映画「イーディ、83 歳 はじめての山登り」に映し出されるスコットランドの魅力 | BRITISH MADE

ブリティッシュ“ライク” 映画「イーディ、83 歳 はじめての山登り」に映し出されるスコットランドの魅力

2020.01.23

イーディ、83 歳 はじめての山登り
83歳の主人公イーディは、30年間夫ジョージの介護に明け暮れていた。ある日、彼女は屋根裏部屋で思い出の品々の中から一枚の葉書を見つけた。そこには、「この変な山を一緒に登ろう」という亡き父のメッセージと、スコットランドのスイルベン山が写されていた。イーディは、長年連れ添った夫の死を看取ったあと、娘のナンシーに老人ホームへ入所するように促される。いつしか生き甲斐や人生の意義すら見出せなくなってしまっていたイーディ。馴染みのフィッシュアンドチップス店で「何も遅すぎることなんてことはないさ」という言葉を耳にした彼女は、叶わなかったスイルベン山に登頂することを決意した。イーディは、亡き父の古い登山道具をまとめて、インヴァネス行きの寝台列車”カレドニアン・スリーパー”に飛び乗った。
イーディを演じたシーラ・ハンコックと、ジョニーを演じたケヴィン・ガスリーの豊かな表現力がこの作品の軸となっていることは疑う余地もない。本作の監督サイモン・ハンターは、この二人の会話に重点を置きながら、効果的にインサートを用いている。鮮やかに彩られたスコットランドの景色が、ストーリーの緩衝材のような存在となっている点が特に印象的だった。その結果、作品に心地良いテンポが生まれ、テンションが重たくなり過ぎない構成になっている。小気味よいリズムに魅せられて、あっという間に作品の世界に引き込まれてしまうのである。これこそがCMでキャリアを培ったサイモン・ハンターの優れた演出である。中でも、偏屈なイーディが、ジョニーという無垢な青年と触れ合うことで少女のように輝いていく姿が本当に美しい。それは彼女の衣裳にも如実に表れている。自分の殻に閉じこもっていたときのイーディの服はトーンが暗く保守的な様だが、スイルベン山という人生の目標を見つけた後は打って変わってカラフルでモダンに変化していくのである。

正直なところ、これまでアウトドアには何の思い入れもなかった。しかし、本作に登場するそれらのシーンに触発され、鑑賞後にはすっかり興味を抱いてしまったのである。例えば、大自然に囲まれた地にテントを張り、ボートを漕ぎ、魚を釣り、火を起こしてコーヒーを飲む姿など、魅力的なシーンをあげれば枚挙に暇がない。それから、ジョニーが乗り回す年季の入ったディフェンダーがたまらなく格好良かった。やはり、こういったシチュエーションで乗るランドローバーは一層魅力的だ。
イーディ、83 歳 はじめての山登り イーディ、83 歳 はじめての山登り イーディ、83 歳 はじめての山登り
そういえば、僕自身もスコットランドの“山”に縁があることを思い出した。エディンバラを旅行中に、カールトンヒルから世界遺産の街に沈む夕日を眺めていた。その時、目の前にそびえる不思議な形の山が気になった。調べてみた結果、それは“山”ではなく、「アーサーズシート」と呼ばれる“丘”だったことが判明した。丘という割にはずいぶんと大きく見えたので、結局足を踏み入れることはなかったが、イーディを真似ていつか登丘したいものだ。

最後に、本作のフライヤーやパンフレットにコメントを寄稿している。もし機会があればこちらにも目を通していただけたら幸いだ。

イーディ、83 歳 はじめての山登り
『イーディ、83 歳 はじめての山登り』
出演:シーラ・ハンコック(『縞模様のパジャマの少年』『愛をつづる詩(うた)』、ケヴィン・ガスリー(『ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生』『ウイスキーと 2 人の花嫁』)、ポール ・ブラニガン(『天使 の分け前』)、エイミー・マンソン(『 T2 トレインスポッティング』)、ウェンディ・モーガン(『クリスタル殺人事件』)
監督・脚本:サイモン・ハンター
2017 年/イギリス/英語/ 102 分/シネスコサイズ
原題: Edie
後援:(公社)日本山岳・スポーツクライミング協会、ブリティッシュ・カウンシル
配給:アット エンタテインメント
www.at-e.co.jp/film/edie
2020年1月24日(金)よりシネスイッチ銀座ほか全国順次ロードショー
©2017 Cape Wrath Films Ltd.

Text by Shogo Hesaka


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部坂 尚吾

部坂 尚吾

1985年山口県宇部市生まれ、広島県東広島市育ち。松竹京都撮影所、テレビ朝日にて番組制作に携わった後、2011年よりスタイリストとして活動を始める。2015年江東衣裳を設立。映画、CM、雑誌、俳優のスタイリングを主に担い、各種媒体の企画、製作、ディレクション、執筆等も行っている。山下達郎と読売ジャイアンツの熱狂的なファン。毎月第三土曜日KRYラジオ「どよーDA!」に出演中。
江東衣裳
http://www.koto-clothing.com

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