Love actually is all around - イギリスの日常にあふれるチャリティ | BRITISH MADE

English Garden Diary Love actually is all around - イギリスの日常にあふれるチャリティ

2022.12.20

クリスマス間近のこの季節。普段以上に目につくのが、寄付を受け付ける案内や「チャリティ」の言葉。日本でも「歳末助け合い運動」がよく知られていて、この時期には募金活動もたくさん行われていますよね。イギリスでも日本でも、特にクリスマスや年末の頃に、チャリティへの関心が高まるのは似ているかもしれません。
街中でクリスマスの雰囲気が高まっている12月のイギリス

ただ、私がイギリスに住むようになってほどなく気づいたのは、「イギリスでは、チャリティが街中に、そして人々の日常の暮らしの中にあふれている」ということでした。つまり、クリスマスや歳末だけでなく、この国では、いつどんな時にでも、チャリティが身近にあるのです。

たとえば、それぞれの街の商店街には必ずといっていいほど、「チャリティ・ショップ」と呼ばれるお店があります。名前通り、そこはチャリティを行う組織や団体によって運営されているお店です。一般の人々から寄付された中古の本、衣服、食器やDVDなどを販売して、その売り上げが慈善事業に活用されるというシステムです。

チャリティとはいえ、ショーウィンドウはきれいにディスプレイされ、洋服の試着もでき、一般のお店となんら変わりません。違うことといえば、店員さんの多くがボランティアだということです。渡英後すぐ、私はチャリティ・ショップの魅力に開眼。なんといっても、ウェッジウッドのディナー・プレートが2ポンド(300円足らず)とか、ローラアシュレイのワンピースが6ポンドとかの安さで売られているのが、予算を切り詰めて生活している留学生には大いなる味方となりました。
世界的に有名なNGO、Oxfam(オックスファム)のショップ1号店

初めてチャリティ・ショップで買い物をしたあと、その戦利品を下宿先の大家さんに見せると、「日本にはチャリティ・ショップはないの? チャリティ・ショップで買い物をすると、それが寄付につながるからいいんだよ。どんどん買い物したらいいよ」と教えてくれました。それを聞いて「やっぱりイギリスに来て良かった」。そう思いました。というのも、私が36歳で遊学先にイギリスを選んだ理由のひとつが、「イギリスでは気軽にボランティアができる」と、ある本で読んだからだったのです。渡英前の私は、働きすぎもあってか、体に不調をきたしたため、当時10年近く続けていた大好きな編集者の仕事をやめました。その後、ボランティア活動をして生きたいと海外青年協力隊の試験を受けたものの、あっけなく不合格。ひとしきり落ち込んだ後に図書館で借りた本が、翌年の渡英を後押ししてくれたのでした。

そして、誰一人知り合いもいないままにやってきて、実際に住んでみたイギリスは、人々の日常の暮らしの中に「チャリティ」が当たり前にありました。


子どもの頃からチャリティ体験

子どもたちが小学校に通いだすと、学校では、チャリティを目的としたイベントが頻繁にありました。たとえば、「今週の金曜日に◯◯チャリティの寄付に1ポンド持参すれば、この日は制服の代わりにクリスマスのジャンパー(セーター)を着てきていいです」というお知らせが学校から届きます。チャリティの目的や方法はその都度違い、キャラクターの仮装をしたり、奇抜な髪型をするというのもありました。特に低学年の頃は、いつもと違うイベントの日ということで、子供たちははしゃいで学校に出かけて行きます。

このようにイギリスの子どもたちは、幼いうちからチャリティという言葉に触れ、まるでエンターテインメントのように、楽しく寄付することを覚えていくのです。
近所のスーパーでは、クリスマスプレゼントの寄付を募るワゴンに、山のような寄付が集まっている(左隣のケースには、ペットたちへの寄付も)

実は、イギリスでボランティア、チャリティをしたいと思って渡英した私自身が、あるチャリティ団体にお世話になったことがあります。それは、42歳という年齢で双子を出産したのち、近くに頼れる家族もおらず、産後鬱と更年期障害で育児に困難を感じていた頃のことでした。

たまたまスーパーの掲示で、育児に困っている人のサポートをしてくれるというチャリティ団体のチラシを見つけました。ドキドキしながら連絡してみると、まずはコーディネーターの方が来て、丁寧に私の状況を聞いてくれました。そして、地元に住むボランティアの方が1週間に1回、家に訪ねてくれるようになったのです。リタイア後に友人と一緒にボランティアを始めたというスーは、2時間ほどの間、子どもたちに本を読んでくれたり、外出もままならず孤独だった私の話し相手になってくれました。

また、私が以前ボランティアをしていた地元のコミュニティカフェは「外出できずに孤独な高齢者が大勢いる」ことをラジオ番組で知ったジルさんが一人で立ち上げたものでした。

調理も送迎も接客も、すべてボランティアだけで賄うカフェ。食品の仕入れの多くは、スーパーや食品店、レストランが廃棄処分にする前のものを、格安または無料でチャリティ団体に渡してくれるものを利用します。

私の仕事は椅子やテーブルを並べたり、注文の品を運ぶほか、カフェに来た人と話をすること。回数を重ねる毎に顔なじみが増え、90歳を超えるティムさんは、帰り際にハグをしてくれるようになりました。週にわずか3時間ほどのボランティアの後は、何より私自身の元気が充填されるのを毎回感じていました。

3年前のクリスマスには、かつての下宿先の大家さん一家が、クリスマス当日に、ホームレスの方達へのクリスマスディナーを提供するイベントでボランティアをしていました。

「以前は実家のおじいちゃんおばあちゃんたちと一緒にクリスマスの大パーティをしていたけど、彼らが亡くなった今、クリスマスの日をホームレスの方たちと一緒に過ごすのも楽しいと思って。」

元大家さんはクリスマス当日にボランティアに参加する理由をこう語ってくれました。


チャリティは特別なことではない

現代のイギリスでは「寄付やボランティアはお金や時間に余裕のある人がする特別なこと」ではなく、「誰もが自分のできる範囲で当たり前にすること」です。そしてチャリティに参加してみると、チャリティとは「与える」というよりも「与えることの喜びを受け取る」ということなのが実感できます。

日本では著名人が多額の寄付をしたり、チャリティ活動に参加すると「売名行為」と言われて、活動した方々がかえって傷ついたり、つらいおもいをされることがあると、かつて取材させていただいたある有名人の方から聞いたことがありました。

イギリスでは、著名人であってもなくても、規模や金額の違いはあれど、誰もがチャリティに参加するのが当たり前なので、そういった問題はあまり耳にしたことがありません。チャリティが日常に根ざしたイギリス社会では、「お互いが支え合う」というあり方が当たり前だからかもしれません。
市販されているクリスマスカードも、それを購入することで、寄付ができる仕組みなので、簡単にチャリティ参加が可能

さて、イギリスでは、光熱費の高騰により、この冬、暖房を使えない家庭が増えているということで、行政や多くのチャリティ団体によって「ウォームスペース(Warm Space)」「ウォームバンク(Warm Bank)」という活動が行われています。これは、コミュニティセンターや教会、図書館、コワーキングスペースやパブ、カフェなどが、家で暖房が使えない方たちに、暖房のきいた空間を提供するというもの。場所にもよりますが、WiFiが無料で使えたり、飲み物も提供されたり、人々が温かい場所で時間を過ごすことができるこの活動は大きなムーブメントになっています。
https://warmspaces.org/

クリスマスのこの時期、イギリスの日常にあふれるチャリティについてあらためて考えさせられました。自分が困ったときには「助けて」ということができ、逆に小さなことでも、自分にできることがあれば参加する。それがイギリスのチャリティという気がしています。


Photo&Text by Mami McGuinness



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マクギネス真美

マクギネス真美

英国在住20年のライフコーチ、ライター。オンラインのコーチングセッションで、人生の転換期にある方が「本当に生きたい人生」を生きることを日本語でサポート。イギリスの暮らし、文化、食べ物などについて書籍、雑誌、ウェブマガジン等への寄稿、ラジオ番組への出演多数。
音声メディアVoicy「英国からの手紙『本当の自分で生きる ~ 明日はもっとやさしく、あたたかく』」にてイギリス情報発信中。

ロンドンで発行の情報誌『ニュースダイジェスト』にてコラム「英国の愛しきギャップを求めて」を連載中。

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