ヨーロッパ満喫日記 フィレンツェ篇2 〜MANNINA で靴を作る〜 | BRITISH MADE

ブリティッシュ“ライク” ヨーロッパ満喫日記 フィレンツェ篇2 〜MANNINA で靴を作る〜

2018.11.22

前号で記述した、手袋が早くも手元に戻ってきた。修理には2週間ほどかかる旨を聞かされていたが、郵送期間も含めて10日程度でフィレンツェから自宅に送られてきたのである。イタリア人の仕事の早さに驚かされた。距離もあるため、ひょっとしたら戻ってこない可能性も覚悟しておこうなどと心のどこかでは案じていたが、これも見事に払拭された。破損していたライニングの箇所はすべて綺麗に修復されており、新品同様になっている。久々に故郷への凱旋を果たし、束の間の帰郷を楽しんだはずの手袋には、再び日本で働いてもらうことにする。
フィレンツェを訪れた際、名門“MANNINA”で靴を作る機会を得たので、今回はそのことについて記載する。“MANNINA”の創設者は、かの有名な靴職人Calogero Mannina だ。7歳から靴職人としての修行を始め、靴の販売などの仕事も経て、1958年にフィレンツェに自身の工房を構える。丁寧な仕事ぶりと、靴下のように柔らかく、ストレスなく履けてエレガントな靴という強い信念のもとに製作される靴は、国内外から高く評価される。数々の賞も受賞し、稀代のマエストロとして確固たる地位を築くが、2014 年に急逝。現在は、その意志を継いだ愛弟子によって“MANNINA”は継承されている。
オーダーメイドの工房は、既製靴の販売店のすぐ裏にひっそりと佇んでいる。室内は靴のサンプルや道具で覆われており、歴史を感じさせる工房だ。窓口となってくれたのは、職人の大谷英里子さん。日本語での対応が可能なため心強い。オーダーメイドという名の通り、ゼロから靴を製作していくため、まずはどういった靴が作りたいのかというヒアリングから始まる。僕は黒のローファーを所望した。思い描いていたのは、コインローファーで、グッドイヤーウェルトだ。しかしながら、“MANNINA”で靴を作るのは初めてだ。詳細については、職人との対話を経て決めていきたい旨を伝え作業を進行することになった。

まずは足の採寸だ。左右それぞれ入念に測定され、自分の足の特徴やクセを共有していくのである。例えば、僕の足は、長さに対して甲がやや高く踵が小さい。さらに、この10 年間足に対してやや小さい革靴を履き続けているため、指先が曲がり始めてしまっていることも判明した。このままではハンマートゥになりかねない可能性もある。冷や汗をかいたが、足を測定しただけでそんなことまでわかってしまうとはまるで医者のようである。
測定が終了すると再び靴のデザインの話に戻る。もう一人の職人Giovanni Lorenzoも加わり、測定結果がフィードバックされる。ここで一つの提案を受けた。それは、コインローファーよりも履き口の浅い、タッセルローファーにするという案だ。元々イメージしていたコインローファーは、構造上どうしても甲の箇所に皮が当たってしまうのが難点だ。オーダーメイドであるため、ジャストサイズに違いないが、足のストレスを軽減するための方法である。ここで美味しい珈琲が振る舞われたので小休止。熟慮しながら様々な議論を交わした。さらに、話は普段どのような靴を履いているのかにも及ぶ。その結果、ウェルトは、グッドイヤーではなく、より返りの優れたマッケイで製作してみてはという提案も受けた。確かにある程度の数の靴を所有しているため、決まった靴でローテションさせる可能性は低い。何よりも足のためという道理にかなっている。こうしてついにデザインが決定したのである。
続いては、皮革の選択だ。“MANNINA”では、先代からこだわりを持っているのは色だという話も教わった。Calogero Manninaは、美しいフィレンツェの街並みに同化し、溶け込むような自然な茶色にこだわりを持っていたのだという。茶色にパティーヌを繰り返すことで、限りなく黒に近づけることができる。実際、工房に置いてあった靴のサンプルを凝視すると深みのある茶色であることがわかる。この話を聞いた後、迷うことなく深みのある茶色をオーダーした。
かくして、これらの3つの提案は、実に合理的だった。最初イメージしていた靴とはまったく異なるオリジナルの靴ができあがるのである。およそ1年間待たなければならないが、完成したあかつきには、改めてこの場で紹介したい。

オーダーメイドというと、厳格なハウススタイルがあり、ある程度はそれに従うべきだというイメージがあった。しかし、“MANNINA”では、そのような頭ごなしな意見は皆無だ。決して奢っておらず、とにかく意見に耳を傾けてくれる。かといって何でもいいから言われた物を作る訳ではない。とにかく対話を重ね、理念のもとに意見を提案してくれるのだ。僕の持っていたイメージも、オブラートに包みながら崩してくれた。この意外性が心地良い。こういった謙虚な姿勢が、多くのセレブリティや要人に長年愛されているに違いない。星の数ほど工房があると言われるフィレンツェで、長らく繁栄している要因ではないだろうか。

靴に限らず、数多くのトランクショーが日本でも体験できるようになった。しかしながら、現地に直接足を踏み入れ、その工房が醸す雰囲気を肌で感じ取りながら誂えるのとは少し異なっているような気がしてならない。自分の意思を伝え、相手の意見も取り入れながら誂える作業に、妙な快感を見出してしまったのである。そういえば、そんな”MANNINA”で唯一断られたことがある。それは、珈琲ブレイクの際、「珈琲でいい?」とGiovanniに尋ねられたので、「カプチーノはある?」とリクエストしたらば、「カプチーノはない」と笑顔で言われたことだ。
(写真右)左:Giovanni Lorenzo 氏、右:大谷英里子氏“MANNINA”はこの2人の職人によって支えられている。
Photo&Text by Shogo Hesaka

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部坂 尚吾

部坂 尚吾

1985年山口県宇部市生まれ、広島県東広島市育ち。松竹京都撮影所、テレビ朝日にて番組制作に携わった後、2011年よりスタイリストとして活動を始める。2015年江東衣裳を設立。映画、CM、雑誌、俳優のスタイリングを主に担い、各種媒体の企画、製作、ディレクション、執筆等も行っている。山下達郎と読売ジャイアンツの熱狂的なファン。毎月第三土曜日KRYラジオ「どよーDA!」に出演中。
江東衣裳
http://www.koto-clothing.com

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