話が横道にそれたが、最近イギリスドラマの中でもっとも熱を上げたのが、『ジャクソン・ブロディ(原題 Case Histories)』だ。主人公ジャクソン・ブロディは、元軍人にして元警官の私立探偵だ。ケイト・アトキンソンの小説『探偵ブロディの事件ファイル』を原作としている。小説では、登場人物が多く、各々の目線で描かれている。そのため登場人物の一人という印象が否めないジャクソンだが、テレビドラマでは徹底した彼目線で描かれ、無駄な情報は排除されてより洗練されている。ジェイソン・アイザックス演じるジャクソン・ブロディは、どういった過去を持ち、何を考えているのかは鮮明には描かれずやや伏せられている。最大の変更点は小説の舞台がケンブリッジであったのに対し、エディンバラになっている点だ。ジャクソンの醸すミステリアスな雰囲気が、古都エディンバラによく映え功を奏している。素晴らしい映像の質感ともあいまって確固たる世界観を作っている。ハードボイルドを踏襲しつつも、フランスで生活することを夢見て語学の勉強に勤しんでいたり、恋愛関係に少々だらしなかったり、愛娘マーリーとの時間を何よりも大切にしたりと、王道とは異なる独創的で唯一無二なキャラクターにみるみるうちに引き込まれてしまった。