BRITISH MADE

16世紀英国を生きたふたりの女王の物語に描かれる「今」

2019.03.15

いま、日本では英国王室を描いた傑作映画が立て続けに劇場公開されている。現女王エリザベス2世の高祖母にあたるヴィクトリア女王の晩年を描いた『ヴィクトリア女王 最期の秘密』、次に18世紀初頭の英国を舞台にアン女王の寵愛を奪い合う女性2人のしたたかな攻防を描いた『女王陛下のお気に入り』。そして、ラストの3本目を堂々と締めくくるのが、その2作よりさらに時代を遡った、激動の16世紀のスコットランドと英国が舞台の『ふたりの女王 メアリーとエリザベス』だ。大英帝国の礎を築いた、偉大なる“処女王”エリザベスⅠ世は誰もが知る歴史人物であろうが、実は“永遠のライバル”として、彼女の権力を脅かすある女性が存在していた。その名は、スコットランド女王のメアリー・スチュアート。ふたりは従姉妹同士でありながら、英国の王位継承権をめぐり対立する。同じ女王という立場だが、真逆の選択をしたふたりの女性の生き方を描いた本作。16世紀の物語を通じて、現代に生きる私たちにも強く訴える様々なテーマが込められている。
<メアリー・スチュアート×エリザベスⅠ世> ――女王は私ひとりだけ
本作は、スコットランド女王メアリー・スチュアートとイングランド女王エリザベスⅠ世の波乱に満ちた人生を描く。
生後すぐにスコットランド女王、16歳でフランス王妃となったメアリー・スチュアートは、未亡人となった18 歳にスコットランドへ帰国し王位に戻る。さらに、メアリーは隣国イングランドの王位継承権を主張、エリザベスⅠ世の権力を脅かす。恋愛、結婚、出産を経験し、若く美しく自信にあふれたメアリーに複雑な想いを抱くエリザベス。誰よりも理解し合えたはずの孤独な若き女王たちは、従姉妹でありながら恐れ合い、それぞれ陰謀渦巻く宮廷の中で運命に翻弄され戦うのだった……。

『ふたりの女王 メアリーとエリザベス』が撮影されるまで

プロデューサーのティム・ビーヴァンとエリック・フェルナー、デボラ・ヘイワードは、ケイト・ブランシェット主演、シェカール・カプール監督作品『エリザベス』(99)とその続編『エリザベス:ゴールデン・エイジ』(08)を製作した経験から、メアリー・スチュアートの生涯に興味を持っていた。
メアリー・スチュアート スコットランド女王(在位 1542-1567)
エリザベスⅠ世との交流を含め、メアリーの人生には現代に共鳴する部分がある。男性社会の中で、自らの力を行使する術を学び、最終的に片方が勝つという、ふたりの女性についての映画を作ることは、職場での平等や、現代でも日々目の当たりにしている問題に直結していると感じたという。権利、政治、愛……今も女性たちが多くのことと格闘しているのだ。
エリザベスI世 イングランド女王(在位 1558-1603)
野心的で、深く感情に根ざした人間ドラマを作り上げるために、プロデューサー陣が目を付けたのはロンドン屈指の劇場ドンマー・ウエアハウスの芸術監督として、革新的な舞台で才能ある俳優たちを演出してきたジョージー・ルーク。ケンブリッジ大学で英文学を学んだこともあり、映画に鋭い視点と独自の美的センスをもたらすことができると彼らは考えた。また、今の時代にこの物語を語るのは女性がふさわしい、そう考えたプロデューサーたちはジョージー・ルークに監督を依頼。そして、演劇界の気鋭ジョージー・ルークは本作で映画監督デビューした。

アジア系や黒人が登場する英国史劇の誕生

本作の舞台は16世紀のスコットランドとイングランド。大航海時代の最中、イギリスが植民地支配進出に遅れを取っていた時代。しかし、本作には、エリザベスⅠ世の侍女として中国・香港系の両親を持つジェンマ・チャン(『クレイジー・リッチ!』)や、イングランド大使役でジャマイカ人の両親を持つエイドリアン・レスター(『デイ・アフター・トゥモロー』)など、人種の垣根を超えてイギリスで活躍する実力派俳優らが起用されているのだ。
本作のキャスティングの鍵は、民族に関係なく正しい俳優をキャスティングすることが重要だと強く感じていたというジョージー・ルーク監督は、演技力を重視し、様々なバックグラウンドの俳優たちを集めた。

「俳優のオーディションをしているときに、非常に多くの俳優が時代ものの映画に出演する機会を持てずにいると聞き驚きました。イギリスで最も才能を持った素晴らしい俳優たちで、シェイクスピア劇など数え切れないほどの舞台出演を経験しているのに、映画ではないと。本作では純粋に素晴らしい才能を受け入れるキャスティングを心掛けました」と語っている。

撮影地とセット

プロデューサー陣とルークは、スコットランドとイングランドで撮影することに重要性を感じていた。その結果、グロスター大聖堂はエリザベスⅠ世が過ごすハンプトン・コート宮殿の修道院と回廊になり、大聖堂の地下室はメアリーの独房となった。

スコットランドでの撮影は、大人数のクルー、馬や馬車や武器、時代劇の衣裳など移動だけでも挑戦だった。しかし、スコットランドの土壌性はメアリーを語るうえで欠かせない。スコットランド全土を旅し、数多くの城を渡り歩いたメアリーの旅を再現することで、精神的にも地理的にもスコットランドに根付いたものになった。
対して、エリザベスⅠ世の世界は極力室内に留めた。彼女は常に秩序だった宮廷にいる。一方でメアリーの世界はより自然や土の質感のあるものにした。

美術を担当したジェームズ・メリフィールドは雄大なスコットランドの自然に見合うように大規模なホリールード宮殿のセットを製作した。グロスター大聖堂の中庭はエリザベスⅠ世のベッドルームに投影されるように組み立てられた。

衣裳とヘアメイクの裏側

『エリザベス:ゴールデン・エイジ』でアカデミー賞®を受賞したアレクサンドラ・バーンは、エリザベスの衣裳を熟知していた。歴史的な正確さを追求することもできるが、完璧には知りえない、創造的な解釈の余地がある時代だからこそ、『ふたりの女王 メアリーとエリザベス』では『エリザベス』二作とは違ったルックを探求した。エリザベスⅠ世は権力と外見に対して自覚的、一方でメアリーは実用的だったという考えのもとに、女王たちが身につける荘厳な衣裳を構築した。
男性たちの衣裳にも同じように、ストーリーテリングにおける現代性を与えた。俳優たちは、舞踏靴やひざ丈のズボンとタイツを着なくてはならないと考えていたが、バーンが作ったのはデニムだった。その衣裳により、彼らが堂々と歩くことを可能にした。

『エリザベス』でアカデミー賞®を受賞した、ジェニー・シャーコアはバーンと綿密に意思疎通をしながら協働した。バーンがメアリーを中心にもたらした現代的な解釈をもとに、シャーコアはスコットランド男性たちを、ワイルドな環境に合わせて少しだけ毛深くした。そして、イングランド宮廷の人々はより手入れをされた髪型をデザインした。
シャーコアは病によってエリザベスⅠ世の美しさが徐々に失われていく様子を丁寧に表現した。それによって、マーゴット・ロビーが演じるエリザベスⅠ世はケイト・ブランシェットとは違うエリザベスⅠ世になったのだった。

イギリス演劇界のトップ女性演出家ジョージー・ルークを筆頭に、最高のスタッフが集結し、16世紀を生きたふたりの女王の激しくも華麗な物語を構築した本作。現代的な解釈と演出を大胆に加わえたその手腕にも注目してみてほしい。

『ふたりの女王 メアリーとエリザベス』
TOHOシネマズ シャンテ、Bunkamura ル・シネマほか絶賛上映中。
www.2queens.jp
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