次のイギリス旅行で訪ねたいイングランドの隠れた名所|グラストンベリー | ブリティッシュメイド

English Garden Diary 次のイギリス旅行で訪ねたいイングランドの隠れた名所|グラストンベリー

2024.05.22

「イギリスに遊びに行きたいけど、円安で当分海外旅行は難しいかも」
日本に住むイギリス好きの友人が先日こう言っていました。

でも、次にイギリスに行く時のために、これまで行ったことのないイギリスのおすすめの場所を教えて欲しいと言われ、紹介したのがイングランド南西部、サマセット州にあるグラストンベリーという小さな街です。

グラストンベリーといえば、世界から音楽ファンが集う、夏のグラストンベリー・フェスティバルで有名です。このフェスティバルが開催されるのは、グラストンベリー郊外にある農場の大きなフィールド。私は、このフェスティバルに行ったことはあったのですが、街を訪ねたのはこの春が初めてでした。

「イングランドで最も風変わりな街」ともいわれるここは、街全体がパワースポットと呼ばれるのにふさわしい、不思議な(でも心地よい)エネルギーにあふれた場所。今日はブリティッシュメイドのSTORIES読者のあなたにもご紹介させていただきますね。

アーサー王伝説のアヴァロン島

人口9,000人弱の小さな街グラストンベリーに世界中から人々が集まるのは、「アーサー王伝説」で知られるキング・アーサーが、その最期を迎えた地として知られているからかもしれません。5世紀後半から6世紀前半にかけてサクソン人を撃退し、現在でもイギリスの歴史上、最も偉大な王の一人と数えられるアーサー王。歴史家の間でも、いまだに実在の人物か、神話に登場する架空の存在かの議論がわかれていますが、イギリス各地にその英雄伝説が残っていて、15世紀の時を経てなお、人々の関心を惹きつけているのは間違いありません。

次のイギリス旅行で訪ねたいイングランドの隠れた名所|グラストンベリー グラストンベリーのハイストリートにあるセント・ジョンズ・チャーチ。
また、イングランドにおけるキリスト教の歴史的にも重要だとされているのがこの地。というのも、のちにイエスが処刑された際、その遺体を引き取り、埋葬したことで知られるアリマタヤのヨセフとともに若きイエスが渡英の際に訪ねたのがグラストンベリーだと言われ、イングランドで最初にキリスト教の教会が建てられたのもこの場所だと伝えられているからです。

そして現代では、特にスピリチャリティに関心のある人々が集まることでも知られています。というのも、グラストンベリーは、レイラインが交差する地点と信じられているからです。レイラインというのは、古代遺跡や聖地などの地点を直線状に結ぶ経路のことを言い、アルフレッド・ワトキンスというアマチュア考古学者による著書『ザ・オールド・ストレート・トラック(The Old Straight Track)』という書物によって紹介されました。

1969年に発表されたジョン・ミッチェルによる『ザ・ビュー・オーバー・アトランティス(The View Over Atlantis )』では、レイラインにスピリチュアルな意味があるとして、イングランドを北東から南西に横断する「セント・マイケルズライン」と呼ばれるレイラインについて言及。セント・マイケルズラインにあるグラストンベリーをニューエイジの首都としました。以来多くの人たちが、この地にスピリチュアルなエネルギーを求めて集ってきているのです。ちなみに、現代で最も影響力のあるスピリチュアル・ティーチャーの一人、エックハルト・トーレも、かつてこの地に住んでいました。

街のハイストリートには、オーガニックカフェやクリスタル、アロマセラピーの精油を扱う専門店、スピリチュアルやマジックについての専門書店やヒーリングを受けられるサロンなどがあり、これらもこの街に立ち寄る楽しみではありますが、今回はグラストンベリーで特に絶対に見ていただきたい3つの見所をご紹介しますね。

1 グラストンベリー・アビー(Glastonbury Abbey)

次のイギリス旅行で訪ねたいイングランドの隠れた名所|グラストンベリー 残された一部からも、かつての壮大な姿がしのばれる修道院。
グラストンベリー・アビーはイングランド最古のキリスト教修道院といわれています。このことは7世紀末に3人のサクソン王が作成した土地の寄進状によって示されているとのことですが、一説には1世紀の頃に‘ザ・オールド・チャーチ(The Old Church)’と呼ばれる教会を建てたとも言われているそうです。

ヘンリー8世の時代、宗教革命によって建物のほとんどが取り壊されたため、現在残っているのは建物の外壁の一部のみです。廃墟といってもよさそうな場所ではありますが、実際にその場所に立ってみると、かつて修道院が建てられていた様子、荘厳さが目に浮かぶようで、そのスケールに圧倒されます。

また、真偽のほどは不明とされているものの、この地で12世紀にアーサー王の墓を修道院の僧侶のひとりが発見したとされています。現在はそのことを伝える小さな看板が立てられています。

次のイギリス旅行で訪ねたいイングランドの隠れた名所|グラストンベリー アーサー王の墓が修道院レディ・チャペルの南側から発見されたことを伝える案内板。
次のイギリス旅行で訪ねたいイングランドの隠れた名所|グラストンベリー 修道院の厨房となっている建物、アボット・キッチン。
もうひとつ、ここで見逃せないのが、修道院の厨房です。ヨーロッパに現存する中世の厨房の中でも最も素晴らしいもののひとつに数えられているという広くて機能的なキッチンは、修道士たちのためのものではなく、むしろ修道院長と彼が招いた高名なゲストたちの晩餐のために使われていたもの。建物内には中世の食べ物や調理道具、器などが再現されていて、イギリス料理の歴史に興味のある私にとっては、どれだけ見ていても見飽きないほどでした。

次のイギリス旅行で訪ねたいイングランドの隠れた名所|グラストンベリー
次のイギリス旅行で訪ねたいイングランドの隠れた名所|グラストンベリー 中世のイングランドの食生活、調理器具などを垣間見ることができる。
そして、私が訪ねた時にはまだ準備中とのことでしたが、現在アビーにある売店では、敷地内で育ったリンゴから作られたサイダー(リンゴ酒)が発売されています。サマセット州はサイダーの産地としても有名な場所なので、訪問の記念にぜひ試してみてはいかがでしょう。

次のイギリス旅行で訪ねたいイングランドの隠れた名所|グラストンベリー グラストンベリー・アビーのある広大な敷地内には、ハーブや野菜などを植えたキッチンガーデンほか、リンゴなどの果樹園もある。
https://www.glastonburyabbey.com/


2 グラストンベリー・トー (Glastonbury Tor)

次のイギリス旅行で訪ねたいイングランドの隠れた名所|グラストンベリー 街のどこからでも見つけることのできるグラストンベリー・トー。
高さ158メートルの塔グラストンベリー・トーは、グラストンベリーの街のどこからでも目に入るランドマークとも言える存在です。トー(Tor)というのは、ケルト語で「丘」を意味するといい、この丘自体はローマ人たちも利用していました。長い歴史の中で、この丘、そして建物についてはたくさんの伝説、物語が語り継がれていますが、それが実際にあったことなのか、それとも創作されたものなのか、たくさんの謎に包まれた場所でもあります。

歴史を辿ると、丘の頂上部分は10~11世紀頃に石造りの教会を建てるために平らにされました。ところが1275年の地震で教会は壊れてしまい、1323年にこの場所へ小さな教会が再建され、1539年にグラストンベリー修道院が壊されるまで、この教会も存在していたと伝えられています。その後、教会の建物は石材として切り出され、現在はひとつの塔だけが残っているのだそうです。

次のイギリス旅行で訪ねたいイングランドの隠れた名所|グラストンベリー 数々の伝説が残る地に今も立ち続けて人々を見守っているかのような建物。
私が訪ねた日は、嵐のような強風が吹き荒れ、大人も子どもも声をあげて、笑いながら強風に立ち向かうようにして丘の上に立っていました。気を抜いたら、ふわりと空に飛び立ってしまいそうな感覚を覚えた私は、下界(?)の街中ではありえない自然の力に触れ、この場所に多くの伝説が残っているのも不思議ではない気がしました。伝説の一つは、この丘の下には隠された洞窟があり、そこから妖精の王国に行けるというストーリー。これを聞いて、ぜひその洞窟から妖精の住む場所へ行ってみたいと思ったのは私だけではないでしょう。

現在、グラストンベリー・トーは、イギリスの景観や歴史的建築物の保護に尽力しているチャリティ団体ナショナル・トラストによって管理されていますが、入場は無料で、徒歩で丘の上まで登ることができます。歩道が整備されているので、本格的なトレッキングシューズなどの準備なく、子どもや高齢の方でも気軽に歩くことができ、地元の人たちにとっては、お散歩ルートにもなっているようです。

次のイギリス旅行で訪ねたいイングランドの隠れた名所|グラストンベリー トーまでの道は、平坦で歩きやすくなっている(強風の日は飛ばされないように注意!)。
また、丘の下では草原の中でシンギングボウルを使ったメディテーションをしているグループがいたり、ヨガをしている人を見かけたりもしました。イングランドの美しい自然を見渡せるこの場所は、豊かなエネルギーを感じられる場所です。

https://www.nationaltrust.org.uk/visit/somerset/glastonbury-tor


3 チャリス・ウェル(Chalice Well)

次のイギリス旅行で訪ねたいイングランドの隠れた名所|グラストンベリー 入口からは想像できないほど広く、穏やかな空間が広がるチャリス・ウェル。
グラストンベリー・トーのふもとにある、イングリッシュガーデンが広がる場所には、チャリス・ウェルと呼ばれる泉があります。まずはエントランスから中に入っていくと、ブルーベル、勿忘草、チューリップ、木蓮などが咲きそろった美しい庭があり、中央は芝生の緑がキラキラとしています。庭のあちこちにはベンチが置かれていて、そこで静かに目を閉じて座っている人や、本を読んでいる人がいて、街の喧騒からはまったく隔離された「サンクチュアリ」とでも呼びたくなるような空間です。ロビンやブラックバードなどイギリスでよく見かける野鳥の歌声があちこちから聞こえ、庭を歩き進んでいるうちに、時間がスローダウンしたような気持ちになりました。それもそのはず、ここは、瞑想やリトリートをするための場所としても、多くの訪問者を集めているのです。

次のイギリス旅行で訪ねたいイングランドの隠れた名所|グラストンベリー チャリス・ウェルで最初に出会う水場は8の字を描いている。
さて、肝心の泉について。ここの水には、鉄分が豊富に含まれています。その鉄分が水を赤く染めているところから、多くの神話が生まれているといいます。その一つは、十字架に架けられたイエス・キリストから流れた血を受けた聖杯をアリマタヤのヨセフがこの地に埋めたというもの。この泉の水はイエスの血とも言われています。

敷地内には水をたたえた場所がいくつかありますが、「ヒーリング・プール」と呼ばれる水場は18世紀からあるというもの。バラの花びらが浮かべられていて、眺めているだけでも癒しになる場所。私も裸足になってプールに入ってみました。その水はあまりにも冷たく、2、3歩歩いただけで、足が痺れるような感覚でしたが、二往復した後、足を拭くと、なんとも言えない心地よさを感じ、ここの水のヒーリングパワーを実感することができました。

次のイギリス旅行で訪ねたいイングランドの隠れた名所|グラストンベリー 癒しの水場は底がとても滑りやすくなっているので、ゆっくりと歩いて。
さらに進むと「ライオンズ・ヘッド」と呼ばれる、名前の通りライオンの口から水が流れている場所があります。ここの水は飲料水として利用していいとされていて、人々がポリタンクをもってここの水を汲みに来ていました。鉄分が多いので、一度に多量の水を飲まない方がよいとの注意がありますが、せっかくならぜひ、癒しの水を口にしてみてはいかがでしょうか。

次のイギリス旅行で訪ねたいイングランドの隠れた名所|グラストンベリー ペットボトルやポリタンクに水を汲む人が絶えないライオンズ・ヘッド。お守りやクリスタルを丁寧に洗っている人も見かける。
一番奥には、このガーデンの心臓部ともいえる、「ウェル・ヘッド・アンド・サンクチュアリ」があります。蓋の部分には二つの円を重ねた模様があり、これは物質世界と精神世界の融合や創造と再生の象徴とも言われます。「聖なる場所」の名にふさわしく、静謐な空気が流れ、この前で熱心にお祈りをしている人や、少し離れたベンチに座って、この井戸をじっと眺めている人もいました。

次のイギリス旅行で訪ねたいイングランドの隠れた名所|グラストンベリー 花々で飾られた井戸は汲めどもつきぬ大地のエネルギーを感じさせる。
チャリス・ウェルを歩いて巡ると、色彩、光、香り、音が五感を刺激して、体中で「いのち」を感じる気がしてきました。あなたがスピリチャリティについて関心があったり、学んだりしていようと、そうでなかろうと、おのずと自分自身の内側の静かな場所に戻っていくような感覚になれるのがこのチャリス・ウェルという場所。マインドフルネスを体感したい方は、ぜひここでゆったりとした時間を過ごしてみてください。

https://www.chalicewell.org.uk/


次のイギリス旅行で訪ねたいイングランドの隠れた名所|グラストンベリー ハイストリートの広場では、人々が思い思いにくつろいでいた。
次のイギリス旅行で訪ねたいイングランドの隠れた名所|グラストンベリー
次のイギリス旅行で訪ねたいイングランドの隠れた名所|グラストンベリー グラストンベリーの街にはグラフィティもたくさん。
グラストンベリーへの小旅行を終えて家に戻り、お隣さんに「今日はグラストンベリーに行ってきたよ」と伝えると「ちょっと不思議な街よね、あそこ」とまるで秘密を分かち合うような笑顔を向けてくれました。

パワースポット、スピリチュアルの聖地とも言われるグラストンベリーは小さな街ですが、大地そして地球という大いなるものの存在を感じることができる場所です。

ぜひ、あなたも次のイギリス旅行のときには足を伸ばしてみてください。
(私のVoicyのラジオ番組でも、グラストンベリーへの小旅行についてお話ししました。音声でも聴いてみてください)

*グラストンベリー(Glastonbury)
アクセス:車ーロンドンから約3時間
公共交通機関ーロンドン・パディントン駅からブリストル・テンプルミーズ駅まで約2時間、テンプルミーズ駅からバスで約1時間30分
ウェブサイト:https://glastonbury.uk/

Photo&Text by Mami McGuinness


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マクギネス真美

マクギネス真美

英国在住20年のライフコーチ、ライター。オンラインのコーチングセッションで、人生の転換期にある方が「本当に生きたい人生」を生きることを日本語でサポート。イギリスの暮らし、文化、食べ物などについて書籍、雑誌、ウェブマガジン等への寄稿、ラジオ番組への出演多数。
音声メディアVoicy「英国からの手紙『本当の自分で生きる ~ 明日はもっとやさしく、あたたかく』」にてイギリス情報発信中。

ロンドンで発行の情報誌『ニュースダイジェスト』にてコラム「英国の愛しきギャップを求めて」を連載中。

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