RE ロンドン駅を探す ロンドン・ターミナル駅シリーズ その1 | BRITISH MADE

Little Tales of British Life RE ロンドン駅を探す ロンドン・ターミナル駅シリーズ その1 

2021.10.05

1980年代はじめ、生まれて初めてのイギリス旅行で、ケント州南東部のとある街に着いた晩のこと。妻(当時はGF:ガールフレンド)が言いました。「あなたと私、私の学生友達の結婚式に招待されているの。マンチェスターですけど、一緒に行くでしょ」当方が応えます。「イギリスの浪速に行くんかい」と、中学地理で習った知識をひけらかしてみましたが、イギリス人にはピンと来ないようです。紡績業で栄えた大阪は、かつて東洋のマンチェスターと言われたものですが、マンチェスターには道頓堀もタコ焼きもないだろうなあと、場違いな妄想をしていました。おそらく、時差ボケのせいで頭がもうろうとしていたのでしょう。そんなボケボケの当方にGFが地図を見せてくれます。 

当時、ロンドンの中心部からマンチェスターに行くにはナショナルレイルで約2時間半、そう遠くはありません。しかし、ケント州にあるGFの実家からは、ロンドンで列車を乗り換えると言うので、「どういうことだろう?」と、地図に目を向けてみました。 すると、ナショナルレイルのいくつかの駅は、ロンドンの中心を囲むように円周の外側から鉄道が放射状に広がっているように見えます。

National Rail Enquiries Transport for LondonやNational Rail Enquiriesでは、インターネットサービスが始まった90年代の終わりごろから、ジャーニー・プランが検索できるようになりました。大手のナビゲーションよりも専門性が高いので、ルートと料金の多彩な検索可能です。それにしても、「ロンドン」と入力しただけで、多くのロンドン駅が出てきますね。

今どきのコトバでしたら、ロンドン市がクラウド状の塊に見えると表現すべきでしょうか。シティの外縁部には列車のターミナル駅(終着駅、櫛形のプラットフォームをした行き止まり駅)がいくつかあるようですが、「ロンドン駅」がどこにあるのかが…よく判りません。「ロンドン駅はどこ?」とGFに聞くと、「ロンドン市内には、ロンドン駅がたくさんあるの。だから、南のロンドン駅から北のロンドン駅に移動する必要がある」とのこと。このとき、にわかには、彼女のコトバの意味が分かりませんでした。

シティから放射状に広がるロンドンの駅群

ソヴィエト製の機体イリューシンに詰め込まれて、モスクワ経由で約20時間以上に及んだ空の旅は、座席が窮屈で、ひどく揺れて、アテンダントのお尻が肩越しにぶつかる眠れぬ貴重な体験でした。先の会話は、ヒースロー空港に着いてから数時間後のことです。 フライトで疲れ切っていたので、GFの言葉にも反応できず、考える気力もなく、明日になって目が覚めれば、ロンドン駅はもう少しはっきりと見えてくるのだろうと思って、その日は早々に寝てしまいました。

さて、時差ボケで早起きした翌日、まだ誰もいない居間には、ロンドンの地図が広げられたままです。その地図をじっくり眺めてみましたが、やはりロンドン駅がどこにあるのか、…が皆目分かりません。London Victoria駅とかLondon Euston駅とかLondon Charing Cross駅とか、語頭にLondonの付く駅が、15~18駅ほど、いくつかのターミナル駅としてロンドン市の外縁部に放射状に散らばっています。

各ロンドン・ターミナル駅の場所 赤い矢印と白抜きの列車の赤いマークがロンドン外縁部に設置された各ロンドン・ターミナル駅の場所。全部で18駅です。数え方にもよりますので、15~18駅とも言えます。パディントン駅がヒースロー空港からの玄関駅になっているように見えますが、空港よりもパディントン駅の方が古いので、その設置理由は他にあります。次回の記事でその理由を述べる予定です。

当方が最初にイメージしていたのは、ロンドンという大きなひとつの駅が、ロンドンの中心部にあって、ロンドン塔のような、ロンドンを象徴する巨大建造物の中がターミナル(終着点)になっていて、長い路線を何本も吸い込んでいく光景でした。ヨーロッパでは一般的な中央駅とか、東京駅のように東北と西日本を繋ぐターミナル駅しかイメージできなかったのですが、地図をじっと眺めているうちに、ロンドンには、London Blackfriars 駅とか、London Bridge駅とか、ロンドンの付く駅がロンドン市内に放射状に点在しているという、自分なりの解釈に辿り着いたところで、1980年代前半、まだ20代前半だった若者は少し興奮しました。

郊外に駅が建てられた理由とは?

当時の当方の仮説は、ロンドンが紀元前から続く古い街であるから、19世紀以降に建てられたターミナル駅はその中心部には無いということ。そして、産業革命後に鉄道が敷設されることになってから、中心部から少し離れたところに、ローマ街道の起点のように放射状に駅を作ったんだな、というものです。地図を見ている当方のそばで、寝ぼけ眼のGFが言ったのは、「東京だって東北方面の上野駅や信州方面の新宿駅というターミナル駅があるでしょ」なるほど、まったくその通りです。江戸表の東京駅、上野駅、新宿駅は主要五街道の起点や要所ですから、ターミナル駅は東京だけではないし、かつて東京駅は、ターミナルとして判りやすくする意味で中央駅と呼ばれた時代もあったけど、すべての路線の中央駅にはなっているわけではないので、東京駅と改称されたという話と同時に、なぜ五街道の出発点である日本橋という駅名にしなかったのだろうという疑問を持ったことを思い出して、ようやく合点が行きました。

ロンドン ターミナル駅 ターミナル駅とは、行き止まりになっている駅のことです。画像はウィンブルドン駅。たまに、赤と白の斜線のボラードに、わざと車体をぶつけて、「にやり」としている運転士がいますね。「俺の運転はうまいだろ」ってドヤ顔してはりますわ。遊び心と言うか、幼いと言うか…

ロンドンに限らず、イギリスの古い街に行くと、大勢の場合、どこでも街の中心部から離れたところに駅がある理由は、街自体が古いからです。オクスフォードとか、ウィンチェスターとか、街の出来上がりが7~800年前ですと、馬車や荷車の時代ですから、ローマ街道を沿いに造られた集落は、市場を中心に教会、個人商店、鍛冶屋、靴屋、革製品、縫製屋などが軒を連ねて村や街へと拡大します。やがて時代が進んでパン屋、雑貨屋、銀行、そして郵便局などがストリート沿いに街が発展し、現代に至って長めのハイ・ストリートとして存続していきます。そして、必然的にナショナルレイルの駅や長距離バスのターミナルは、市場のあった街の中心から、かなり離れた郊外に位置することになります。それゆえ、最寄りのナショナル・レイルの駅が、ハイ・ストリートの末端から1キロ以上離れているなんてこともあります。

ロンドン・メリルボーン ロンドン・メリルボーン駅。この駅は1920~1950年ごろの映画によく出てきます。パディントン駅や他のロンドン駅として使われていました。最近では、映画007でロンドン・ターミナル駅のひとつとして使われていたような気がします。この辺りの雰囲気が豪華で素敵なのは、タウンハウスを維持し続けた地主や、古くからの住民のパワーが強いから。不動産屋で取材してみると、複雑なリース関係で多くの人が収入構造を確保し続けているとのこと。メリルボーン・ハイストリートは、お金持ちには住みやすい街であることもあって、セレブリティを頻繁に見掛けますし、実用的な生活用品の高級店が立ち並び、有名なフィッシュ&チップスの店(例:The Golden Hind)など戦前以前からビジネスを続ける老舗を見かけます。また、文献を見ると19世紀の初めまでこの駅の辺りでは、食用のヒツジ、牛、そして交通の動力としての馬が飼われていたようです。

鉄道開発が始まった200年ほど前には、すでに街が出来上がっていたわけですから、新参者のインフラである鉄道と駅がハイ・ストリートから離れてしまうことは無理からぬことです。その一方で、第一次大戦後に復員兵とその家族を収容するため、そして、ロンドンに通勤する労働力を確保するためなどの目的のために開発されたWelwyn Garden CityとかLetchworthとか、東京の田園調布のモデルとなった新しい街には、ロンドン直通の鉄道が街沿いを通っていますから、住まいから駅までのアクセスが便利で、駅には商業目的の駅ビルやショッピングモールが併設されていて、ハイ・ストリートはブロックごとに集約されていたり、短めのハイ・ストリートになったりという傾向が見られます。ご存じのように、田園都市構想は鉄道開発の延長線上にあったわけです。日本では阪急線とか東急線などの私鉄が田園都市開発の先駆けでしたね。

ロンドン駅からロンドン駅への乗り換え

こうして、ロンドン駅がたくさんあることと、その理由が判ってきたところで、ロンドン駅間への乗り換え(例えば、ロンドン・ヴィクトリア駅からロンドン・ユーストン駅)が、ちょっと面倒くさいことも想像できました。実際にロンドン駅間の移動は、現在でも難有りです。GFの実家から行くロンドンのターミナル駅と言えば、London Victoriaとか、London Charing Cross 駅とか、London Bridgeとかロンドンの南側の駅です。そこから、マンチェスター行きの列車が出るLondon Euston駅はロンドンの北側です。南から北まで、まだ2輪のキャスターさえ一般化していない時代の重いスーツケースを持ってどうやっていくのか。 地下鉄、バス、タクシーという選択があります。
ロンドン この場に来た時、「そうか、だからチューブ言うねんな」と、なぜか関西弁で独り言ちていました。「背の高いイギリス人はニョロニョロ~と言いながら、チューブの改札を出るんだよ」という、でまかせを思いついた記憶があります。この画像はエンバンクメント駅の乗り換え通路だったと思います。どこまでも続くこの通路に絶望感を覚えたのは当方だけでしょうか。湿ったイギリス臭とディヴィッド・ボウイの歌を思い出します。当時のスーツケースはキャスターが付いてなかったので、平地でも難業でした。

35年前のその日にどうやって行ったかは覚えていませんが、当時の若者は、おそらく節約のために、大荷物を持っていては乗降に不便で、他人様に迷惑をかけそうな地下鉄や、時間の掛かるバスを使ったと思います。それは現代でもあまり事情は変わりません。場合によっては、乗り換えるだけで1時間以上掛かると思います。これが、東京なら、大阪なら、乗り換えは駅のコンコースを歩くだけです。しかし、放射状に点在していて、何キロか距離のあるロンドン・ターミナル駅間の移動が、当方には面倒に感じてしまったわけです。その点、現代ならば、U〇erのような割引タクシーか、ミニキャブを使えますね。ロンドン駅間の移動方法にも歴史を感じさせられます。

さて、今回からしばらくの間、ロンドン・ターミナル駅について、シリーズ記事を掲載していきたいと考えています。もちろん、その間に適時的なトピックスがあれば、対応していくつもりです。駅名の話とか、ハリーポッターの駅がなぜキングス・クロスなのかとか、イギリスで最も尊敬される人物と鉄道と駅とか、いくつかの視点から述べていきたいと思います。次回もどうぞお楽しみに。

Text by M.Kinoshita


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マック 木下

マック木下

ロンドンを拠点にするライター。96年に在英企業の課長職を辞し、子育てのために「主夫」に転身し、イクメン生活に突入。英人妻の仕事を優先して世界各国に転住しながら明るいオタク系執筆生活。趣味は創作料理とスポーツ(プレイと観戦)。ややマニアックな歴史家でもあり「駐日英国大使館の歴史」と「ロンドン の歴史散歩」などが得意分野。主な寄稿先は「英国政府観光庁刊ブログBritain Park(筆名はブリ吉)」など英国の産品や文化の紹介誌。

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