“ビートルズ愛”のコンピ盤、再び | BRITISH MADE

BM RECORDS TOKYOへようこそ “ビートルズ愛”のコンピ盤、再び

2021.09.14

コンピレーションアルバム「パワー・トゥー・ザ・ポップ 2」リリース

9月8日、2枚組のコンピレーションアルバム「パワー・トゥー・ザ・ポップ 2」がリリースされました。
このアルバムは2019年11月にリリースされた「パワー・トゥー・ザ・ポップ」の第2弾。前回のリリースの際にもこちらで紹介しました。

コンセプトはズバリ“BeatleDNA”。つまり“ビートルズの遺伝子”を感じさせる楽曲だけで編まれた、日本独自企画のコンピレーション盤。ビートルズが活動を閉じてからこの半世紀の間に世に生み落とされ、(意識的/無意識的かはさて置いて)ビートルズの音楽マジックの洗礼を受けた“ビートルズ的”な楽曲が、レーベルの枠を超え、FAB 4でレット・イット・ビーなウサギたちのジャケットも愛くるしい2枚組CDにコンパイルされています。

企画・制作はソニー・ミュージックの白木哲也ディレクター、音楽雑誌「ストレンジ・デイズ」(1997年~2016年)の編集人でも知られる音楽評論家・岩本晃市郎さん(監修)のお二方。そこで今回は代表して白木さんにご登場を願い、本作の魅力はもちろん白木さんの考えるUKロックの魅力についてお話をうかがいました。

  • 白木哲也(しろき・てつや):1964年生まれ。1988年にCBSソニー(当時)入社。1993年より洋楽セクションでボブ・ディラン、ブルース・スプリングスティーン、ビリー・ジョエル、ピンク・フロイド、エアロスミス、マライア・キャリーなどを担当。その後、カタログ・セクションで紙ジャケや再発などを手掛ける。現在ソニー・ミュージックレーベルズ ソニー・ミュージックジャパンインターナショナル マーケティング2部 ゼネラルマネージャー。

ポップな魅力とサイケな魅力

——前作(以下「1」)の好評を受けての「2」ですが、どのような趣旨で企画されたのでしょうか?

白木 まず前作で収録したかった曲、許諾が間に合わなかった曲が幾つかあったのでそのリベンジをしつつ、DISC 1はメロデイ重視の“ポップ”サイドと定義して。一方、DISC 2はやはりビートルズの魅力を語る上で欠かせないマジカルなサウンドの魅力を集めた“サイケデリック”サイドにしました。

——2枚分40曲がレーベルの垣根を超えて収録されていますが、これはどう考えても許諾取りが大変だっただろうなあと。しかもXTC、ポール・ウェラーがいたザ・ジャム、オアシスやレニー・クラヴィッツなど、いかにも企画物に対してうるさそうなイメージのアーティストまでよく実現しましたね?

白木 かつてのコンピ盤って自社で権利を持っている音源だけで作るしかなかったのですが、それではやはりコンセプトに沿って網羅できないので、近年では他社からお借りしたり、日本のレコード会社に権利がない音源は直接契約したりと、そこはあの手この手で(笑)。もちろん前作が実現した事実も説得の上で役立ちましたが、いろいろとラッキーが重なったというかうまくチャンスを引き寄せた部分もあって。反対に、今回も許諾が間に合わずに収録を見送った曲や、惜しくも権利主や連絡先が分からず実現しなかった曲もありました。

——各アーティスト側や権利元との交渉はどのように?

白木 まずはほとんど僕が自分の拙い英語力で(苦笑)。レーベルに問い合わせることもあれば人づてに辿ってアドレスをゲットしたり。アーティストの公式webやSNSに「あの〜、僕、日本のこういう者なんですけど…」とメールを送ったケースもあれば、結果的にアーティスト当人と直接交渉したケースも。XTCのアンディ・パートリッジもそうでしたね。
XTC – Mayor Of Simpleton
——それはすごい!

白木 自分のXTC愛を滔々とメールにしたためて(笑)。僕は本当に英語が拙いんですが、やっぱり本当に「好き」だと何とか伝わるものなんですよね。あとはSNSといい、Google翻訳といい、ネットの向上に助けられた。15年前や20年前だったら多分実現しなかった企画でしょうね。そうして晴れて収録に漕ぎ着けると、最後はもちろん自社の契約を専門とする担当窓口の皆さんに骨を追ってもらいました。「ごめん!たぶんこの「2」で最後だから!!」って頭を下げて(笑)。

——前作と今作の間に白木さんご自身が新たに発見された曲はありましたか?

白木 ありました。そこも現代的で、なかにはストリーミングサービスで表示される“おすすめ”からたどり着いた曲も幾つかありました。今回、自分としてはザ・グレイズの曲を見つけられたことが嬉しかったですね。

ビートルズの息子たち


——この「1」、「2」は白木さんと岩本さんの間で“構想ウン十年”を経て実現したと伺っていますが。

白木 そもそも僕は学生時代、岩本さんが雑誌で執筆されていた原稿の読者だったんです。ストレンジ・デイズで不定期連載していた「ビートルズの遺伝子」というコーナーも毎回読んでしました。その後、この業界に入ってからご本人と出会いまして、ちょくちょく企画について話はしていたんですが、お互いどうしても日々の仕事で時間を取られて、「1」でようやく実現しました。岩本さんの連載前の構想から数えたら30年以上と言ってもいいんじゃないでしょうか。

——まさにファン冥利に尽きますね。そして今回の「2」の目玉として、何と本物の“ビートルズの遺伝子”の楽曲も収録されています。

白木 はい。ポールの息子のジェイムズ・マッカートニーとジョンの息子のジュリアン・レノン、ショーン・レノン(ザ・クレイプール。レノン・デリリウム)を収録することが出来ました。ジョージとリンゴの息子の曲も考えたんですが、今回の流れに上手くハマる曲がなかった。ジェイムズもザ・クレイプール〜も日本ではまだそれほど知られていませんが、良い曲を書いているんですよね。ご存知なかった向きにぜひ聴いていただけたらと。
Julian Lennon – Saltwater
——さらに興味深かったのは、2000年代に入ってからの曲も多々ある点でした。“ビートルズの遺伝子”が音楽シーンに脈々と受け継がれているというか。例えばこの企画って熱烈なファンの自分が言うのも何ですが、ぶっちゃけストーンズだとちょっと成立し辛いというか、こうカラフルにはならないと思うんですよ(苦笑)。

白木 そうですね(笑)。

——ビートルズのメロディとサウンドが如何に絶大な影響力を持っているのかを改めて思い知らされるコンピ盤でもあると感じました。あとDISC 2の出だしのデュークス・オブ・ストラトスフィア(※XTCの変名バンド)〜オアシス〜レニー・クラヴィッツという流れも素晴らしい。個人的に前から聴いてよく知っていたはずのオアシスとレニーの曲が新たな印象で感じられました。

Oasis – Go Let It Out
白木 ありがとうございます。その流れはデュークス〜の収録が決まったおかげで上手く組めました。どのアーティストもカバーでもコピーでもなく、それぞれのビートルズ体験を独自に昇華させた曲なので、どの時代のどんな魅力に着目しているかも含めたバラエティ感を楽しんでもらえたら嬉しいです。

UKロックの魅力

——ところで白木さんのUKロック体験の原点というと?

白木 まさにビートルズです。中学2年生の時、赤盤ではなく何故か76年にリリースされた青盤(※ベスト盤「ザ・ビートルズ1967年〜1970年」の通称。「ザ・ビートルズ1962年~1966年」が赤盤と呼ばれている)を先に聴いたことがきっかけでした。僕は伊豆大島出身のいわゆる野球少年だったんですが、地元のレコード店といっても当時は演歌しか置いていない。夏休みになると、東京の祖母の家に遊びに来ていたんですが、その時にたまたま買ったのが青盤だった。それを半年間ぐらい何度も聴いて、ようやく次に上京した時に赤盤を買いました(笑)。あとはピンク・フロイドですね。

——白木さんはピンク・フロイドについても直近で手掛けられていて。1971年に開催された初来日公演「箱根アフロディーテ」の新発見映像を収録した日本独自企画「原子心母 (箱根アフロディーテ50周年記念盤)」のヒットが話題となりましたね。

原子心母
白木 ありがとうございます。お陰様で好評でした。もちろん当時と今では時代も市場も全く違いますが、70年のリリース当時15位を記録したチャート順位が今回は13位に着けたことがちょっと嬉しかった(笑)。メンバーもマネジメントも完成品を見て喜んでくれました。
ピンク・フロイド『原子心母(箱根アフロディーテ50周年記念盤)』発売記念スペシャル映像
——この「原子心母」もアルバム本編のCDと50年前の新発見映像のBlu-rayを精巧な7インチ紙ジャケットに収めた2枚組でした。さらに「未発表写真満載のフォト・ブック、箱根アフロディーテのパンフレット、チラシ、ポスターにチケットまでもが復刻特典として同梱されていましたが、それこそ白木さんはこれまでブルース・スプリングスティーンやサンタナ、ボブ・ディラン、スライ&ザ・ファミリーストーンや最近ではELO(エレクトリック・ライト・オーケストラ)など、数々の洋楽の名盤を精巧な紙ジャケCDで再現/リリースされてきましたが。
ピンクフロイド
白木 企画の発案当初はどのアーティストもマネジメントも「何でわざわざ?」と首を傾げていました(苦笑)。でもいざ完成すると皆さん日本の印刷の再現力を絶賛してくれましたね。

——ファッションの世界でも日本から海外ブランドの本国に“別注”をかけたりします。当事者では気付かない魅力を日本人のアイデアで引き出すという点では似ているのかもしれませんね。

白木 なるほど。確かにそうかもしれない。

——白木さん自身の初期のUKロックのライブ体験というと?

白木 何だろう……いろいろ観ましたが、東京に出てきてからですからクイーン、ポリス、クラッシュ、キンクス、プリテンダーズ、デヴィッド・ボウイ、ピンク・フロイドとか。

——羨ましい。白木さんにとってUKロックの魅力とは?

白木 アメリカのロックにはアメリカのロックの良さがあるんですが、英国独特の薫りといいますか、伝統芸的な部分とひねくれた部分、ちょっと湿り気のある感じが大好きなんですよね。レンガの家と田園風景が浮かんでくる感じというか。ピンク・フロイドやキング・クリムゾンに代表されるプログレ然り、レッド・ツェッペリンやストーンズのような英国人ならではのリフを中心としたブルース・ロックの解釈にも惹かれました。

今後の“BeatleDNA”シリーズ

——今回の「パワー・トゥー・ザ・ポップ2」はBeatleDNAシリーズの一環でしたが、シリーズの今後は?
白木 「パワー・トゥー・ザ・ポップ2」と同日にL.E.O.「アルパカス・オーグリング+10」をリリースしました。ELOのオマージュ企画で、パワーポップ界の奇才ブルウや元ジェリー・フィッシュのアンディ・スターマーも参加したプロジェクトです。その他にも、今後まだまだいろいろな企画を予定しています。
L.E.O. – Goodbye Innocence
——さて「パワー・トゥー・ザ・ポップ」第3弾の可能性については?

白木 どうでしょうねえ。流石にこのボリュームと会社の各所に骨を折ってもらっての労力をかけられるのは今回で最後かもしれません(苦笑)。ともかくストリーミングももちろん大事ですが、CDを直に手に取って楽しんで下さるリスナーの方々や新たな魅力や発見を感じてくれるリスナーの方々がいて下さる限りは今後も様々な企画を作っていきたいですね。それが僕自身の音楽への恩返しにも繋がるので。

——近年、イギリスではアナログ人気の再燃、日本ではカセットテープが再注目され、世界各国で70年代の日本のシティ・ポップが再注目されるといった面白い流れがありました。すでに多くのコレクターもいると思いますが、白木さんが手掛ける企画やパッケージも、後年その真価がより語られるような気がしています。期待していますので今後も楽しいパッケージを届けてください。今日はありがとうございました!

白木 こちらこそありがとうございました!


いかがでしたか。「なるほど、たしかに“BeatleDNA”だ!」と何度も膝を打つ本作ですが、インタビュー中にもある通り、過去に聴いたことがあった曲まで違った表情で聴こえてくるのも楽しい一作です。

ちなみにこの「パワー・トゥー・ザ・ポップ2」は様々な大人の事情で(笑)ストリーミングはありません。CDのみです。

歌詞・対訳はもちろん、岩本さんによる詳細な(というか資料的価値が半端じゃない)全曲解説を掲載した全80ページ4万字(!!)に及ぶブックレットも付属ですので、是非お買い求めください。また様々なアーティストの最新状況やパッケージの舞台裏も白木さんのブログ(下記リンク)にもご注目ください。それではまた!

「パワー・トゥ・ザ・ポップ2」
SICP-31472〜3。高品質BSCD2 2枚組。
3,300円(税込)。発売中

DISC1 (収録時間:78:24)
01. XTC/メイヤー・オブ・シンプルトン
02. ニック・ロウ/恋するふたり
03. ザ・ワンダーズ/すべてをあなたに
04. エレクトリック・ライト・オーケストラ/モーメント・イン・パラダイス
05. マーシャル・クレンショウ/サムデイ・サムウェイ
06. デラミトリ/ノット・ホエア・イッツ・アット
07. ライナス・オブ・ハリウッド/ドント・ファック・イット・アップ
08. ザ・ジャム/スタート!
09. エミット・ローズ/恥ずかしがって
10. ジェイムズ・マッカートニー/シンキング・アバウト・ロックン・ロール
11. カーラズ・フラワーズ/ソープ・ディスコ
12. ヴィニール・キングス/ドリームズ
13. ザ・コーギス/イフ・アイ・ハド・ユー
14. セス・スワースキー/ファー・アウェイ
15. ブリンズリー・シュウォーツ/ジ・アグリー・シングス
16. ザ・ライトニング・シーズ/パーフェクト
17. ダリル・ホール/ドリームタイム
18. ジェイソン・フォークナー/ザ・ライ・イン・ミー
19. ファウンテインズ・オブ・ウェイン/I-95
20. ザ・フージアーズ/グッバイ・ミスターA
21. ジェット/ルック・ホワット・ユーヴ・ダン
22. ティム・クリステンセン・アンド・ザ・ダム・クリスタルズ/ディス・ウィル・ビー・アワー・イヤー
23. ハリー・ニルソン/ウィズアウト・ユー

DISC2 (収録時間:79:05)
01. デュークス・オブ・ストラトスフィア/ザ・モール・フロム・ザ・ミニストリー
02. オアシス/ゴー・レット・イット・アウト
03. レニー・クラヴィッツ/アイ・ビルド・ディス・ガーデン・フォー・アス
04. ユートピア/エヴリバディ・フィールズ・フォーエヴァー
05. パニック!アット・ザ・ディスコ/シー・ハッド・ザ・ワールド
06. ザ・メジャー・レーベルズ/ヴェルヴェッティーン・クイーン
07. ザ・グレイズ/エヴリバディーズ・ワールド
08. ジュリアン・レノン/ソルトウォーター
09. L.E.O./ディストラクテッド
10. ザ・レッド・バトゥン/フリー
11. ジ・アップルズ・イン・ステレオ/ストロベリーファイアー
12. ザ・クレイプール・レノン・デリリウム/ブラッド・アンド・ロケッツ
13. ザ・リカリッシュ・カルテット/ライトハウス・スペースシップ
14. キューピッズ・カーニヴァル/エヴリシング・イズ・ラヴ
15. ザ・ラトルズ/ピギー・イン・ザ・ミドル
16. ファントム・プラネット/ウィッシング・ウェル
17. ケミカル・ブラザーズ/セッティング・サン

特設サイト:http://www.110107.com/BEATLEDNA
Twitter:https://twitter.com/BeatleDNA_JP
Facebook:https://www.facebook.com/BeatleDNA/
白木さんのブログ:「HIGH-HOPES」

Text by Uchida Masaki


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内田 正樹

内田 正樹

エディター、ライター、ディレクター。雑誌SWITCH編集長を経てフリーランスに。音楽をはじめファッション、映画、演劇ほか様々な分野におけるインタビュー、オフィシャルライティングや、パンフレットや宣伝制作の編集/テキスト/コピーライティングなどに携わる。不定期でテレビ/ラジオ出演や、イベント/web番組のMCも務めている。近年の主な執筆媒体は音楽ナタリー、Yahoo!ニュース特集、共同通信社(文化欄)、SWITCH、サンデー毎日、encoreほか。編著書に『東京事変 チャンネルガイド』、『椎名林檎 音楽家のカルテ』がある。

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