探偵ジャクソン・ブロディの“Trooper” | BRITISH MADE

ブリティッシュ“ライク” 探偵ジャクソン・ブロディの“Trooper”

2021.07.22

ジャクソン・ブロディ
在宅時間が増えることはや2年、映画だけでは事足らずドラマにまで守備範囲を広げている。相変わらず探偵モノを中心に、ミステリーやサスペンスに時間を割き、およそ1年かけて『名探偵ポワロ』と『刑事コロンボ』をコンプリートした。また、『アート・オブ・クライム 美術犯罪捜査班』や『アストリッドとラファエル文書係の事件』など、古今あまりフォーカスされてこなかった部署の人物が犯罪を紐解いていくフランスドラマも面白い。シリアスとコミカルのメリハリがきき、お約束の恋愛要素が必ず組み込まれている。イギリスドラマにはない、テンポよく軽妙なタッチのおかげであっという間に見終えてしまった。

といいつつも、無論イギリスドラマに多くの時間を割いており、実際のところ佳作が多い。イギリスドラマの魅力の一つは、首都ロンドンだけではなく地方を舞台にしている作品が多い点だ。例えばオックスフォードを舞台にした『主任警部モース』や、派生作品『オックスフォードミステリー ルイス警部』、『新米刑事モース~オックスフォード事件簿~』、温泉保養地にして世界遺産の街バースを舞台にした『マクドナルド&ドッズ 窓際刑事ドッズの捜査手帳』、文豪シェイクスピアの故郷であるストラトフォード=アポン=エイヴォンを舞台にした『シェイクスピア&ハサウェイの事件簿』、西ウェールズを舞台にした『ヒンターランド』など色とりどりだ。ガイドブックには掲載されていない魅力的なエリアが矢継ぎ早に登場し、かつこの場所でなければならない理由がきちんと物語に落とし込まれている。

二つめの魅力は、否が応でも目にする彼らの移動手段である“足”だ。彼らの愛車はとにかく個性的で、もはや本人と一体化したアイコンになっていることがほとんどだ。コロンボは“PEUGEOT 403”、モースは“JAGUAR MARK2”、シェイクスピア&ハサウェイでは、“MINI COOPER”等々。古着ブームやレコードブームに続くクラシックカーブームもあいまって、彼らの 個性的な愛車にすっかり虜になり、目下最悪なことに物欲に火がついてしまっている…
ジャクソン・ブロディ モース警部の愛車 JAGUAR MARK2
話が横道にそれたが、最近イギリスドラマの中でもっとも熱を上げたのが、『ジャクソン・ブロディ(原題 Case Histories)』だ。主人公ジャクソン・ブロディは、元軍人にして元警官の私立探偵だ。ケイト・アトキンソンの小説『探偵ブロディの事件ファイル』を原作としている。小説では、登場人物が多く、各々の目線で描かれている。そのため登場人物の一人という印象が否めないジャクソンだが、テレビドラマでは徹底した彼目線で描かれ、無駄な情報は排除されてより洗練されている。ジェイソン・アイザックス演じるジャクソン・ブロディは、どういった過去を持ち、何を考えているのかは鮮明には描かれずやや伏せられている。最大の変更点は小説の舞台がケンブリッジであったのに対し、エディンバラになっている点だ。ジャクソンの醸すミステリアスな雰囲気が、古都エディンバラによく映え功を奏している。素晴らしい映像の質感ともあいまって確固たる世界観を作っている。ハードボイルドを踏襲しつつも、フランスで生活することを夢見て語学の勉強に勤しんでいたり、恋愛関係に少々だらしなかったり、愛娘マーリーとの時間を何よりも大切にしたりと、王道とは異なる独創的で唯一無二なキャラクターにみるみるうちに引き込まれてしまった。
エディンバラ 実際に訪れたジャクソンの探偵事務所がある建物と彼のランニングコースアーサーズ・シート
この愛すべき探偵ジャクソン・ブロディについて言及したいのは彼の服装だ。ジャクソンが常に着用しているのはBarbourの“Trooper”だ。元軍人で、鍛え上げた肉体を持つマッチョな彼にはうってつけのモデルだ。茶色のワックスジャケットが灰色の古都エディンバラによく馴染んでいる。このジャケットを下敷きにし、鉄門扉から“不法侵入”する姿はとくに印象的で目を奪われた。すっかり触発されてしまい、久々に Barbour を着てみたくなって衣裳部屋へ向かった。漁っている最中に出てきたのは学生時分に初めて購入した“INTERNATIONAL”。これを着て愛車“HONDA GB250”にまたがり日本各地を旅したことが懐かしい。思えばついぞ洗ってやったことがない。良心の呵責に苛まれ、専門のクリーニング業車を訪れたが、あまりにもみすぼらしいせいか断られてしまった。せっかくなのでこの機会に自分自身で洗濯を試みた。初めて水を通した際、育ちの故郷である東広島市西条にあるため池のヘドロのような液が出て心は折れた。しかし、繰り返し洗うこと5セット。ようやくそれなりには綺麗になった。一度やり始めると他のジャケットも洗いたくなり、“BEDALE”、“BEAUFORT”と次々に洗ってみた。完全に水分が抜けきるのにおよそ2日。骨が折れる作業だが、やってみると案外面白くすっかり夢中になってしまった。ジャクソン・ブロディに端を発し、童心に帰った。
バブアー バブアー ジャクソンの着用する“Trooper”
Photo&Text by Shogo Hesaka


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部坂 尚吾

部坂 尚吾

1985年山口県宇部市生まれ、広島県東広島市育ち。松竹京都撮影所、テレビ朝日にて番組制作に携わった後、2011年よりスタイリストとして活動を始める。2015年江東衣裳を設立。映画、CM、雑誌、俳優のスタイリングを主に担い、各種媒体の企画、製作、ディレクション、執筆等も行っている。山下達郎と読売ジャイアンツの熱狂的なファン。毎月第三土曜日KRYラジオ「どよーDA!」に出演中。
江東衣裳
http://www.koto-clothing.com

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