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English Garden Diary ロンドンっ子に愛される「秘密のガーデン」

2019.03.21

それはまるで、フランシス・ホジソン・バーネット作の『秘密の花園』で、主人公のメアリーが、それまで10年間閉ざされていたガーデンに初めて入って行く時は、きっとこんな気分だったのではないか、と思うような場所でした。
2月末の晴れた日に訪ねた、ロンドン西部、テムズ河北岸にある「チェルシー・フィジック・ガーデン(Chelsea Physic Garden)」のことです。
チェルシー・フィジック・ガーデン チェルシー・フィジック・ガーデンのあるスワン・ウォークという美しい名前の通りにガーデンについての案内板がでている。
高級ブティックの並ぶスローンスクエアからほど近く、煉瓦造りの美しい住宅街が続く街並みの中にあるガーデンは、高い塀に覆われて、外からは、そこにたくさんの木々や植物が育っているとはちょっと想像できない場所。まさに大都会の中に佇む秘密のガーデンです。
チェルシー・フィジック・ガーデン 小さな案内が出ているだけの塀の奥に、秘密のガーデンが待っている。
チェルシー・フィジック・ガーデン 背の高い住宅に囲まれた、都会のオアシス。
「フィジック・ガーデン」という名前の通り、ここではハーブなどの薬用植物が栽培されていて、その数、約5000種類といいます。薬効植物の育成と栽培、研究のため、ロンドン薬剤師協会によって1673年に設立された、ロンドンではもっとも古い薬草園です。
ただし、その運営が当初あまりうまくいかなかったようです。そして、1712年には、医師であり、蒐集家、投資家としても知られたハンス・スローン(彼の膨大な蒐集品は大英博物館開館に大きく寄与しています)が、チェルシーのマナーハウスを買い上げ、庭をそのまま薬草園として、ロンドン薬剤師協会に年間5ポンドで恒久貸与することになったといいます(現在でも、チェルシー・フィジック・ガーデンは、ハンス・スローンの子孫に毎年5ポンドを支払っているそうです)。
そのような歴史を知ると、このガーデンの中心に、ハンス・スローンの等身大の像が置かれているのにも納得です。
ハンス・スローンは大変な資産家としても知られ、この地域には「スローン・ストリート」など、彼の名前を冠した場所がいくつもある。
ガーデンの入り口を入ると、正面少し離れた先にその像が見えます。まだまだ寒い2月ということもあり園内は「花と緑あふれる」という景色ではありませんが、ところどころに、日本ではマツユキソウ(待雪草)と呼ばれる白いスノードッロップや、クロッカス、ラッパ水仙が咲いていて、春の訪れを感じさせてくれます。
スノードロップ 2月はスノードロップの美しい季節。
受付で借りたオーディオガイドから聞こえてくる声は、イギリスのテレビ局チャンネルフォー(Channel4)のニュース番組でプレゼンターを務めるジャーナリスト、ジョン・スノウ氏。まずは彼の案内に従って、地図を頼りにガーデンを散策。園内は薬用植物、食用植物、ロックガーデンなど、テーマごとに区画がわけられ、ぬかりなく整備されています。また、温室では、世界各地からもたらされた植物が茂り、世界各地へ航海し、珍しい植物を集めてきたプラントハンターたちの情熱を彷彿とさせるようです。イギリスで人気のゼラニウムのコレクションもあります。
様々な種類のアイリスがディスプレイされた一角は、まるで美しい静物画が飾られたギャラリーのよう。
春とはいえ、まだ霜が降りる日もあるイギリス。植物には念入りなケアがほどこされている。
毒草のエリアでは
「へぇー、これも毒なんだねー。」と、若いカップルがドクロの絵が描かれた札を見ておしゃべりしています。
一眼レフの大きなカメラを首からさげた女性は、スノードロップに顔を近づけて何回もシャッターを押しています。
いくつかある温室は規模は大きくないものの、それぞれの植物がよく見えるように配置が工夫されている。
そんな人々に紛れながら、ガイドに従って園内を一周したあとに、ベンチに座って巨大な銀杏の木を見上げていました。すると、目の前に女性が座ったと思ったら、彼女は編み物をし始めました。その様子が、まるで自分の家の庭でくつろいでいるように自然で、思わず「ここにはよくいらっしゃるのですか?」と声をかけずにはいられませんでした。
「そう、会員になっているから、少し時間ができると、ここに散歩にくるのよ。家はここから歩いて5分くらいのところなの。」
言われて気づいたのですが、園内を歩いている人たちを見ていると、観光客らしき人もいますが、この人のように、気軽にふらっと立ち寄った、という感じの人も少なからず見受けられます。薬草園として、今も研究や教育に力を入れる植物園である一方で、近所に住む人々にとってのコミュニティ広場としての役割を果たしているのが、この場所なのかもしれません。
テムズ河からの入り口近くにある銀杏の巨木は、右が雄、左側が雌。
「カフェのケーキがおいしいから、ぜひ食べていくといいわよ。」そう教えられて、青々と繁る芝生の広がるエリアの奥にあるカフェに寄りました。  注文したキャロットケーキは、甘すぎないしっとりとしたスポンジに、お砂糖がしっかり混ざったフロスティングで、とてもイギリスらしいデザートでした。
軽食やケーキのメニューも充実しているカフェも人気だ。
ガーデンがあるのは、世界的に有名な園芸の祭典「チェルシーフラワーショウ」が開催される場所のすぐそば。もし今年、チェルシーフラワーショウに行く予定のある方は、ぜひこのチェルシー・フィジック・ガーデンにも立ち寄ることをおすすめします。
地域のコミュニティセンターとしての役割も果たしているような植物園。年間会費は52ポンドから。

チェルシー・フィジック・ガーデン|Chelsea Physic Garden

住所:66 Royal Hospital Road, Chelsea SW3 4HS London
電話:+44(0)20 7352 5646
開園日:3月31日から11月1日まで 午前11時~午後6時(月~金曜日・日曜日)
入園料:大人11ポンド、学生・15歳以下の子供7.5ポンド(5歳以下無料)
ウェブサイト
Text&Photograph by Mami McGuinness


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マクギネス真美

マクギネス真美

イギリス在住の編集&ライター。9年半の雑誌編集を経て「ちょっと長めのホリデー」のつもりで渡英。たくさんのあたたかな人たちとの出会いにより滞在が長期化し、現在に至る。 2004年よりイギリスを拠点に書籍・雑誌・新聞・インターネット等にて企画、編集、取材、執筆、コーディネイト、撮影を手がける。テーマはライフスタイル、ガーデニング、料理、人物インタビューや旅ガイドなど。メディアを問わず、イギリスの素敵なひと、場所、ものごとをひとりでも多くの方に伝えたいと考えている。『英国ニュースダイジェスト』ではイギリスの食に関するコラム「英国の口福を探して」を連載中。2012年以降、文化放送、NHKラジオ、TOKYO FM等のラジオ番組に出演も。
ホームページ:
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