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深夜のパブ、他の客が帰り、締め作業をしている店の中で泥酔して暴れる若い女性が一人。店の親父たちからは迷惑そうにあしらわれ、むかっ腹を立てて絡んだ挙句、とうとう往来に放り出されてしまう。その直後、場面はカウンセリング施設の受付へと切り替わる。女性の茫然自失とした顔と目には真っ青な痣。
この映画は、時系列通りに進まない。場面が切り替わり、ロケーションも、時間も、一見ばらばらであるように感じられる。冒頭触れた痣も、映画を後半まで見て、その正体がようやくわかる作りになっている。

こうして、心身ともにボロボロになったロナはリハビリ施設へ入所し、90日間の禁酒プログラムを終えて故郷のスコットランド・オークニー諸島へと帰る。そこでは、羊の世話を手伝い、長年会っていなかった両親と対話し、地元の野鳥保護団体のメンバーとして離島へと赴任する。雄大な自然の中、孤独で静かな生活。そこでは、彼女の内面をえぐるような記憶が島に吹き付ける暴風雨のように襲い掛かってくる。


劇的な事件や大きなきっかけがあるわけではない。それでも父親がメンタルヘルスに問題を抱える様子や、アルコール依存症のリハビリプログラムに通う中で出会った人との対話、10年ぶりに戻って友人もいない故郷、再会した元恋人が出世を果たして別の恋人と新たな人生を歩む姿など、「依存できる存在などいない」という事実の積み重ねがロナに前を向かせていく。
映画で描かれるロナに限らず、人間は無意識のうちに何かへ依存していることが少なくないだろう。それは、人かもしれないし、物かもしれないし、もっと目に見えない自身の中で凝り固まってしまった考え方や思い込みかもしれない。そして、この映画ではそんな人間のある種の弱さを決して断罪しない。何かに寄りかかって生きていく上で抱えてしまう苦悩を繊細に丁寧に映し出し、そこから強かに立ち直る姿を淡々と描写していくことこそ、この映画の見どころでありメッセージだと感じた。
人間の強かさは、己の運命を受け入れた先にある。今、社会の荒波の中で前に進めない自分を責めている人、一度擦り減らしてしまって立ち直るきっかけを探している人にこそ見て欲しい作品だった。
『おくびょう鳥が歌うほうへ』
『おくびょう鳥が歌うほうへ』(原題:THE OUTRUN)
2024 年/イギリス・ドイツ/シネマスコープ/118分/映倫区分:G
監督:ノラ・フィングシャイト
脚本:ノラ・フィングシャイト、エイミー・リプトロット
脚色:エイミー・リプトロット、ノラ・フィングシャイト、デイジー・ルイス
原作:THE OUTRUN(エイミー・リプトロット著)
出演:シアーシャ・ローナン、パーパ・エッシードゥ、ナビル・エルーアハビ、イーズカ・ホイル、ローレン・ライル、サスキア・リーヴス、スティーヴン・ディレイン
撮影:ユヌス・ロイ・イメール
編集:シュテファン・ベヒンガー
音楽:ジョン・ギュルトラー、ヤン・ミゼレ
美術:アンディ・ドラモンド キャスティング:キャロライン・スチュワート、カリーン・クローフォード
衣装:グレース・スネル エグゼクティブ・プロデューサー:クラウディア・ユセフ、キーラン・ハニガン、マリア・ローガン、アン・シーハン、ルアン・ガウアー、ジョージ・ハミルトン、ジェームズ・ピュー、ヤニナ・フィルスマイアー プロデューサー:サラ・ブロックルハースト、ドミニク・ノリス、ジャック・ロウデン、シアーシャ・ローナン
共同プロデューサー:ジョナス・ウェイドマン、ジェイコブ・D・ウェイドマン、シリン・ハートマン
© 2024 The Outrun Film Ltd., WeydemannBros. Film GmbH, British Broadcasting Corporation and StudioCanal Film GmbH. All Rights Reserved.
提供:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
配給:東映ビデオ
公式サイト:https://www.outrun2026.com
公式X:@okubyoudori01
ivy
1997年、東京都出身。BRITISH MADEエディターとしてWEBコンテンツ制作やイベント企画を担当する傍ら、ライター / DJとしても活動する。トレードマークは長髪と伊達眼鏡。趣味は神輿、散歩、剣道。
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