ライター / DJとしての顔も持つBRITISH MADEエディター、ivyが英国の音楽をピックアップ。今回は半世紀近いキャリアを誇る大御所バンド、Pulpが実に24年ぶりにリリースしたアルバム『More』をレビューします。
そのキャリア、48周年。1997年生まれの筆者にとっては親の年齢でもおかしくないご長寿バンドがPulp(パルプ)です。長い長い下積みを経て90年代にようやくブレイクを果たした彼らは、2001年の『We Love Life』を最後に活動を休止。その後、2012~2013年に活動再開するものの、アルバムをリリースすることなく再び休止しています。2023年に再始動を果たしてから、なんと24年ぶりとなるオリジナルアルバムがこの『More』。まだ、もっと、まだまだ……!そんな声が聞こえてきそうなタイトル、声の主はメンバーたちかもしれませんし、何より彼らの音楽に心を打たれてきたファンかもしれません。
本作は、往年の彼らを象徴するダンサブルなレトロポップと、それだけに収まらない魅力が詰まっています。Pulpというバンドの生きざまを象徴するかのように甘くほろ苦い、エンターテイメント性溢れる仕上がりです。
まずはダイナミズム溢れるアンセム“Spike Island”で幕開け。色とりどりのライトに照らされて、踊り狂うフロアが想像できます。
そして、筆者の個人的なハイライトとしてピックアップしておきたいのは、“Tina”。じっとり艶やか、ケレン味たっぷりな歌い口と、チープなシンセが絡み合う劇場型ポップミュージック。重厚ながらも決して難解にならず、エンターテイメント性を担保しているあたりがバンドのスタンスを象徴しています。
そのほかにも、ポップなリフが跳ね回りながらどこか気味の悪さを残す“My Sex”や、チープな打ち込みとアンニュイなメロディーが弾けるディスコロック“Got to Have Love”など楽曲の質の高さはさすがの一言。
それぞれかなりキャッチーで癖が強く、インパクトのある曲が並びながら、アルバム全体としてお腹一杯にならず、むしろすんなり聴けてしまいます。それは、ある意味でミュージカルのような(誤解を恐れずに言えば)どこか芝居がかっている空気感があってこそ。
UKロック史に残る、1995年の名曲“Common People”。メンバーがかなり若く見えますが、この頃には既にそこそこのベテランです……!
というのも、活動初期から一貫して、彼らの楽曲からはグラムロックの要素が強く感じられます。煌びやかなステージングやどこか妖艶な世界観、みんなで楽しめるポップさ……など。ただし、古着のジャケットに身を包んだナードな佇まいは、デイヴィッド・ボウイやマーク・ボランのけばけばしさとは対極ともいえるでしょう。決して大仰ではなく、これ見よがしにならないのに、エンターテイメント性たっぷり。浮世離れしたロックスターではなくて、“その辺のお兄ちゃん(今となってはオジ様)”たちが全力でその瞬間を楽しんでいるような。そんな様子がどこか愛らしくて、皮肉めいていて、思わず見てしまう。そういうちょっと捻くれたユーモアこそ、彼らの魅力です。
半世紀近いキャリアを経て、下積みも、絶頂期も、低迷期も経験したからこそ達した境地がこのアルバム。内省的で薄気味悪い曲も、現実を忘れさせてくれるアッパーなディスコポップも、すべて自らの一面として飄々と受け入れつつ、やり切ってしまう。そのシュールで摩訶不思議なエネルギーは、齢を重ねた彼らだからこそ絵になります。
上述したインパクト大の癖ありポップナンバーの間に散りばめられた楽曲も、そんなミュージカルのワンシーンを彩るようで最後まで一瞬たりとも退屈させません。UKロックシーンに復活した生ける伝説、渾身の一枚。ぜひ作品全体を“通し”で聴いてほしい傑作です。


本作は、往年の彼らを象徴するダンサブルなレトロポップと、それだけに収まらない魅力が詰まっています。Pulpというバンドの生きざまを象徴するかのように甘くほろ苦い、エンターテイメント性溢れる仕上がりです。
まずはダイナミズム溢れるアンセム“Spike Island”で幕開け。色とりどりのライトに照らされて、踊り狂うフロアが想像できます。
そして、筆者の個人的なハイライトとしてピックアップしておきたいのは、“Tina”。じっとり艶やか、ケレン味たっぷりな歌い口と、チープなシンセが絡み合う劇場型ポップミュージック。重厚ながらも決して難解にならず、エンターテイメント性を担保しているあたりがバンドのスタンスを象徴しています。
そのほかにも、ポップなリフが跳ね回りながらどこか気味の悪さを残す“My Sex”や、チープな打ち込みとアンニュイなメロディーが弾けるディスコロック“Got to Have Love”など楽曲の質の高さはさすがの一言。
それぞれかなりキャッチーで癖が強く、インパクトのある曲が並びながら、アルバム全体としてお腹一杯にならず、むしろすんなり聴けてしまいます。それは、ある意味でミュージカルのような(誤解を恐れずに言えば)どこか芝居がかっている空気感があってこそ。
UKロック史に残る、1995年の名曲“Common People”。メンバーがかなり若く見えますが、この頃には既にそこそこのベテランです……!
というのも、活動初期から一貫して、彼らの楽曲からはグラムロックの要素が強く感じられます。煌びやかなステージングやどこか妖艶な世界観、みんなで楽しめるポップさ……など。ただし、古着のジャケットに身を包んだナードな佇まいは、デイヴィッド・ボウイやマーク・ボランのけばけばしさとは対極ともいえるでしょう。決して大仰ではなく、これ見よがしにならないのに、エンターテイメント性たっぷり。浮世離れしたロックスターではなくて、“その辺のお兄ちゃん(今となってはオジ様)”たちが全力でその瞬間を楽しんでいるような。そんな様子がどこか愛らしくて、皮肉めいていて、思わず見てしまう。そういうちょっと捻くれたユーモアこそ、彼らの魅力です。
半世紀近いキャリアを経て、下積みも、絶頂期も、低迷期も経験したからこそ達した境地がこのアルバム。内省的で薄気味悪い曲も、現実を忘れさせてくれるアッパーなディスコポップも、すべて自らの一面として飄々と受け入れつつ、やり切ってしまう。そのシュールで摩訶不思議なエネルギーは、齢を重ねた彼らだからこそ絵になります。
上述したインパクト大の癖ありポップナンバーの間に散りばめられた楽曲も、そんなミュージカルのワンシーンを彩るようで最後まで一瞬たりとも退屈させません。UKロックシーンに復活した生ける伝説、渾身の一枚。ぜひ作品全体を“通し”で聴いてほしい傑作です。

『More.』
Pulp
リリース日:2025年6月6日(金)
レーベル:Rough Trade
配信リンク:Spotify
情報提供:to’morrow music
to’morrow records
海外インディーミュージック専門のオンラインレコードストア。来日アーティストのブッキングやライブイベントの企画も手掛け、今回掲載したアルバムのアナログ盤も取り扱っています。
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ivy
1997年、東京都出身。BRITISH MADEエディターとしてWEBコンテンツ制作やイベント企画を担当する傍ら、ライター / DJとしても活動する。トレードマークは長髪と伊達眼鏡。趣味は神輿、散歩、剣道。
Instagram:@ivy.bayside