
今回[アジョト]の創業者兼ディレクターであるクリス氏が初来日。必要性が減少しつつあるこの時代だからこそ生まれたペン、「アジョト」にかける想いを聞くことができた。

私はまず、デザインとしてさまざまなものを手がけていきたいという想いでこのブランドをスタートしています。これまでも素晴らしい伝統的なペンのメーカーはありましたし、競争の激しいマーケットというのも理解していました。確かに文字を書く行為は特にこの20年ほどでPCやメールに取って代わりました。それでもまだペンの居場所はあります。だだ、その中でペンもいろいろな機能を持つようになり、多少複雑になっているように感じました。そういう時代だからこそむしろ、極めてシンプルなものを目指したのです。なぜならペンは単に「書く」だけのものではなく、自分を表現するツールでもあるからです。
−− クリスさんはこれまでの人生で「ペン」というものにどのように接してきましたか? またその中で信頼できる素敵なペンには出会ってきましたか?
私はデザインの仕事をしてきたので、ペンは常になくてはならないものでした。いろいろなものを使い、良いもの悪いものもありましたが、最終的には自分が使いやすい、“削ぎ落とされた”ペンを作りたいと思ったのです。「LESS IS MORE」という言葉もありますが、機能性もあって、さらに美しさを兼ね備えたものを作りたかったんです。

明確なブランドビジョンを持ってスタートしましたが、あくまで我々が作りたいものを作り、その背景やストーリーをウェブサイト上で表現し、それが口コミも含めて拡散した結果なので、とてもオーガニックな成長だと思っています。さまざまな考え方がありますが、マスな商品を大量生産するよりは、クラフトマンシップにこだわり、良いものを少量でも生産する方が自分の考え方にも合っていたんです。とはいえ、現在では7割が英国外への輸出になっていて、その早さには私自身驚いています。
−−[アジョト]が目指したこととはどんなことですか?
イギリスだと[バーバリー]や[バブアー]などのように、ツールとして始まり、使うためのブランドでありたいということですね。[ロレックス]などもそうですが、それがタイムレスな良いプロダクトの条件ではないでしょうか。私は良いものを使うことは自分への投資のようなものだと思います。

同じヨーロッパでも、フランスやイタリアは戦争があって、技術を継承することが難しかったという側面があると思います。日本と同じように島国でもあるイギリスは、継承されやすい環境があったと思いますね。でも、そういう「継承」というものは目に見えないものですよね。
−− それはどういうことですか?
有名な話ですが、昔ピカソに絵をお願いした女性がいて、ピカソは数十秒でその絵を描いたそうなんです。いざその金額を聞いたらびっくりするほどの値段だった。女性は「なぜ数十秒で描いた絵がそんなに高いのですか?」と聞いたそうです。するとピカソは「私はこれが描けるようになるまでに、30年かかっているから」と答えたと(笑)。それは特殊な例えですが、クラフトマンシップというのはそういう目に見えないものだからこそ面白いんです。[AJOTO]の由来が「A JORNEY TO」なのも、そういう「旅の途中」のような意味も込められています。大きなお金を投資して一気に成長するものもありますし、小さくゆっくり成長するものもあります。そういう意味では自分は後者で、学びながらやっていくことが好きであり、同時に楽しい時間なのです。

私ももちろん完成された状態にあると思っています。でも進化できるポイントもたくさんあって、それを考えることが最も楽しいことでもあるんです。重さ、長さ、色もそうですが、作る工場などの背景にも改善できる部分があるでしょう。見た目は同じでも、その裏側にあることを改善することは、可能性を試すチャレンジでもあります。

性別も年齢も含め、「どんな人」というのはないですが、[アジョト]というブランドの考え方を理解して使っていただける方ですね。私自身もそうですが、何か目標に向かっている、その中で迷いながらも「旅をするように」進んでいる人にこそ使って欲しいと思いますね。
−− 今後の目標はどのように考えていますか?
今はペン、ペンケース、ウォレットだけですが、それだけのブランドになるつもりはありません。クラフトマンシップを大切にしながら、他にもバランスも優れた“道具”を作りたいですね。たとえばジェットセッターのような人が旅先で必要とするようなものを、さまざま作っていきたいと考えています。
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Photographer Kengo Shimizu
Interview & Text by Yukihisa Takei(HIGHVISION)