クラシック音楽の祭典「Proms」と「威風堂々」を熱唱する人々のこと | BRITISH MADE Staff blog

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クラシック音楽の祭典「Proms」と「威風堂々」を熱唱する人々のこと

もうだいぶ前の話になりますが、ロンドンの語学学校に通っていたことがあります。ある時、英語力が上がったので上のレベルのクラスに移っていいと言われ、学生たちから一番人気がある先生のクラスに入れることになりました。

 

クラスメイトによると、先生はケンブリッジ大学の文学部を卒業した秀才で、その語学学校の教務主任を務めていました。身長が高く、体格が良く、フレンドリーながら威厳もあったので、どの国籍の生徒からも一目置かれていました。私もずっとこの先生のクラスに居れたらいいのにな、と思っていました。

 

そんなある日、きっかけは忘れましたが授業中に音楽の話題になり、先生がレゲエミュージックの批判を始めました。

 

「私はレゲエは嫌いだ。“Everything’s Gonna Be Alright(すべてうまくいくよ)”なんて……そんな、無責任な。楽観的すぎてあり得ない」

 

リスペクタブルな先生も、やはり皮肉なイギリス人なのだなあと感じたのをよく覚えています。でも、先生は続けてこんな話をしてくれました。

 

「皆さん、イギリスではスコットランド、ウェールズ、イングランドの国旗やフットボールチームの旗を振る人は多くいますが、普段ユニオンジャックの国旗を振る人はあまりいません。国歌も『God Save the Queen』を歌うのはロイヤルファミリーのファンくらいだと思います。でも1曲だけ、イギリス人全員が誇らしく歌う歌があります。知っていますか?

 

頭が良くて皮肉屋な先生がそこまで言う歌は何だろうかと、クラス全員が耳を傾けました。

 

それは、エルガーの『威風堂々 第一番』です

 


「威風堂々」は音楽の授業で習うので、日本でも有名なクラシック音楽のひとつ

 

先生によると、エルガーの「威風堂々」は、毎年7~9月にかけて開催されるクラシック音楽の祭典「Proms(プロムス)」のラスト・ナイトで必ず演奏される曲目だそうで、ロイヤル・アルバート・ホールをはじめ、イギリス各地のコンサート会場をライブ中継でつなぎ、全員で高らかと歌い上げる様子が夏の終わりの風物詩となっているのだそうです。レゲエは嫌いだという現実主義な先生も、この瞬間は胸が熱くなると言っていました。

 


Proms in the Park のハイドパーク特設会場 © 2015 Serious Stages. All Rights Reserved.

 

それから少しして、友だちがなんとプロムスのラスト・ナイトのチケットが取れたから一緒に行こうと誘ってくれました。私たちのチケットは「Proms in the Park(プロムス・イン・ザ・パーク)」というもので、ハイドパークの特設会場で、往年のポップやロックの名曲を超絶に上手な歌手たちがカバーしてくれたり(時々、本人が登場したり)、野外でクラシック音楽を楽しめるという贅沢なもの。若い人たちだけでなく、防音ヘッドホンをつけて眠る赤ちゃんを抱っこしながら踊るお母さんや、折り畳みいすに腰かけてのんびり鑑賞する老夫婦など、そこに居ちゃいけない人なんていない雰囲気が素敵なコンサートでした。

 

このハイドパークの会場も、エンディングに差し掛かり「威風堂々」の時間がくると、大スクリーンにロイヤル・アルバート・ホールが映し出されました。そして観客が全員立ち上がり、それぞれ持っている旗を掲げながら、「♪希望と栄光の国、自由の母よ」と歌い始めます。下の動画はロイヤル・アルバート・ホールの演奏シーンですが見応えあります。特に4分45秒あたりから、ぜひご覧ください。

 

Promsのラストナイト恒例「威風堂々」の大合唱

 

プロムスは今年で127周年を迎えますが、ラスト・ナイトで「威風堂々」を歌うようになったのは1902年のこと。つまり、イギリスの人々は、120年もの間、この歌を歌ってきたことになります。イギリスでは階級、民族、地域など、さまざまな分断が社会問題になりますが、それでも夏の終わりには、それぞれが自分の旗を掲げ、同じ歌をみんなで一緒に歌います。それぞれが守っているものに対する誇りと、未来への希望や祈りを込めたその歌声は、あまりにも気高く、私の中にある熱い気持ちを解放してくれるようでした。

 

プロムスは、今年も7月15日~9月10日まで開催されます。もしこの時期にイギリスへご旅行の方がいらっしゃいましたら、ぜひあの「威風堂々」を肌で感じていただきたいです。
公式サイト:https://www.bbc.co.uk/proms

 

ところで、ここからちょっと《ネタバレ》しますが、この「威風堂々」という曲は、映画『キングスマン』のラストの爆発シーンでも象徴的に使われます。自分たちだけ生き残ろうとした上流階級の人々や政治家たちの首をぽんぽん吹き飛ばす際に心地よく流れるあの曲です。イギリス人にとって「威風堂々」がどういう歌か知っていただいた今、改めてあのシーンを観ていただくと、可笑しさもひとしおだと思うのでおすすめです。

 

それでは今日はこの辺で!

 

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