ビートルズ。ストーンズ。それぞれの50周年記念盤 | BRITISH MADE

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2018.10.11

2枚の名盤が物語る“1968年”とは?

50周年記念盤。つまり、今から50年前、1968年に発表された2枚のアルバムの記念バージョンがリリースされます。

まずはビートルズ。そのジャケットデザインから、俗に『ホワイトアルバム』と呼ばれている、彼らにとって唯一の2枚組アルバム、『ザ・ビートルズ』の50周年記念ニュー・エディションが11月9日に世界同時リリースされます。
こちら、フィジカルでは、6CD+1ブルーレイのスーパー・デラックス・エディション、3CDデラックス・エディション、4LPデラックス・エディション、2LPエディションの4形態があります。当時のメンバー映像で構成されたトレーラーも公開されています。
さらに、併せてデジタル配信/ストリーミングで先行公開されていた「バック・イン・ザ・U.S.S.R.」の3つのバーションも映像が公開されています。1つ目は、当時、彼らのプロデューサーだったジョージ・マーティンの息子で、昨今のザ・ビートルズ作品のサウンド・プロデューサーを務めるジャイルズ・マーティンによる最新ステレオ・ミックス(2018年ステレオ・ミックス)。
2つ目はアルバム制作を前にジョージ・ハリスンの自宅に4人が集まって録音された、通称“イーシャー・デモ”。
そして3つ目は当時のスタジオ・セッションのアウトテイクの(テイク 5 – インストゥルメンタル・バッキング・トラック)です。
2枚組・全30曲というボリュームの本作では、8トラックレコーダーの導入によって、4人が顔を付き合わせて録音する必要がなくなったことから、メンバー個々の個性が垣間見えます。また、ライトなファンにも有名な「バック・イン・ザ・U.S.S.R.」や「ヘルター・スケルター」といった曲も収録されています。さらにジョージ・ハリソンによる「ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウィープス」ではエリック・クラプトンが参加しています。

また、このレコーディング期間中、リンゴ・スターが一時グループを脱退していたことから、ビートルズ崩壊の始まりと言われる作品とも評されていましたが、ウィキペデイアでも書かれている通り、後年、ポール・マッカートニーはビデオ・アンソロジーの中で「このアルバムは脈絡がないだとか、ソロばっかりだとか言われるけど、後から言うのは簡単さ。ビートルズの『ホワイト・アルバム』だぞ? 黙れってんだ」と語っています(笑)。まあ、辛口のファン意見もわかりますが、やはりとんでもない質と量を誇るアルバムだと思います。

さて、本作に収録の「ヤー・ブルース」は、のちにローリング・ストーンズの『ロックンロール・サーカス』でも演奏されました。
そもそもテレビ向けの音楽特番として収録されていたこのロックショー、ストーンズ、オノ・ヨーコ、ザ・フーなど豪華な顔ぶれの出演が実現したのですが、主催のストーンズの演奏がイマイチだったというミック・ジャガーの判断で、およそ30年間お蔵入り(苦笑)。後年、販売ビデオやCD、DVDでようやく日の目を見ました。ここではボーカル&ギターがジョン、ギターがクラプトン、ベースがキース・リチャーズ、ドラムがジミ・ヘンドリックスの後ろで叩いていたミッチ・ミッチェルという豪華な顔合わせ(※ダーティ・マックという変名バンド)で「ヤー・ブルース」を演奏しています。
そして、そのストーンズも、時を同じくしてやはり50周年記念エデイションをリリースします。こちらは彼らのコアなファンにも傑作の呼び声が高い、『ベガーズ・バンケット』です。11月16日にリリースされます。
リリース形態はCD、LP、デジタルの3フォーマット。限定盤のアナログLPには、「悪魔を憐れむ歌」のモノラル12インチ・シングルと、1968年のミック・ジャガーへのインタビュー(“ハロー!ミック・ジャガーです”1968年4月17日ロンドン–東京)を収録した・ソノシートが“RSVP”のスリップ・ケース付きで収められています。

この作品の直前まで、彼らはいわゆるサイケデリック・ムーブメントにハマっていました。完全にビートルズの『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』後追い感が否めなかった『サタニック・マジェスティーズ』をリリースするなど、バンドの音楽性はガタガタにグラついていました。
まあ、よく言えば流行に敏感、悪く言えば流行りに尻軽なのが、ある意味ストーンズ(というかミック)のお家芸なのですが、とはいえ「こりゃあかん」と一念発起した彼らは、傑作シングル「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」をリリースします。
これが全英1位の大ヒットを記録。大ウケした勢いに乗って、自分たちの原点であるブルース音楽に回帰したロックを追求して生まれた再起作が、ビートルズの『ホワイトアルバム』から2週間後に発表された、この『ベガーズ・バンケット』でした。

今でも彼らのライブで人気の「悪魔を憐れむ歌」、「ストリート・ファイティングマン」、さらにコアファンには名曲の呼び声も高い「地の塩」など全10曲が収録されています。「地の塩」は、バッチリと痩せていた頃のW.アクセル・ローズ(ガンズ&ローゼズ)とのデュエットバージョンでお届けしましょう。
この1968年、アメリカ映画では、『2001年宇宙の旅』、イギリス映画では『ロミオとジュリエット(※英伊合作)』、ミックの彼女だったマリアンヌ・フェイスフルが主演した『あの胸にもういちど(※英仏合作)』、『チキチキバンバン』、『Ifもしも・・・・』などが公開されています。
ちなみにこの年、現6代目ボンドのダニエル・クレイグがイングランド・チェシャー州チェスターで産声を上げています。さらにちなみにですが、彼は『慰めの報酬』時の『GQ』におけるインタビューの中で『(ビートルズ派?ストーンズ派?というクエスチョンに、「ストーンズ派」と答えていました。

この年の時事を振り返ると、プラハの春、ベトナム戦争(※戦争中)、キング牧師暗殺、ケネディ暗殺、フランス水爆実験と、不穏な出来事ばかりでした。ヒッピーやサイケ、ドラッグの誘惑に満ちた血なまぐさい60年代の終盤を、ビートルズはメンバー個々の個性と芸術性を追求することで、またストーンズは原点に回帰することで、それぞれにサバイブしようとしていたことが分かります。

そして、ここからビートルズは徐々に崩壊の足音が聞こえはじめ、ストーンズは“オルタモンドの悲劇”(※フリーライブで黒人の観客が会場警備に銃殺された)を経由して、それぞれ大きな転換期となる1970年代へと向かっていくのでした。

周知の通り、ビートルズとストーンズは良きライバルであり友人同士でした。特にポールとキースは今日もかなりの仲良しです。バカンスで顔を合わせては、余生やサイドビジネスなど、あれこれと語り合っているのだとか(笑)。ストーンズは現在ツアー中。そしてポールはこの10月に来日公演を行います。

前回も書きましたが、今年はこの秋から冬にかけて、クラプトン、クイーンの関連映画も公開されます。そう、ファンはピンときていると思いますが、前述のジョージとクラプトンがスタジオを共にした「ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウィープス」は、このクラプトンの映画における彼のヒストリーにおいて、大きな影を落とすこととなる象徴的な1曲でもあります。いずれにせよ、UKロック好きには賑やかな季節となりそうですね。この2作についても、追ってこの場所で触れていけたらと思います。

今も活躍するレジェンドたちがアーリーデイズに残した作品は、60年代終盤という時代の空気をもそのままパッケージしていると言えるでしょう。新たな発見に出会えるかもしれない2枚の50周年記念盤、よかったらぜひチェックしてください。ではまた!

Text by Uchida Masaki

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内田 正樹

内田 正樹

エディター、ライター、ディレクター。雑誌SWITCH編集長を経てフリーランスに。音楽をはじめファッション、映画、演劇ほか様々な分野におけるインタビュー、オフィシャルライティングや、パンフレットや宣伝制作の編集/テキスト/コピーライティングなどに携わる。不定期でテレビ/ラジオ出演や、イベント/web番組のMCも務めている。近年の主な執筆媒体は音楽ナタリー、Yahoo!ニュース特集、共同通信社(文化欄)、SWITCH、サンデー毎日、encoreほか。編著書に『東京事変 チャンネルガイド』、『椎名林檎 音楽家のカルテ』がある。

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