母の実家で過ごしている際、父をリューマチ熱で亡くしてしまい、母と弟の三人暮らしとなります。そして間も無くバーミンガムへ移り住むと、今度は母を糖尿病で亡くしてしまいます。

そのためトールキンは、母の友人だったフランシス神父(コルム・ミーニイ)の援助を受けて、1900年、名門キング・エドワード校に入学します。ここで、大切な友となる3人の友人と出会い、4人はアートやカルチャーについて熱く語り合う芸術クラブ「ティー・クラブ・パロヴィアン・ソサエティ」(T.C.B.S.)を結成します。
トールキン 旅のはじまり
彼らは同校の近くのコーポレーション通りにあったバロウズ・ティールームに日々集いました。このT.C.B.S.の絆が、のちに『指輪物語』の旅で描かれる“仲間”、“友情”という精神性の起源となります。

“ソンムの戦い”の塹壕のオープンセットは、マンチェスターの南にあるチェスター郊外に、10週間をかけ、6万平米にわたって組まれたそうです。実際のキング・エドワード校は1935年に移転し、1936年に取り壊されたため現存しません。そのため、劇中ではマンチェスターのロッチデールタウンホールを使って再現されています。またバロウズ・ティールームは、やはりリバプールのセントジョージホテルを使って再現されています。

イギリスの数々のテレビシリーズを手掛けてきた美術のグランド・モンゴメリーは、時にトールキンの幻想が織り交ざることも念頭に置きつつ、一方で2019年の新作映画としてのモダニズムを失わないよう、リアリティの追求に尽力しています。

2. 言語を創造する文学者

弟と共に身を寄せる下宿先で、トールキンはやはり孤児であるヒロインのエディスと出会います。
エディス
ピアニストを目指す彼女との恋心が育まれる会話においても語られますが、母から幼少期にラテン語を教えられていたトールキンは言語学において非凡な才能を早々に発揮し、10代で独自の言語の“種”に想像を巡らせます。

結果、トールキンは生涯で20以上(*諸説あり)もの人工言語を創造したと言われていて、特に“クゥエンヤ語”と“シンダール(シンダリン)語”という二つの“エルフ語”が有名です。のちに彼が描いた様々な物語に共通する「中つ国(ミドルアース)」という言葉は、こうした言語の誕生の背景として生み出された架空の場所なのです。
トールキン
文献によると、実際のトールキンが本格的にエルフ語を創造しはじめたのは、本編中の時間軸で言えば、物語の後半で、彼がオックスフォード大でライト教授(デレク・ジャコビ)に師事したのちのことだったそうです。“クゥエンヤ語”はフィンランド語、“シンダール(シンダリン)語”は彼が少年時代に魅了されたウェールズ語に基づく言語でした。
トールキンとデレク・ジャコビ
ちなみに劇中では触れていませんが、トールキンは1926年、オックスフォード大で『ナルニア国物語』の作者であるC・S・ルイスと出会い、親交を深め、互いに影響を与え合いました。
トールキン
トールキンの作品を良く知るファンには釈迦に説法でしょうが、そうでない方は、彼のファンタジーが、言語をはじめ、詳細な落書きや地図、スケッチ(*劇中にも登場)など、圧倒的かつ緻密な世界観のディテールに裏打ちされたものだという点を押さえておくと、彼の非凡な作家性をより理解し易いでしょう。

3. オックスフォードとケンブリッジ

キング・エドワード校で永遠の絆を育むT.C.B.S.のジェフリー、ロバート、クリストファーは、当初、入学したトールキンと対立しました。同校の校長の息子であるロバートをはじめ、家柄がしっかりとしていたエリートの彼らは、ドイツ語を語源とする名前(トールキンのルーツはドイツ)を持ち、言語に長けた孤児のトールキンを目の敵にしました。イギリスらしい階級社会のヒエラルキーが感じられます。
オックスフォード
しかし、すぐに友情が生まれると、4人はT.C.B.S.を通して共に青春時代を過ごし、やがて大学を目指します。トールキンと、劇作家を目指し詩作に長けていたジェフリーはオックスフォードを、画家志望だったロバートとクラシックの作曲を手掛けていたクリストファーはケンブリッジを目指します。

劇中、エディスへの恋心で勉強が疎かになっていたトールキンは、オックスフォードの入試に落ちてしまいます。そこからエディスとの仲がこじれたり、無事に入学するも奨学金の打ち切りに遭ったりと苦難が続きます。
オックスフォードとケンブリッジ
オックスフォードとケンブリッジは、共に現在でも名の知れたイギリスの名門校で、それぞれ英語辞典(両校が出版)の名前にもなっています。日本で言うところの“早慶”ではないですが、“オックスブリッジ”として長きにわたってライバル校とされています。

今では一般的にオックスフォードは文系に、ケンブリッジは理系に強いというイメージのようですね。劇中でも、両校の関係性や親睦が感じられる台詞やシーンが幾つか見受けられます。スクールカラーはオックスフォードがダークブルーで、ケンブリッジがライトブルーで、ちなみにBRITISH MADEらしくファッションについて横道に逸れると、もちろんオックスフォードシャツの名は同校が起源です。

そもそもはオックスフォード・クロスという生地の名前で、2本かそれ以上の経糸と緯糸を1つの糸のように平織りした生地です。今から100年以上も前、スコットランドの紡績会社が、信用と受けを狙って同校の名前を付けて売り出したのが由来だそうで、ケンブリッジやイェールという名の生地もありましたが、現在ではオックスフォードだけが広く知られています。

“オックスブリッジ”に分かれても友情を育んだT.C.B.S.の4人、その青春の背景として押さえておきましょう。

4. 若手実力派揃いの俳優陣

「彼の経験や出会いが作品になっていく様は魔法をみているようだった」。そうニコラス・ホルトは語ります。
ニコラス・ホルト
子役からスタートし、現在ではハリウッドで着実なキャリアを積んでいる彼も現在29歳。ファッション好きにはトム・フォード監督の『シングルマン』や、トム・フォードブランドの広告キャラクターとしても知られています。『女王陛下のお気に入り』でのロバート・ハーレー役も記憶に新しいですが、今作では一転、度重なる苦難に立ち向かう主人公トールキンの強さと弱さを、より繊細かつ丁寧に演じています。

そしてエディスを演じるリリー・コリンズもまた魅力的ですね。端正な輪郭、強い瞳と太い眉が印象的な気品を醸し出す彼女は、実際のエディス本人とよく似ていたこともあってキャスティングされました。また、気品だけではなく、劇中で見せる魅惑的な動きと表情にも、何度もはっとさせられました。
リリー・コリンズ
実は彼女、ジェネシスやソロで数々のヒット曲を持つミュージシャン/ドラマー/俳優のフィル・コリンズの娘です。まさか彼の娘がこんなに美しい女優さんになるとは……(と言うと失礼ですが)、UKロック好きにはちょっと感慨深いです。
ハリー・ギルビー、アダム・ブレグマン、アルビー・マーバー、タイ・テナント
また若きT.C.B.S.の面々を演じた、ハリー・ギルビー、アダム・ブレグマン、アルビー・マーバー、タイ・テナントの4人も要注目です。彼らはすでに様々な映画やテレビシリーズで活躍しています。かつて子役から注目されたニコラス・ホルトがそうだったように、ここから次世代のスターが生まれるかもしれません。
アンソニー・ボイル
あと、個人的には、青年になってからのジェフリー・スミスを演じたアンソニー・ボイルの、ニヒルな陰と優しみが同居したような表情の演技にも惹かれました。ぜひ注目してください。

5. 監督とトールキン、そしてスタッフたち

「トールキンの青年期を選んだのは、彼を形成する経験が多かったからだ。両親を亡くし、愛と友情を知り、戦争に行った。全て映画に適した題材だ。(中略)彼の想像力が青年期にどう培われたか、何とかして描きたかった」

こう語るフィンランド出身のドメ・カルコスキ監督は12歳の頃からトールキンの作品を愛読していたそうです。自身も、父親のいない少年期を過ごしていた監督は、「両親を失ったトールキンが自立しようとする姿に深く共鳴した」そうで、学生時代のトールキンが独学でフィンランド語を学んでいたことにも親近感を感じていたと語っています。

しかし、繰り返しますが、本作は、時折トールキン文学を想起させるファンタジーな演出を織り交ぜながらも、その根幹はあくまで一人の若者の青春劇であり、また彼を取り巻く者たちとの群像劇として描かれています。だからトールキンの文学及び映画化作品に触れていない方でも楽しめますし、むしろ、本作をきっかけにトールキンの文学や映画化作品に触れても面白いかもしれません(というか、実際、そうしたくなる物語だと思います)。

そうしたドラマを前述の美術と共に盛り上げているのが、撮影監督のラッセ・フランク、衣装のコリーン・ケルサル、そして音楽のトーマス・ニューマンです。独特なクローズアップやパン、スローモーションから生み出される本編のリズムは、編集もさることながら、撮影の段階でかなり形成されているように感じられます。

衣装のコリーン・ケルサルについては、時代ものでありながらも決して古めかしくなく、(*彼女が手掛けた『ハリー・ポッターと賢者の石』、『NINE』がやはりそうだったように)ある種のメジャー感というか華やかさというかケバさをきっちりと押さえているあたり、自分は好みです(笑)。

また『ショーシャンクの空に』、『ファンディング・ニモ』、『007スカイフォール』、『ブリッジ・オブ・スパイ』などを手掛けた映画音楽の巨匠、トーマス・ニューマンについては言わずもがな、極めて彼“らしい”堂々としたスケール感のスコアが鳴らされています。
英国が第一次世界大戦に宣戦し、T.C.B.S.の4人はそれぞれ従軍を志願します。そして彼らの運命の歯車は大きく狂いはじめます。T.C.B.S.の4人の絆は? 戦地をさまようトールキンの運命は? そしてエディスとの恋の行方は? さらにこうした様々な点が線となって、トールキンは何を見出し、何を失い、作家J・R・R・トールキンとなるのか? その結末は、ぜひ劇場で確かめてください。
トールキン 旅のはじまり
『トールキン 旅のはじまり』は、8月30日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほかにて全国ロードショーです。夏の終わりの公開ですが、デートや家族連れで足を運んでも、きっと楽しめる作品だと思います。是非、ご覧ください。

■ 10組20名様にムビチケをプレゼント!
さらに5名様には非売品プレスシートも

終了しました。
BRITISH MADEでは8月30日から公開の『トールキン 旅のはじまり』の映画公開を記念して、プレゼントキャンペーンを開催します。応募方法は以下の通りとなります。

1. BRITISH MADEのTwitterアカウントをフォロー⇒ https://twitter.com/britishmade_jp
2. 該当ツイートをRT(リツイート)
以上で応募完了です。応募締め切りは2019年8月22日(木)23時59分まで
当選者の方にはツイッターのDMで直接お知らせいたします。

映画『トールキン 旅のはじまり』
2019年8月30日(金)全国ロードショー
http://www.foxmovies-jp.com/tolkienmovie/
© 2019 Twentieth Century Fox. All rights reserved.
参考資料
・本作プレス向け資料
・『トールキンとC・S・ルイス友情物語 ファンタジー誕生の軌跡』(コリン・ドゥーリエ著 成瀬俊一訳 柊風舎刊)
・ニコラス・ホルト、ドメ・カルコスキ監督の発言はオフィシャルインタビュー映像から引用。

Text by Uchida Masaki


plofile
内田 正樹

内田 正樹

エディター、ライター、ディレクター。雑誌SWITCH編集長を経てフリーランスに。音楽をはじめファッション、映画、演劇ほか様々な分野におけるインタビュー、オフィシャルライティングや、パンフレットや宣伝制作の編集/テキスト/コピーライティングなどに携わる。不定期でテレビ/ラジオ出演や、イベント/web番組のMCも務めている。近年の主な執筆媒体は音楽ナタリー、Yahoo!ニュース特集、共同通信社(文化欄)、SWITCH、サンデー毎日、encoreほか。編著書に『東京事変 チャンネルガイド』、『椎名林檎 音楽家のカルテ』がある。

内田 正樹さんの
記事一覧はこちら

RECOMMEND